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箱庭都市のソウルゲーム ~壁越しに出会った彼女と、俺は~  作者: YY


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13/23

第13話 秘める

 夜が明けて、今日も1日が始まる。

 箱庭に来て、まださほど経っていない。

 それでも人間は順応するものなのか、俺は規則正しい生活を続けていた。

 早朝訓練を行い、シャワーを浴び、朝食を食べ、8時の更新による人数変動を確認する。

 この中で、人数変動の確認をする際は、毎日身を固くしてしまう。

 今日もガレンたちと食事のあとに、集落中央の魔映盤の前に来ていた。

 他のプレイヤーも気になるようで、ほとんどの者が集まっている。

 そうして、いつも通りアナウンスがあったが――


 蒼区:99人

 紅区:99人

 黒区:98人

 白区:99人


 良し、脱落者はいないな……。

 ソウルゲームが始まって1週間近く経っても、一向に勝利に近付いていないことを思うと、頭を抱えたくなる。

 だが、その反面、死人が出ていないことには、胸を撫で下ろさずにはいられない。

 このまま殺し合いが起きなければ、ゲーム自体が成り立たなくなるんじゃないか?

 イベントがあるとか言っていたが、それも無視すればもしかして……。

 チラリと周囲を窺う。

 ガレンは難しい顔で腕を組んでおり、フローラは笑顔ながら目は笑っていない。

 エルナは不安を隠せていないものの、毅然とした面持ちをしていた。

 他の黒区プレイヤーたちは、若干浮ついてすらいる。

 流石に楽観的過ぎるが……正直、気持ちはわかってしまった。

 ところが次の瞬間、自分がいかに浅はかだったかを、思い知ることになる。


『プレイヤー諸君、久しぶりだな。ゲームマスターだ。30分後にイベントの告知をするから、中央区画に集まるように。例によって来なくても構わないが……後悔するぞ?』


 アナウンス後、ほどなくして響いた不快な声。

 遂に、来てしまったか……。

 首元に触れていた手を離し、胸の高さで軽く握る。

 改めて周囲を見渡し、困惑している他のプレイヤーを尻目に、ガレンたちとアイコンタクトを取った。

 同時に頷いて、揃って中央区画へ。

 相も変わらず騒々しい、カラフルな区画を歩み、施設の前まで来た。

 既に数多くのプレイヤーが揃って――


「あ……」


 背後から聞こえた声に、反射的に振り向く。

 そこに立っていたのは、やや硬い表情のティア。

 俺としても心にゆとりなどないが、敢えて微笑んでみせた。

 すると彼女は小さく息を飲み、首元に手を添えて髪をかき上げてから、歩み寄って来る。

 視線は合わさず、真っ直ぐ前を向いていたが、すれ違いざまに小さく口が動いた。


「気を付けて下さい」


 その一言が、どれだけ俺の力になったことか。

 去り行くティアは、やがてパーティらしきメンバーと合流した。

 煌びやかな金髪の女性と、2人の男性。

 確かなことはわからないが……強いな。

 いずれ戦うかもしれないと考えれば、かなり厄介な存在。

 ただし、ティアを守ってくれるのなら……有難い存在。

 そのとき、覚えのある視線が注がれた。

 若干の警戒心を持って振り返った先には、獰猛な雰囲気を撒き散らしたルージュ。

 近付いて来る様子はなく、こちらを見ながらキャンディーを舐めている。

 ギャップが凄まじいな……。

 溜息をつきそうになったが、ルージュから目を逸らして気を入れ直す。

 そのとき――


『良く集まってくれた。では、早速イベントの内容について話そう』


 魔映盤の上に、『サーカス』が勢揃いした。

 レイシスのことを思い出して、体が強張るのを実感する。

 そんな俺の肩を、大きな手が軽くポンと叩いた。

 驚いて視線を巡らせた俺と、ガレンの目が合う。

 彼は何も言わなかったが、堂々とした佇まいが、俺を落ち着かせた。

 小さく顎を引いて頷き、満足そうなガレンから目を離して、ゲームマスターを見据える。

 そんな俺の心情など知ったことかとばかりに、奴は意気揚々と語り始めた。


『まずは、見てもらうものがある。魔映盤に注目してくれ』


 その言葉と同時に、魔映盤がある風景を映し出す。

 これは……中央区画の敷地の1つか?

 怪訝に思っているのは俺だけじゃなさそうだが、すぐに変化が起こる。


「え……!?」


 思わず声が漏れた。

 映像の中の敷地が、数秒で様変わりしたからだ。

 簡単に説明するなら、四方に配置された4つの円形ステージのようなもの。

 更に、その中央にも同じ形状のステージがある。

 極め付けは、それらを取り囲む、階段状の観客席。

 脳裏に、ある可能性が浮上したが、掘り下げる間もなくゲームマスターは続けた。


『驚いたか? 今のは、古代魔道具、イマジナリー・デザインによるものだ。我らはこれを、3つ所有している』


 イマジナリー・デザイン……。

 またしても知らない古代魔道具が出て来たが、3つと言うことは、それぞれの敷地に対応させているのか?

 だとすれば、イベントは最低でも3回はあるのかもしれない……。

 先のことを考えそうになった俺を、止めようとした訳じゃないだろうが、ゲームマスターは本題に取り掛かる。


『イベント名は、バトル大会。そのままだが、プレイヤー同士で戦い、優勝者を決める大会だ』

「バトル大会……?」

「要するに、俺らに戦えってのか!?」

「もう! 結局こうなるの!?」


 次々と上がる、プレイヤーたちの声。

 やはり、その手のイベントか。

 となると、あのステージのようなものは、試合……いや、殺し合いの舞台と考えるのが妥当。

 戦慄が走るが、ゲームマスターは意に介さない。


『参加は任意のエントリー制で、先着50人まで。参加者は、締め切り日まで非公開とする。組み合わせは、完全ランダムだ』

「え? てことは……」

「参加しなくても、良いってこと……だよね?」


 周囲のプレイヤーから、困惑した空気が漂って来た。

 むしろ、俺もその1人。

 何故なら、任意のエントリー制など、参加する訳がないと思ったからだ。

 ところが、ゲームマスターはそれらを無視して、マイペースに次に移る。


『4ブロックに分かれたトーナメント制で、各ブロックの優勝者による準決勝と決勝を行う』


 そうなると、それなりに勝ち上がらなければ優勝は出来ない……って、そうじゃないだろう。

 こんなイベント、そもそも参加する必要などないんだ。

 他のプレイヤーたちも、半ば聞き流している者が多い。

 頭ではそう考えつつ、どうしても嫌な予感が拭い去れなかった。

 そして俺の予感は――


『重要なのは、ここからだ』


 現実のものとなる。

 明らかに、ゲームマスターの声のトーンが変わった。

 まるで、楽しいことを待ちわびている、子どものように。

 奇妙な緊張感が漂う中、奴は告げる。


『優勝者と準優勝者が所属する区画は、区画ポイントを獲得出来る。準優勝が50ポイントで、優勝が100ポイントだ。つまり、同じ区画が独占出来れば、一気に150ポイント得られる。あとは副賞として、優勝者には個人ポイントを100000与えよう』

「はぁッ!?」

「150ポイントって……嘘でしょ!?」

「今でも100ポイントねぇってのに、150も取られたらぶっちぎられるじゃねぇか!」

「それに、個人ポイント100000って……。暫く何もしなくても、生活出来ちゃうじゃない……」


 ようやく事の重大さを理解したのは、俺だけじゃない。

 他のプレイヤーも、同じようだ。

 それまでは『サーカス』に向いていた敵意や殺気が、分散している。

 あたかも、それぞれの区画を、敵と認識し直したかのように。

 このままじゃ、本当に殺し合いが始まってしまう。

 どうするべきか必死に頭を働かせたが、もう何もかもが遅かった。


『相手の殺害、あるいは気絶、もしくは降参で決着が付く。あぁ、同区画が当たった場合は、話し合いによる勝ち残りを認める。結果的に進めるのは1人だが、無駄な争いをしなくて済むようには配慮しよう』


 だからエントリーしろ……とでも言いたげだな。

 真意は不確かだが、大きくは外れていない気がする。

 実際効果はあったようで、今もプレイヤーたちが、静かに牽制し合っていた。

 そんな俺たちを嘲笑うかのように、ゲームマスターは締め括る。


『締め切りは、3日後の午前8時までだ。無論、それまでに枠が埋まればエントリーは打ち切る。何せ、他区画と大差を付けられる機会だ。モタモタしていたら、あっと言う間に定員になるぞ? エントリーはこの瞬間から、魔道端末で行えるようになった。諸君の参加を待っている』


 その言葉を最後に、『サーカス』は姿を消した。

 辺りに視線を向けると、早くも魔道端末を操作している者もいる。

 そのままエントリーまで行くのかは、定かじゃないが……。

 無意識にティアの方を見てしまい、彼女と視線が交錯した。

 そのまま時間が経過したが、意を決したようにティアが歩み寄って来る。

 少し離れた場所で止まった彼女は、平然とした顔と声で問い掛けて来た。


「セシルは、出場するのですか?」

「……まだわからない。ティアは?」

「わたしも、まだ断言は出来ません」

「そうか……」

「ただ、1つだけ約束して欲しいことがあります」

「約束……?」


 真剣なティアの物言いを怪訝に思いつつ、真意を尋ねる。

 すると彼女は、何度か躊躇してから、はっきりと告げた。


「仮にわたしと戦うことになっても、手を抜かないで下さい」

「……ッ! それは……」

「お願いします。そのときは、わたしも本気で戦いますから」


 嫌だ。

 そう言いそうになったが、ティアの強い眼差しが俺の口を縫い付ける。

 腹を括るしかない……か。


「……わかった」

「結構です。では、失礼します」


 あっさりと言い残したティアは踵を返し、仲間たちの元に帰って行った。

 小さくなって行く背中に手を伸ばしかけて、やめる。

 何をしているんだ……。

 苛立ちが募り、地面を蹴り付けたくなったが――


「行くぞ、セシル」


 ガレンの力強い声が意識に割り込み、我に返った。

 振り返った先には、3人の仲間たち。

 腰に手を当てて、泰然としたガレン。

 フローラは淑やかに立ち、軽く手を振っている。

 胸の前で手を組んだエルナの瞳には、強い光が宿っていた。

 彼らに見つめられたことで、体に活力が戻って来ている。

 そうだ、1人で考え込まなくても良い。

 ……だが――


「あぁ、行こう」


 わざと明るく声を発しながら、集落に帰るべく足を踏み出した。

 誰にも言えない、決意を秘めて。

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