~時うどん成らぬ時鰻?~
「ちっ、三文も無駄にしてもた。あの食えない親父め、今度こそはぎゃふんと言わしたるからな!」
三文の銭と引き換えに、煙で腹を膨らませた熊公は、八軒家の浜を肩で風を切って歩いていた。腹は満ちたはずだが、どうにも収まりがつかない。
そんな熊公の前から、何やら浮かれた調子で歩いてくる二人組があった。一人は羽織をだらしなく着崩した男、もう一人はその弟分らしき若者で、どちらも寄席の帰りなのか、上機嫌で笑い合っている。
「いやぁ、今日の寄席はおもろかったなぁ。おもろい言うか、勉強になったわ!」
男が手を叩いて笑うと、若者も興奮した様子で身を乗り出した。
「おう、ほんまにほんまに! 兄貴、あのうどんの代金をごまかすやつ、あれ凄かったなぁ。……今度、わいもやってみたいわ」
「バカ言え、おまえにできるかい。あのアホなフリして『今、何時だい?』って聞く間が大事なんや。あんな風に、スッと勘定をごまかせたら、これぞ浪花の粋っちゅうもんやな」
二人はうどんの屋台を探すようにキョロキョロと辺りを見渡し、熊公のすぐ脇を通り過ぎようとした。それを聞いた熊公の足が、ピタリと止まる。
「……勘定をごまかす?」
ついさっき、煙の代金としてきっちり三文を巻き上げられたばかりの熊公にとって、その言葉は聞き捨てならなかった。
(ほう……。世の中には、こっちが金を払うどころか、店を煙に巻いて安く済ませる手口があるんか)
熊公の頭の中で、さっきの店主の不敵な笑みが浮かんだ。
「おい、そこの二人組! ちょっと待ちなはれ!」
熊公は、獲物を見つけたような目をして、二人を呼び止めた。




