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~七転び八起き~

「伯父貴……もう、泣きたくなってくるよ。今日、お釣りを渡し間違えるわ、特上の鰻重をひっくり返すわ……。僕、もう商売人失格なのかな。七回どころか、今日一日で十回は転んでる気分だよ」


亀吉が板場の隅で、すっかり意気消沈してしゃがみ込んでいました。伯父貴は、黙って鰻の骨を叩きながら、不愛想に口を開きました。


「……亀。おまはんは、『七転び八起き』っちゅう言葉の、本当の意味を知らんようやな」


「知ってるよ。何度失敗しても、めげずに立ち上がるってことでしょ?」


「アホか。それだけやったら、ただの体力自慢や。……ええか。七回も派手に転んだら、そのたびに地面の硬さや、土の匂いが嫌でも身に染みる。……わしらみたいな商売下手はな、転んだ数だけ、地面に這いつくばっとる客の『目線』がわかるようになるんや」


伯父貴は、焼き台の火を強め、立ち上がる煙を亀吉の方へ扇ぎました。


「おまはんが今日転んだおかげで、次に転びそうな客を見た時に、スッと手を差し伸べられる。……七回転んで、やっと『情け』の掛け方がわかる。そして八回目に起き上がる時は、ただ立ち上がるんと違う。……転んだ時に拾った『土根性』と『恥』を、土産に持って起き上がるんや」


亀吉が顔を上げると、伯父貴はニヤリと笑いました。


「……わしもな、お清がおらんようになってから、毎日転びっぱなしや。銭を数え間違えては損をし、情けをかけては馬鹿を見とる。……けどな、亀。八回目に起き上がる時のわしは、昨日のわしより、ちょっとだけ男前になっとるはずや」


伯父貴は、失敗した鰻の端を亀吉の口に放り込みました。


「ほら、食うて元気出せ。……七回不味まずいもんを食うても、八回目に旨いもんが焼けりゃあ、それが八軒家の勝ちや。……さぁ、起きろ。八回目の焼きに入るで!」


「……へい! 伯父貴、僕、次は絶対にひっくり返さないよ!」



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