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~毒を喰らわば皿まで~

「伯父貴……もう限界だよ。さっきの食い詰め者の浪人さん、特上の鰻を『出世払いだ』って言ってタダで食べた(毒を食らった)だけじゃ飽き足らず、今度は『雨が降ってきたから、傘を貸せ。ついでに家まで送っていけ』なんて無茶を言ってるんだ。まさに付け上がるってこのことだよ!」


亀吉が、泥だらけの暖簾を直しに来て愚痴をこぼしました。


いつもの伯父貴なら「地獄まで送ってやるわ!」と追い出すところですが、今の伯父貴は重箱を洗いながら、溜息混じりに笑いました。


「……亀。しゃあない。傘を貸してやれ。ついでに、明日の朝飯用の白米も一升、包んで持たせてやるんや」


「ええっ! 伯父貴、正気かい? 鰻をタダにしただけでも大損なのに、米まで持たせるなんて。それじゃあ、うちが追い剥ぎに遭ってるようなもんじゃないか!」


伯父貴は、棚から新しい炭を取り出し、真顔で亀吉を見つめました。


「……亀、ええか。商売人にはな、引くに引けん時があるんや。……『毒を食らわば皿まで』っちゅうやろ」


「それ、使い方が間違ってるよ! 悪事を最後まで貫くって意味でしょ?」


「アホか。わし流は違う。……『毒(=食わせたタダ飯)』を食らわせたからには、その『皿(=客の人生の器)』が一杯に満たされるまで、面倒を見てやるっちゅう意味や。中途半端に鰻だけ食わせて、明日あいつが野垂れ死んだら、わしの鰻が『死に水』になってまうやろ。そんな縁起の悪い真似、商売人としてできへんわ」


「……屁理屈だよ! 結局、また損を重ねてるだけじゃないか」


伯父貴は、渋々米を包み始めた亀吉の背中を見ながら、ポツリと独り言を漏らしました。


「……あいつ、お清が昔世話してた近所の坊主に、どこか似とるんや。……あいつにまで死なれたら、わしの『情けの貯金』が底をついてまうわ」


結局、浪人は米と傘を抱え、「かたじけない、この恩は必ず……」と泣きながら帰っていきました。


「……ふぅ。亀、ええか。これが『皿まで』の覚悟や。……でもな、次あいつが来たら、店裏のドブさらいを三日間やらせるからな。そこはきっちり『毒』を回させてもらうで」


「結局、ちょっと怖いんじゃないか!」



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