第十七話 腹黒令嬢は人形剣士の裏取りに励む
シュヴェアートが国王シルトに仕える為だけに育てられたという事実を知ったシャイデ。
その真実を探るべく行動を開始しますが……?
どうぞお楽しみください。
書庫で私は貴族名鑑を閉じた。
……シュヴェアートの年齢を考え、三十年前まで探してみた。
しかし北の地どころかこの国のどこにも、レーレという家は存在しない。
つまりシュヴェアートは、偽りの家名を名乗っているという事だ。
考えられる可能性は二つ。
一つは家名を持たない平民、または家を追われて家名を名乗れない可能性。
だからシュヴェアートが創作して名乗っている、または誰かに名乗るように指示されているのかもしれない。
もう一つは逆に、大きな家名であるが故に隠そうとしている可能性。
前者の場合、陛下に仕える事をシュヴェアートに強要しているのは陛下の周囲の人間となる。
陛下自身はシュヴェアートとほぼ同い年だから、幼少期から自分に仕えるようにするとは考えにくい。
後者の場合は、王家に取り入らんとする貴族の誰か。
「……ふぅ……」
本で調べられるのはここまでだろう。
後はシュヴェアート周りの人間に聞くまでだ。
……誰がいる?
身支度を一緒に整えたフェーティグさんは、既に王宮を去っている。
結婚を機に一度王宮を離れたという話だったから、過去の話に詳しい可能性は高い。
惜しい事をした……。
となれば後は陛下か……。
ってなかなか会えないからシュヴェアートとの関係を築こうとしてるんじゃない!
そして父上は元々王家との関係性はほぼない。
新年に他の貴族とまとめて呼ばれる程度だ。
他に誰か……。
「あの、シャイデ様?」
「は、はい!」
突然の声かけに驚く。
顔を上げると私に王宮に住む事を勧めてくれた侍女、メートヒェンが立っていた。
「すみません、考え事をしておりまして、大変失礼をいたしました」
「いえ、こちらこそ不意にお声をかけてしまって申し訳ありません」
お互いに頭を下げる。
……そうだ。
陛下のお付きの侍女なら、シュヴェアートの過去について陛下から聞いている可能性がある。
駄目で元々だ。
聞くだけ聞いてみよう。
「あの、メートヒェン様」
「……シャイデ様、私は平民の出でございます。子爵家令嬢のシャイデ様に敬称を付けて頂く立場にございません。どうぞ呼び捨てでお呼びくださいませ」
「そうでしたの。作法が整っておられるから、名家の方かと思っておりました」
「そんな……。とんでもないです。シルト陛下の恥にならないよう必死なだけで……」
「いえ、本当に立派ですわ」
これはお世辞でも何でもない。
メートヒェンの所作振る舞いは、貴族の令嬢と比べても遜色のない品位を持っている。
平民からここまでの礼法を身に染み込ませるには、並大抵の努力ではなかっただろう。
自然と敬意が湧いてくる。
「ではメートヒェンさんと呼ばせてください。身分などより貴女のその努力に、私は敬意を払いたいのです」
「……ありがとうございます、シャイデ様……」
深々と頭を下げるメートヒェン。
さて話はここからだ。
「あの、レーレ卿の事についてお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、私で分かる事なら……」
「では、レーレ卿が休みもなく、陛下の護衛に心血を注ぐのは何故か、ご存知ですか?」
「……存じては、おります。ですが、私の口から伝えて良いのかどうか……」
……成程。
事情は複雑らしい。
「ではどなたから伺うのがよろしいでしょうか」
「シュヴェアート様ご本人からか、シルト陛下から伺うなら問題はないと思いますが……」
……今陛下から聞きたいと言えば、メートヒェンは陛下に口添えをしてくれるだろう。
そうでなければここで陛下の名を出さないはずだ。
しかし陛下と会える機会をシュヴェアートの事情を聞くのに使って良いものか……。
ここはシュヴェアートから聞き出してみて、埒が開かないようならメートヒェンにもう一度頼むとしよう。
「ありがとうございます。ではレーレ卿に伺ってみますわ」
「ありがとうございます。では失礼致します」
メートヒェンに丁寧に礼をすると、私は部屋へと向かう。
さてそうなると、あの会話を続けようとしないシュヴェアートをどう攻略するか……。
しかし聞き出すべき内容は決まっている。
私はこれまで重ねてきた交渉の中から、シュヴェアートへの対策を練り始めるのだった。
読了ありがとうございます。
何やら不穏な空気……。
果たしてシャイデはシュヴェアートから聞き出せるのか?
次話もよろしくお願いいたします。




