~早起きは三文の徳(得?) ② 男のプライド~
「おい大将! 戻ったぞ! さっきは勘弁したが、やっぱり一番ええやつを焼かんかい。三十二文、きっちり払うたるわ!」
「へえ、旦那。……けど、焼けるまで三十二文、ゆっくり数え直してはる間にちょうどええ塩梅に焼けますやろ」
「よしきた。ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな、やぁ……。おい、大将。今、何時だい?」
「へえ、九つ(ここのつ)で。……ほう、旦那。さすが船頭さんはええ体してまんな。それだけ男ぶりがええと、泣かせたおなごの数も数えきれんのでっしゃろ?」
店主の突然の褒め言葉に、熊公は鼻の下を伸ばした。
「ま、まあな。十人でっか、二十人でっか?」
「……いやぁ、こう見えて奥手でな。まあ、五人かな」
「ほぉー! さすがでんなぁ。ほな旦那、勘定の続きをどうぞ。……えーと、次は、いつ(五)でしたな?」
「……お、おう。いつ、むぅ、なな、やぁ……」
熊公は得意満面で「五」から数え直してしまった。八の次を九と言わせて一文くすねるつもりが、女の数で惑わされ、カウントを戻されたことに気づかない。
「はい旦那。脂の乗り切った三十二文分ですわ。……おやおや、まだ銭が余ってますな。そないに無理しておなごに貢がんと、たまには自分の胃袋も可愛がってあげなあきまへんで」
「あ、ああ……。おう! 取っとけ!」
店主はなに食わぬ顔で銭を収め、ひとりごちた。
「……ふふ。早起きして、タレだけやなくて客の転がし方も仕込んどいて正解やった。徳ならぬ得っちゅうのは、こういうことですわな」




