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箱庭都市のソウルゲーム ~壁越しに出会った彼女と、俺は~  作者: YY


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14/23

第14話 裏切る

 集落に戻り、ガレンの拠点に入り、4人で輪になって座る。

 そして、ガレンの第一声が――


「さて、どうする?」


 だった。

 当然、「何が?」とは誰も言わない。

 だからと言って、他の言葉を並べ立てることも出来なかった。

 重苦しい沈黙が室内に落ち、時計の針の音だけが、やけに大きく聞こえる。

 すると、大きく息を吐いたガレンが、天井を見上げながらポツリとこぼした。


「俺は、参加するべきじゃないと思う。区画ポイントは魅力的だが、危険が大き過ぎるからな」


 普段の態度からは想像出来ないほど、真面目な顔。

 そんな彼に続いて、目を細めたフローラが口を開く。


「わたしも、今回は様子を見たいわね~。イベントだって1回とは思えないし、またチャンスはあるわよ~」


 彼女の言っていることも、わかる。

 仮に今回の優勝や準優勝を他区画に取られたからと言って、黒区の負けが決まる訳じゃない。

 今後のイベントで巻き返せる可能性も、充分にあり得た。

 そこに――


「わたくしは、参加しようと思いますわ」


 意外な発言が耳に入って来た。

 唖然として振り向いた俺が見たのは、スカートをギュッと握って、口を真一文字に引き結んでいるエルナ。

 ガレンは困ったように頭を掻いており、フローラは眉を下げている。

 しかし、エルナが翻意する様子はなく、真っ直ぐな声で自身の考えを述べた。


「バトル大会は、1対1の戦い。アンジュなら、誰にも負けませんわ。次にチャンスがあるとしても、取れるポイントは取るべきです。先の保証など、どこにもないのですから」


 いつになく、エルナの口調は強い。

 そのせいか、ガレンとフローラは反論出来ないようだ。

 エルナの主張に、一定の論理があることも、一因だろう。

 だが――


「俺は反対だ」

「……! お兄様……?」


 バッサリと、エルナの覚悟を切り捨てた。

 彼女の目尻に涙が浮かび、何事かを言いかけていたが、機先を制する。


「アンジュが強いことは、認める。1対1で勝てる者が、そう多くないだろうことも」

「で、でしたら!」

「だが、アンジュ……【ソロ・ガーディアン】には、決定的な弱点がある。それは、エルナも良くわかっているだろう?」


 わざと鋭い目を、エルナに向けた。

 それを受けた彼女はビクリと肩を震わせ、視線を床に落としてポツリと呟く。


「……発動中、わたくしが無防備になることですわ」

「そうだ。そのことを思えば、【ソロ・ガーディアン】は完全に1対1に向いている異能とは言い難い。本領は、仲間と連携を取ってこそ、発揮される力だろう」

「ですが……みすみす他区画に、大きく後れを取る訳には行きません!」


 ポロポロと涙をこぼして、訴え掛けて来るエルナ。

 その姿を見ていると、否定するのが心苦しくなる。

 それでも……ここで首を縦には振れない。

 エルナに身を寄せて優しく抱き締め、背中をゆっくりと撫でた。

 彼女は腕の中で身を固くしていたが、気付かぬふりをして、噛んで含めるように言葉を連ねる。


「大丈夫だ。ガレンとフローラも言っていただろう? 今回は危険が大き過ぎるし、チャンスは他にもきっとある。まだ、慌てる段階じゃない」

「お、お兄様……」

「良く名乗りを上げてくれた。でも、無理をしなくて良いんだ。エルナの気持ちは、皆に伝わっている」

「ふ……ふぇ……えぇぇぇん!!!」


 堪えていたものが決壊したのか、エルナが俺の胸に縋り付いて来た。

 こんな少女に、ここまでの思いをさせるだなんて……許さないぞ、『サーカス』。

 やがて、泣き疲れて眠ってしまった彼女を、床に敷いたタオルの上に横たえ、ガレンとフローラに言い放つ。


「2人も、今回は不参加ってことで良いんだな?」

「まぁ……そうだな」

「セシくんの言う通り、無理するには早いわよ~」

「わかった。じゃあ、この話はここまでだ。フローラ、悪いがエルナを拠点に送ってやってくれるか? 女性の部屋に、男の俺が勝手に入るのは問題があるだろう」

「はいは~い、了解よ~。じゃあ、またね~」


 軽々とエルナを背負ったフローラは、手を振りながらガレンの拠点を出て行った。

 俺も行くか。

 そう考えて、ガレンに断りを入れようとしたが、彼は何やら難しい顔をしている。

 まさか、気付かれたか……?

 内心の動揺を隠して、表面上はあっさりと告げた。


「俺も今日は帰る。他のプレイヤーの様子も、見ておきたいからな」

「……わかった。また明日な」


 ガレンは何か言いたそうだったが、最終的には黙って見送ってくれた。

 彼の拠点をあとにしたところで、盛大に嘆息する。

 皆……すまない。

 口に出さずに謝罪しながら、集落を歩き回った。






◇ ◇ ◇






 同時刻、紅区のバルの拠点で――


「で? いきなり呼び出しておいて、何の用だ? つまんねぇことだったら、ぶっ飛ばすぞ?」


 ダガガの苛ついた声が響いた。

 対するバルは呑気に酒を呷っており、余計にダガガの神経を逆撫でしている。

 更にこの場には、もう1人の姿があった。

 壁に寄り掛かって、キャンディーを舐めているルージュ。

 我関せずと言った様子で、目も向けていない。

 そんな殺伐とした空気の中で、バルは唐突に口を開く。


「ダガガ、取引をしねぇか?」

「あぁ? 王である俺と、取引だぁ?」

「そうだ。今度のバトル大会に出場して、優勝してくれよ。テメェなら楽勝だろ?」


 煽るような口調で、ダガガに問い掛けるバル。

 一方のダガガは馬鹿にするように鼻を鳴らし、居丈高に言い返した。


「誰に言ってやがんだ? 当然、優勝して全ての愚民どもに、誰が真の王か思い知らせてやるぜ。ただ、テメェの思い通りになるのは気に食わねぇな」

「くく、そうかよ。だからこその、取引だ」

「あん? どう言うことだ?」

「なぁに、簡単な話だ。テメェがバトル大会に出て優勝してくれたら、紅区トップの座を譲ってやるよ」

「ふん。譲られるまでもなく、奪ってやるぜ。優勝すりゃ、俺の力は全区画に知れ渡る。そうすりゃ、自然と愚民どもはひれ伏すだろうよ」

「かもな。けどよ、俺様の支配下にいる連中は、そう簡単には行かねぇ。心底、俺様に恐怖してやがるからな。だが、テメェが優勝すりゃ、区画ポイントが100も入る。そんな功績を叩き出されちゃ、流石の俺様も身を引くしかねぇぜ」


 飄々と言葉を口にするバルを、ダガガは凝視した。

 しかし、バルは全く気にした様子もなく、酒を飲み続けている。

 どこまでも不遜な態度に舌打ちしながら、ダガガは声を荒らげて宣言した。


「良いぜ、乗ってやるよ。その代わり、約束を反故にしたらぶっ殺すからな?」

「わかった、わかった。そのときは、お前の好きにさせてやるよ」

「言ったな? 吐いた唾は飲めねぇぜ?」

「おー、意外と難しい言葉を知ってんじゃねぇか」

「舐めんじゃねぇよ! とにかく、テメェの時代はもう終わりだ! 俺が名実ともに王になったら、紅区をぶっちぎりで勝たせてやる! 今のうちに、精々ふんぞり返っていやがれ!」


 言い捨てたダガガは、肩を怒らせて歩み去った。

 その背中を見やりながら、バルは上機嫌に声を発する。


「は。相変わらず、馬鹿な野郎だぜ。どこにどんな異能者がいるかわからねぇ現状で、わざわざリスクを取る奴がいるかよ。これで俺様は高みの見物が出来るし、あの馬鹿が優勝すりゃ、それはそれでラッキーだ。仮初めの玉座はくれてやる。最終的に俺様が勝てたら、それで良いんだよ」


 空になった酒瓶を、床に叩き付けるバル。

 ガラスが砕け散る音が鳴ったが、ルージュはやはり歯牙にもかけない。

 だが、バルは気分を害すこともなく、次の手を打った。


「ルージュ、テメェは出んじゃねぇぞ? 今の時点で、紅区の切り札を他区画に明かすのは悪手だ」

「は? なんであんたに、指図されなきゃなんないのよ。面白そうな奴を見付けたし、そいつが出るならあたしも出るわよ」

「駄目だ。そのうち暴れさせてやるから、今は我慢しとけ」

「だから、指図は受けないって。ここに来てやっただけでも、感謝しなさいよね。それじゃ」


 あっさりとバルを見限ったルージュは、拠点を出て行こうとしたが――


「あのガキ、リンとか言ったか? 最近、テメェに懐いてるみてぇだな。荒くれ者が多い紅区で、無事でいられれば良いがな」


 ピタリ、と。

 ルージュの足が止まる。

 それを見たバルはほくそ笑み、嘆かわしそうな表情を『作って』からのたまった。


「ほとんどの連中は俺の指示に従ってるが、たまに暴走する奴がいてな。そう言う連中が、弱い奴をいたぶることがあんだよ」

「……だから? あの子がどうなろうと、あたしには関係ないわよ。絡まれてたのを気紛れで助けてやったら、勝手に引っ付いて来るようになっただけなんだから」

「そうだったな。今のは独り言だ、忘れてくれ」


 それっきり、バルは黙り込んだ。

 一方のルージュは暫く立ち止まってから、再び歩き出す。

 拠点を出ると、彼女を恐れている他の紅区プレイヤーたちが、避けるように道を開けた。

 だからと言ってルージュが気にすることはなく、口の中のキャンディーを味わう。

 彼女にとって、セシルと戦うチャンスを失ったのは残念だが、いずれ必ず全力でぶつかるつもりだ。

 そのときのことを思い浮かべたルージュは、戦意を高揚させてキャンディーをガリっと噛む。

 間もなく、目的地である区画の外れに到着し、瓦礫の山に腰掛けると――


「あ! ルージュお姉ちゃんだ!」


 エルナと同じくらいの、幼い少女がルージュに駆け寄った。

 髪は栗色のショートカットで、少し汚れたワンピースを着ている。

 それを見たルージュは、あからさまに顔を顰めたが、少女は意に介さず隣に座った。

 上機嫌に鼻歌を歌っており、怪訝に思ったルージュは問い掛ける。


「リン、何か良いことでもあったの?」

「え? これと言ってないけど……あ! ルージュお姉ちゃんに会えた!」

「……いつも引っ付いて来る癖に、何を言ってんのよ」

「えへへ~」

「はぁ……」


 ウンザリとした様子で、溜息をつくルージュ。

 紅区では泣く子も黙ると言われる彼女だが、リンだけは別だった。

 最初は追い払っていたルージュも、あまりのしつこさに諦めている。

 そうして並び合っていた2人だが、リンが何かを思い付いたように口を開いた。


「そう言えば、ルージュお姉ちゃんはバトル大会に出るの?」

「……出ないわよ」

「え!? 意外だね。絶対出ると思ってた」

「あんたには関係ないでしょ?」

「そうだけど……。でも、紅区からはたくさん出るみたいだよ。バルさんの指示なんだって」

「……ふーん」


 気のない返事をしたルージュ。

 だが、本心ではバルの指示と言う言葉が、引っ掛かっていた。

 自分には出るなと言ったくせに、ダガガともう1人で、優勝と準優勝を独占するつもりらしい。

 慎重なのか大胆なのか良くわからないが、恐らく両方だろうとルージュは考えている。

 リンが少し不思議そうにしていることに気付いたルージュは、何か聞かれる前に黙らせることにした。

 リュックサックからキャンディーを取り出し、ぶっきらぼうに押し付ける。


「あげる」

「良いの!? わーい!」


 喜色満面でキャンディーを舐め始めたリンをしばし見つめ、ルージュは目を逸らした。

 このとき、彼女が考えていたのは――


(セシルは出るのかな?)


 1度手合わせした、少年の動向だった。






◇ ◇ ◇






 集落を歩きながら、他のプレイヤーの声に耳を傾けてみると、当然と言うべきかバトル大会の話題で持ち切りらしい。

 誰がどう決断するか不明だが、俺は既に決めている。

 人気のないところで立ち止まって魔道端末を取り出し、画面を確認した。

 そこには新たに、バトル大会へのエントリー項目が、追加されている。

 開いた先には、『参加』の2文字。

 危険が大きい。

 様子見するべき。

 チャンスは他にもある。

 まだ慌てる段階じゃない。

 全て、本心だ。

 しかし、その上で――『参加』を押した。

 間違いなく受け付けられた旨が知らされ、背筋が凍る。

 この選択は、まさしく苦渋の決断だ。

 仲間たちを救う為に、仲間たちを裏切ると言う矛盾。

 ティアには生き残って欲しいが、俺が勝ち進めば進むほど、追い詰めることになるジレンマ。

 それでも、紅区や白区にポイントを与えるよりは、マシだと思えた。

 だが、ティアが出場して、対決することになったら……本当に俺は、戦えるだろうか……?

 それに、別の誰かと戦った彼女の身に、何かあったら……。

 嫌な想像を無理やりに打ち消し、森の中へと入って行く。

 特訓の為だったが、無意識のうちにティアと会うことを、期待していたのかもしれない。

 結局、その日に彼女と会うことはなく、何かを振り払うように戦い続けた。

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