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箱庭都市のソウルゲーム ~壁越しに出会った彼女と、俺は~  作者: YY


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第11話 知り得ぬこと

 ここは、紅区。

 砂利が敷き詰められた道に、土と石で出来た拠点。

 風が吹けば砂埃が舞い、あちらこちらにゴミが散乱している。

 どこか殺伐としており、剣呑な雰囲気が充満していた。

 セシルに粗野な者が多いと評されていたが、まさにそう言った特徴が出ている。

 その中でも、ひときわ荒んだ空気に満ちた場所があった。


「それで? 結局、返り討ちに遭って終わりかよ?」

「す、すみません! ですが、あいつらメチャクチャ強くて……」

「言い訳なんざ、聞いてねぇんだよ。何なら、俺様がここでぶっ殺してやろうか?」

「ひッ……!? そ、それだけは許して下さいッ! 次こそ必ず、お役に立ってみせますからッ!」


 元々の拠点を――他の紅区プレイヤーを使って――改築した、巨大な建物の中。

 豪華な椅子にふんぞり返った青年に、5人の紅区プレイヤーたちが平伏している。

 5人は、セシルとガレンに撃退されたメンバーだ。

 対する男は、野蛮を具現化したような存在である。

 燃え盛る炎のような深い赤髪に、凶悪そうな鈍色の瞳。

 肌は褐色で、上半身裸の上から民族衣装のような軽装を羽織っているが、足元は裸足。

 バルと言う名の、紅区の暴君だ。

 口元は笑みの形を作っているものの、目は全く笑っていなかった。

 そのことを知っている5人は、恐怖で顔を上げることが出来なかった。

 ところが――


「まぁ良い。今回は許してやるよ」

「ほ、本当ですか!? 有難うござ――」


 ガバッと顔を上げた男性が、喉を硬直させる。

 いつの間にか椅子から降りていたバルが、長く鋭い右手の爪を、首筋に添えていたからだ。

 明らかに自然に伸びた爪ではなく、何らかの異能だと思われる。

 添えるだけで皮を裂き、男性の喉元を1筋の血が伝い落ちた。

 目を見開いて完全に硬直しているが、バルは構わず言葉を叩き付ける。


「次はねぇ。わかったら、死ぬ気で働くんだな」

「は、はい……」

「良し、行け。今度こそ、良い報告を待ってるぜ」

「わ、わかりましたッ! 行くぞ、お前らッ!」


 即座に立ち上がった男性を筆頭に、5人は転びそうになりながら走り去った。

 だが、バルは既に興味を失っており、酒瓶を片手に椅子にドカッと座り直す。

 乱暴にラッパ飲みしつつ、彼は今後の動き方を思案していたが、そこに闖入者が現れた。


「邪魔するぜ」


 了承を得る前にバルの拠点に乗り込んで来たのは、縦にも横にも大きく逞しい、スキンヘッドの大男。

 頬には裂傷の跡が残っている。

 金の鎧や華美なネックレスにイヤリング、宝石の付いた複数の指輪など、派手に着飾っていた。

 ただし、巨大な戦斧を担いだ巨躯からは、圧倒的な力を感じる。

 紅区でもトップクラスの実力者で、名はダガガ。

 バルの支配下に入っていない数少ないプレイヤーの1人で、ことあるごとに絡んでいる。

 今回も挑発的な態度で、座ったままのバルを睥睨していた。

 対するバルも、尊大な仕草で足を組み替えながら、敢えてふざけて言い返す。


「良く来たな、ダガガ。一緒に飲むか?」

「けッ! 相変わらず、ムカつく野郎だ。テメェの顔を見る度に、傷跡が疼いて仕方ねぇぜ」


 忌々しそうに顔を歪めつつ、頬の裂傷の跡を指先でなぞるダガガ。

 この傷は彼らが初対面のときに、バルが付けたもの。

 それ以来、2人は対立しているのだが、直接的な戦いには発展していない。

 ダガガから強烈な殺意を放たれても、微塵も揺るがないバルは、酒を1口呷ってから声を発した。


「で? 今日は何の用だよ?」

「いいや、別に? ただ、テメェの恐怖政治もいつまで続くかと思ってな」

「あん? どう言う意味だ?」

「テメェのやり方は、みみっちいんだよ。手下どもにばかり働かせやがって、見てられねぇぜ。仮にも頭を張ろうってんなら、もっと自分の力で戦ったらどうだ? 俺ならもっと、圧倒的な力で全てを支配してやるぜ」

「くく、脳筋なテメェらしいな。仮にそうだとしたら、どうするってんだ?」

「決まってんだろ? 暴君を気取ってるテメェを引き摺り下ろして、俺が紅区を牛耳ってやる。そうすれば、勝ち残りは確定だぜ」

「なるほどな。中々、面白ぇ冗談だ」

「あぁ!? テメェ、舐めてんじゃねぇぞッ!?」


 戦斧を構えたダガガが、魔力を高めた。

 頭に血が上っており、止まる気がない。

 ところが――


「やめとけよ、ダガガ」


 バルの殺気が、部屋の空気を重く沈める。

 高ぶっていたダガガの頭が冷え、損得勘定が働いた。


「……ふん。ここで潰し合っても、他区画を喜ばせるだけだ。今日は預けてやるが、いつまでもその椅子に座っていられると思うなよ?」

「そう言われてもな。これは俺様の椅子なんだから、どうしようが自由じゃねぇか」

「いつまでも、ふざけてろ。良いか、覚えとけ。王は、2人もいらねぇんだ。そんで紅区の王は、この俺だ。テメェじゃねぇ」

「それを決めるのは、それこそテメェじゃねぇよ。テメェに懐いてるのが、何人いる? この状況が、答えじゃねぇか。なぁ、裸の王様?」

「ちッ! マジで口だけは達者だな。その良く回る口、俺の前では開けなくしてやるぜ」


 戦斧を肩に担ぎ直し、ダガガは鼻を鳴らす。

 バルの答えも聞かずに背を見せ、大股で歩み始めた。

 殺気を撒き散らし、苛立っているのは明らかだが、完全に平静を失ってはいない。

 そんな危うい彼を恐れている者は多い反面で、少数ながら頼りに思っているプレイヤーもいる。

 その事実を正確に認識しているバルは、スッと目を細めた。


「はん、ウゼェ野郎だ。まぁ、もう少しは遊んでやるよ」


 ダガガに聞こえないように声を漏らし、バルはまた酒を口にする。

 バルの拠点を出たダガガは、肩を怒らせながら立ち去ったが、そんな彼を冷めた目で見つめる者がいた。


「……ホント、馬鹿みたい」


 溜息交じりの、ウンザリとした声。

 昨日、中央区画での騒動を目撃して以来、セシルに注目し始めた紅区の少女のものだ。

 口の中のキャンディーに歯を立て、座っていた瓦礫の山から腰を上げる。

 そして、足を踏み出した先は――


「あの黒房の方が、よっぽど面白かったわね。……ちょっと行ってみよっかな」


 中央区画。

 獰猛な気配を撒き散らし、キャンディーを噛み砕いた。

 すぐに新しいものを取り出し、ペロリと舐める。

 歩みは軽やかだったが、周囲のプレイヤーは萎縮していた。






◇ ◇ ◇






 朝日の差し込む森の中。

 モンスターとの戦闘を繰り返し、荒れた呼吸を整える。

 昨日はエルナとの出会いに始まり、いろいろとあったが、実のある1日だった。

 ティアとゆっくり話せたのも……まぁ、良かったと思う。

 頬が緩んでしまいそうになるのを堪え、気を引き締めた。

 次なる敵を探しつつ、内心で自分に喝を入れる。

 だが、どうしても、彼女のことが頭を離れない。

 今は、何をしているだろう……。

 距離感に気を付けると言っても、頭で考えるくらいは許される……よな?

 晴れ渡る青空を見上げ、近くて遠い蒼区へと思いを馳せた。

 しかし、今日の俺に縁があったのは、蒼だけじゃなく、紅の少女もだったらしい。

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