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~くしゃみ講釈~

「伯父貴! 大変だよ。表の長屋の源さんが、惚れた娘さんの前で『自分は八軒家の大将と兄弟分で、鰻の極意もすべて知っている』なんて大法螺を吹いちまったんだ。それで今、その娘さんを連れて店に来てるんだけど、源さん、緊張してガタガタ震えながら、付け焼刃で覚えた鰻の講釈を必死に語ってるよ」


亀吉が板場の隙間から覗きながら、クスクス笑っています。伯父貴は、わざと鼻をひくつかせながら、大量の山椒の粉を小皿に盛り始めました。


「……ほう。わしの兄弟分やと? 粋な嘘をつきよるな。……亀、源さんの講釈に、わしらが『合いの手』を入れてやらなあかんな」


「合いの手って……何をする気だい?」


「……これや」


伯父貴は、焼き台の火をわざと強くし、そこに山椒の粉をパラリと撒きました。


途端に、板場から客席へ向かって、ピリリと鼻を突く刺激的な煙が流れ込んでいきます。


座敷では、源さんが娘さんの前で、必死に講釈を垂れていました。


「えー、そもそも鰻というものは……ハ、ハ……ハ、クショイッ!!」


源さんの講釈が、大事なところで「くしゃみ」に遮られます。


「失礼、ええ、この焼き加減こそが……ハ、ハ……ハクション!!」


「伯父貴! 源さん、くしゃみが止まらなくて、講釈どころか顔が真っ赤だよ。娘さんも呆れてるし、ちょっとかわいそうだよ!」


亀吉が慌てて止めに入ろうとしましたが、伯父貴はニヤリと笑って、最高のタイミングで特上の鰻重を二つ、座敷へ運び出しました。


「……源さん、お待たせ。……あんたの講釈があまりに立派やったから、山椒も気合が入って舞い踊りよったわ。……さぁ、娘さん。この『くしゃみ』が出るほどの山椒の刺激と、わしの焼いた鰻。……どっちが本物か、あんたの舌で確かめてやってや」


娘さんは、くしゃみで涙目になっている源さんと、目の前の見事な鰻を見比べて、思わず吹き出しました。


「ふふっ……源さん、面白い講釈ね。でも、この鰻は本当に美味しそうだわ」


源さんは、照れ隠しにくしゃみを一発飛ばして、ガツガツと鰻を頬張り始めました。


板場に戻った伯父貴に、亀吉が呆れた顔で言いました。


「……伯父貴、いじわるだね。源さんの格好いいところ、台無しにしちゃって」


「……アホか。わしはな、あいつの『嘘』を、ただの嘘で終わらせんようにしてやったんや。……あんな講釈より、一緒に鰻を食べて笑い合った思い出の方が、よっぽど二人の仲を引っ付けるわ。……山椒サンショだけに、『惨状サンジョウ』を救ってやったっちゅうわけや」


「またそんな、くだらない駄洒落を! 結局、山椒を使いすぎたお詫びだって言って、また小銭を引いてあげてるし!」


「……やかましいわ。……あいつのくしゃみが、いつか『惚れた』の合図に変われば、それでええんや」



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