~時うどん成らぬ時鰻?~②
「おい、そこの二人組! ちょっと待ちなはれ!」
呼び止められた二人組は、面食らった顔で足を止めた。熊公は鼻息荒く詰め寄ると、今聞いたばかりの「うどんの勘定」について根掘り葉掘り聞き出しよった。
「……なるほどな。箸だの鉢だのと褒めちぎって、店主の気をそらした隙に、数を数え間違えるふりをして一文くすねるんか」
兄貴分の方が、ニヤニヤしながら頷く。
「そうでんねん。けどな、これには肝心な『おち』があってな。実はここからが……」
「……へっ、もうええ。そこまで聞けば十分や」
熊公は、男が最後まで説明するのを手で遮った。
頭の中では、さっきのボロい鰻屋の店主を、自分の口八丁でこてんぱんにやり込める光景が、ありありと浮かんでいた。
(あの親父、応仁の乱だのなんだのと人を食ったようなことぬかしやがって。……よっしゃ、今度はこっちが、あの煤けた店を煙に巻いてやる番や)
熊公の口角が、不敵に吊り上がる。
店主に巻き上げられた「三文」の恨みを、倍にして返してやる。その確信に満ちた、嫌な予感しかしない笑み。
「じゃあな。勉強になったわ!」
熊公はひらひらと手を振ると、意気揚々と踵を返し、再びあの鰻屋の暖簾を目指して夜道を突き進んでいった。
二人組は、去っていく熊公の背中を呆然と見送っていたが、やがて若者がポツリと漏らした。
「……兄貴。あの人、肝心な『おち』を聞かんと行ってもうたけど、大丈夫でっしゃろか」
「知らんがな。……まあ、あんな自信満々な顔してんねや。きっと、よっぽどの策士なんやろ」
月の光に照らされた八軒家の浜に、熊公の鼻歌だけが虚しく響いていた。




