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箱庭都市のソウルゲーム ~壁越しに出会った彼女と、俺は~  作者: YY


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15/23

第15話 情報屋

 翌日の早朝訓練後、汗を流してガレンの拠点に向かう。

 バトル大会で強力な異能者と戦うことを想定していたが、森での特訓じゃ限界があるな……。

 はっきり言って焦りはあるものの、出来ることをするしかない。

 やがて目的地に着いたのだが、今日はいつもと違う展開が待っていた。


「おう、セシル」

「セシくん、おはよう~」

「おはようございます、お兄様!」


 何故か、全員が外で出迎えてくれた。

 単独エントリーがバレたのかと焦ったが、そんな雰囲気じゃない。

 微かに鼓動が速くなっていたことを感じながら、少し冗談っぽく返事した。


「おはよう、皆。こんなところに集まって、どうしたんだ? いよいよ、ガレンの部屋に我慢出来なくなったか?」

「おい! どう言う意味だよ、セシル!?」

「そのままの意味だ。文句があるなら、少しは掃除しろ」

「こいつ……たまにズケズケ言いやがるな……」

「それで? 実際はどうしたんだ?」

「実は、たまには外で食べようと言う話になったのです。よろしければお兄様も一緒に、中央区画の喫茶店に行きませんか?」


 両手を胸の前で握ったエルナは、問い掛けの形を取っていたが、拒否を許さない満面の笑みを浮かべている。

 そんな彼女を可愛らしく思いつつ、頭を撫でて柔らかく告げた。


「勿論、行こう。気分転換も大事だからな」


 これに関しては、自分自身に言っている側面が強い。

 俺の気持ちに気付いた訳じゃないはずだが、エルナは両手をパンと打ち鳴らして、嬉しそうに声を上げた。


「良かったですわ! では、ガレンさんとフローラさんも、行きましょう!」

「なんか釈然としねぇが……そうだな」

「うふふ~。楽しくて良いじゃない~」


 こうして俺たちは中央区画に出向いたのだが、やはりと言うべきか雰囲気は良くない。

 全体的に殺気立っており、主に紅区が他区画に敵意を向けていた。

 蒼区と黒区、白区も、警戒の度合いは高まっている。

 これが、バトル大会の効果……。

 『サーカス』の狙い通りだとしたら腹立たしいが、敢えて軽い口調で言い放つ。


「さぁ、行くか。席が埋まっていたら大変だからな」


 先んじて足を踏み出して、喫茶店へと入って行った。

 ガレンたちも遅れず付いて来て、4人で丸テーブルを囲む。

 その後、それぞれがメニューを注文したのだが――


「ご、ごゆっくりして下さい」


 この店に限らず、以前から店員の態度は微妙におかしかった。

 仕事自体はしっかりしてくれるものの、気にならないと言えば嘘になる。

 ガレンたちも同じ思いらしく、不思議そうにしていた。

 ここは、はっきりさせておくか。

 そう決めて、店員を呼ぼうとした、そのときだった。


「店員はゲストって呼ばれてて、俺たちのようにどこかから連れて来られたみたいだぜ。ソウルゲームが終われば、解放されるんだとさ」


 突然、そんな声が聞こえて来た。

 驚いて振り向いた先には、20代前半くらいの青年。

 明るい茶髪に緑の瞳、地味だが整った顔立ち。

 俺たちから少し離れた席で、のんびり紅茶を飲んでいる。

 どうしたものか悩んでいた俺をよそに、ガレンが真っ先に問い掛けた。


「誰だ、お前? それと、今の話は本当か?」

「あぁ、悪い。自己紹介がまだだったな。俺はジャスパー。あんたらと同じ、黒区のプレイヤーだ」


 そう言って青年……ジャスパーさんは立ち上がり、俺たちの席に歩み寄りながら、魔道端末を見せて来た。

 なるほど、確かに黒区のプレイヤーだ。

 まぁ、ネックレスを見ればわかることではある。

 すると、魔道端末を仕舞ったジャスパーが、もう1つの質問に答えてくれた。


「今の情報の真偽だが、まず間違いない。もっとも、ソウルゲームが終わったら解放されるかどうかは、実際のところわかんねぇけどな。ただ、ゲストの連中は、そう言う説明を受けてるみたいだぜ」

「道理で、どこか落ち着きがない訳ですわね……。彼らも、被害者と言うことですか……」

「そうなるな、エルナ。ちなみに、ゲストの収入源は俺らの個人ポイントだ。だから、嫌でも働かねぇと駄目なのさ」

「なるほどですわ……って、どうしてわたくしの名前を知っているのですか!?」

「見くびるなよ? 俺はこれでも、情報屋なんだ。同区画のプレイヤー名くらい、把握してるに決まってんだろ。まぁ、その代わり、戦闘はからっきしなんだけどよ」


 そう言ってジャスパーさんは、嘆息しつつ肩を竦めた。

 確かに、大した魔力は感じないが……。

 エルナは、どこか胡散臭そうにしている。

 一方で俺には、気になることがあった。

 端的に聞こうとしたが、先に尋ねてくれたのはフローラ。


「その情報屋さんが、どうしてゲストのことを教えてくれたの~? 貴方にとっては、商売道具じゃないのかしら~?」

「良いところに気付いたな、フローラ。簡単に言えば、名刺代わりだよ。今後、何かあったら聞いてくれってな。勿論、そんときは情報に応じて、個人ポイントをもらうぜ」


 親指と人差し指で丸を作って、悪戯っぽく笑うジャスパーさん。

 タダじゃ教えてくれないのか……。

 まぁ、彼にとっては、生きる為に必要なことなんだろう。

 人知れず納得していると、神妙な顔で腕を組んでいたガレンが、魔道端末を取り出しながら口を開いた。


「そんじゃ、早速情報を買いてぇんだが、各区画のバトル大会への参加状況はわかるか?」


 心臓が大きく跳ねた。

 反射的にジャスパーさんを見ると、一瞬だけ視線が合ったが、すぐに逸らされる。

 そして彼は、鼻の頭をポリポリと掻いて考え込む素振りを見せ、慎重に言葉を選んだ。


「まぁ、ある程度ならわかるぜ。精々、各区画の傾向ってところだけどな」

「充分だ。いくらだ?」

「特に紅区は、難易度が高かったからな。20000と言いてぇが……あんたらには今後も世話になりそうだから、10000で良いぜ」

「OK、交渉成立だ」


 ニヤリとした笑みを交換した、ガレンとジャスパーさん。

 1人だけに支払わせるのは忍びないと思い、俺もいくらか出そうとしたが、ガレンは視線で制して来た。

 仕方ない、今回は甘えさせてもらおう。

 そうして個人ポイントのやり取りを終え、ジャスパーさんが満足そうに言葉を紡いだ。


「毎度あり。各区画の、バトル大会への参加状況だったな。そんじゃ、わかり易い蒼区と白区から行くか」


 蒼区と聞いた俺の頭に浮かんだのは、当然の如くティア。

 無意識のうちに身を乗り出しそうになったが、なんとか堪える。

 するとジャスパーは、順番に情報を開示して行った。


「両区画とも、全員不参加になったみたいだな。蒼区は代表のミカエラが大々的に宣言してるから、かなり信憑性が高い。白区は明言してねぇけど、メンバー同士が話してるのを聞いたんだ。まぁ、罠の可能性もゼロじゃねぇが……ほぼ間違いねぇ」

「全員……? 本当に、全員不参加なんですか?」

「だから、そうだって。いきなり信じろとは言い難いけどよ、俺だってプライドを持って商売してんだ。まぁ、ただ……最終的には個人の判断だからな。100%とは言い切れねぇよ」


 思わず詰め寄った俺を手で押し留め、ジャスパーさんはやや困った表情で頷いた。

 その段階になって、ようやく緊張していた体が緩む。

 全員と言うことは、ティアも出ないんだよな……?

 人知れずホッとしていた俺をよそに、ジャスパーさんは気を取り直したように続きを語った。


「1番危険そうな紅区だけどよ、リーダー格のバルが主導して、大勢出るようだぜ。具体的に誰が出るかまでは、わかんねぇけど。黒区に関しても、紅区ほどじゃないがそれなりに出るみたいだな」

「そうか……。良く調べたな、助かったぜ」

「はは、それだけが取り柄みたいなもんだからな。また良い情報を仕入れたら、買ってくれよ。じゃあな」


 別れを告げたジャスパーさんは踵を返し、歩み去った。

 彼の情報が事実だとすれば、敵は紅区に限られるな。

 ティアと戦わなくて済むのは、正直なところ有難い。

 最大の問題はルージュが出るかどうかだが……こればかりは、締め切り日になるまで不明だ。

 などと思考を巡らせていた俺の意識に、ガレンの明るい声が割り込む。


「まぁ、取り敢えず食おうぜ。あと、酒だ」

「ガレンさん、朝からお酒ですか!? わたくしも、お腹は減りましたけれど……」

「わたしもよ~。セシくんもじゃない~?」

「あ……あぁ、そうだな。それじゃあ、食べるか」


 いつの間にか注文が揃っていたことに気付いて、慌てて話を合わせた。

 そうしてガレンは豪快に、フローラは上品に、エルナは小さな口で、それぞれの料理を食べ始める。

 俺も皆に倣おうとして――立ち上がった。

 突然のことにガレンたちは驚いていたが、早口で声を発する。


「すまない、用事が出来た。あとでガレンの拠点に向かうから、そこで合流しよう」


 一方的に話を打ち切って、喫茶店をあとにした。

 そのまま通りを駆け――


「ティア!」


 店から見えた、彼女の背中に声を投げる。

 振り向いたティアの目は、真ん丸になっていた。

 そして今の彼女は、1人じゃない。


「キミは……黒区のプレイヤーね。ティアに何の用かしら?」


 敵対的とまでは言わないまでも、注意深くこちらを観察しているのは、煌びやかな金髪の女性。

 白金の鎧と輝く長槍を装備しており、なんとなく太陽を想起させた。

 ティアを手で庇うようにして、前に出ている。

 他区画ながら好感を持てたが、今はそれどころじゃない。


「ティア、キミは……バトル大会に出るのか?」


 ジャスパーから蒼区は全員不参加と聞いたが、自分で確かめずにはいられなかった。

 金髪の女性は俺の言葉に、目を鋭くさせた。

 だが――


「大丈夫です、ミカエラさん。彼は……敵ではありません。少なくとも、今は」


 金髪の女性……ミカエラさんを押し退けて、俺の前に来たティア。

 ミカエラさんは一瞬止めようとしていたが、何かを察したのか、引き下がっている。

 俺の意図を知ってか知らずか、ティアは無表情で黙り込んでいるが、よくよく考えれば、自区画の情報を簡単には教えないか……?

 自分がどれだけ考えなしだったか痛感し、質問を取り下げようとしたその前に、彼女が小声で言葉を口にする。

 このとき俺は、情報の真偽を確かめながらも、本音を言えば安心していた。

 実際、ティアは不参加を表明――


「出ます」


 しない。

 頭が真っ白になった。

 右手で首元を押さえ、震える口をなんとか動かし、言葉を紡ぐ。


「そんな……。蒼区は、全員不参加じゃなかったのか……? それとも、情報が間違っていたのか……?」

「いいえ、その情報は合っています。わたしも本来なら、不参加でした」

「だったら、どうして!」

「わたしのわがままです。蒼区の方針は、他区画との争いを避けて、『サーカス』を討つこと。しかし、だからと言って区画ポイントで差を付けられるのは、看過出来ませんでした」


 一切の迷いもなく、こちらを真っ向から見つめて告げるティア。

 嘘だ――と言いたかったが、それを許さない力が込められている。

 そこに、ミカエラさんが嘆息とともに、不本意そうな声を発した。


「あたしは反対したんだけどね。でもティアって、変なところで頑固と言うか……。『貴女が許可を出さなくても、勝手にエントリーします』とまで言われちゃ、どうしようもないでしょ?」

「だからって! 彼女にだけ、危険を背負わせて良いんですか!?」

「そこまでです、セシル。他区画の貴方に、蒼区の内情に口出しする権利はありません」

「……! ティア……」


 揺るぎない瞳で見つめて来るティアと、逃げ出しそうな俺。

 だが、彼女が必死に何かを堪えていることに、俺は気付いていた。

 そして、今の自分に出来ることがない現実にも。

 そのことに歯噛みしていたが、ティアは何やら口を開こうとしては閉じる動作を、繰り返していた。

 もしかして……。

 彼女が何を言おうとしているか悟り、咄嗟に言葉を滑り込ませる。


「突然、悪かった。またな」

「あ……」


 聞くだけ聞いて、あっさりとその場を離れる。

 我ながら酷いな。

 しかし、彼女に俺が出場することを、まだ知られたくない。

 ティアとミカエラさんの視線を背中に感じつつ、逃げるように集落を目指した。

 そして、エントリー締め切りの日がやって来る。

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