~梅切らぬアホに桜切るアホ~
「伯父貴! まただよ。表の長屋の連中が揉めてるのを仲裁に入った挙句、結局うちの売り物の鰻を三串も持たせて帰しちゃうなんて。……あの連中、明日にはまた喧嘩しますよ。伯父貴が首を突っ込むから、話がややこしくなるんだ」
亀吉が呆れ果てて団扇を置くと、伯父貴は焼き台の熱をじっと見つめながら、静かに、けれど少しだけ寂しそうに笑いました。
「……亀。おまはんは『桜切るバカ、梅切らぬバカ』っちゅう言葉を知っとるか」
「ええ、庭木の剪定の話でしょ? 桜は切っちゃダメで、梅は切らないとダメだって……」
「そうや。商売も同じや。……客の心にはな、『桜』みたいに、触れんとそっとしておかなあかん誇りもあれば、『梅』みたいに、放っておいたら腐ってしまう未練もあるんや」
伯父貴は、炭を一つ、丁寧に動かしました。
「さっきの喧嘩、あれは『梅』や。わしが首を突っ込んで、余計な枝を鰻と一緒にバッサリ切り落としてやらんと、あいつら一生、腐ったままの仲でいなあかん。……わしが『バカ』やと言われても、あいつらの明日が少しだけマシになるなら、それでええんや」
「……じゃあ、桜のほうはどうするんだい?」
伯父貴は、棚に置いてある、半分に割れたあの「伊万里」をそっと見やりました。
「……桜は、切ったらあかん。……お清の心も、桜やった。わしが余計な一言を言うて、土足で踏み込んで、大切な枝を折ってしもた……。……わしはな、本当のバカやったんや。切ってはいけないもんを切って、一番大事な花を散らせてしもた」
亀吉は、かける言葉を失いました。板場には、タレの焼ける香ばしくも、どこか切ない匂いだけが漂います。
「……さぁ、亀。いつまでもバカの昔話に付き合うな。……わしは今日も、誰かの『梅』を切りに、板場に立つわ。……お代はきっちり頂くで。……と言いたいところやが、あいつらの仲直りの祝いや。今日は二銭だけ負けてやるわ」
「やっぱり負けるんじゃないか! 結局、伯父貴は『梅を切るのも下手なバカ』だよ!」
「……やかましいわ! さっさと重箱を運べ!」




