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~ちりとてちん~

「伯父貴! また例の『つう』を気取った旦那が来てるよ。江戸で一番の鰻を食ってきただの、タレの隠し味を言い当てるだの、知ったかぶりばかりして……。挙句の果てに、『この鰻は少し脂が若いな、もっと珍味はないのか』なんて、偉そうにふんぞり返ってるんだ」


亀吉が板場の隅で、苦虫を噛み潰したような顔をしています。伯父貴は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、棚の奥から少し古くなった「鰻の肝」を取り出しました。


「……亀。その旦那に、これを持っていけ。……『これは、長崎の出島から極秘に仕入れた、南蛮渡来の珍味、ちりとてちんでございます』と言うてな」


「えっ! 伯父貴、これ、ただの焼きすぎた肝じゃないか! しかも、わざと苦い薬味をたっぷり乗せて……。そんなの出したら、怒られちゃうよ!」


「ええから持っていけ。あんな『通』を気取った奴はな、自分の吐いた嘘で首が絞まるもんや」


亀吉がおそるおどる差し出すと、旦那は待ってましたとばかりに身を乗り出しました。


「ほう、これが出島の『ちりとてちん』か! 私も江戸で噂には聞いていたが、まさか浪花で拝めるとはな」


旦那は、あまりの苦さに顔を真っ赤にし、目から涙を流しながらも、震える声でこう言いました。


「……む、旨い! この鼻に抜ける強烈な刺激、まさに本物の『ちりとてちん』だ。……いやぁ、大将、よくぞこれを用意してくれた!」


板場に戻った亀吉は、お腹を抱えて笑っています。


「伯父貴! 旦那、泣きながら完食したよ! 苦しくて死にそうだったくせに、最後まで『旨い』って言い張って。……いい気味だね!」


ところが、伯父貴は少しだけ真面目な顔をして、重箱の片付けを始めました。


「……亀。笑ってやるな。……あの旦那もな、本当は寂しいんや。自分を大きく見せんと、誰にも相手にしてもらえんと思うとる。……嘘をついてまで『通』を気取るんは、この板場という場所に必死でしがみつこうとしとる証拠や」


伯父貴は、空になった皿を眺めて、ポツリと続けました。


「……わしもな、お清がおった頃は、自分を立派な『大将』に見せようとして、つまらん嘘や見栄を張っとった。……あの旦那は、昔のわしの鏡や。……だからな、あんな苦いもんを『旨い』と言わせてしもたお詫びに、明日は最高の鰻重を、黙って並の値段で出してやるんや」


「ええっ! 結局、またサービスするのかい! まさに『ちりとてちんを食らわば皿まで』だね」


「……やかましいわ。……明日は『知ったかぶり』が必要ないくらい、文句なしに旨いもんを食わせてやる。それが、商売下手なりの『情け』や」



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