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第十六話 腹黒令嬢は人形剣士との会話に苦慮する

書庫を自由に使えるようになり、王宮での生活が充実してきたシャイデ。

しかし国王シルトとの関係は未だ築けず、焦りを感じて……。


どうぞお楽しみください。

 王宮に来て三日が経った。

 朝は自分の身支度の後、シュヴェアートの身だしなみを整える。

 その後朝食をいただいてから書庫へ本を返し、新たな本を借りる。

 部屋でしばらく本を読み、昼が近付いたら厨房でシュヴェアートへの差し入れを作る。

 届けた後は私も昼食をいただき、少し庭などを散歩して、本を読み、夕食の支度にかかる。

 シュヴェアートに届けた後は、私も夕食をいただき、身を清めて少し本を読んで就寝。


「……何この楽園……!」


 物心つく頃には、我慢が当たり前だった。

 無いものは諦めるか、自分で作り出すか、それが当然と思っていた。

 それがモイスヒェンが生まれて崩れた。

 この可愛い妹に不自由を感じさせたくない。

 そこからできる範囲で必死に学び、工夫し、十を過ぎる頃には少し離れた領地に馬で乗り付けて領地改革に勤しんだ。

 少しして跡取りとなるフェストが生まれ、その決意は盤石のものとなった。

 気が付けば家事と領地経営に特化した、女として可愛げのない私になった。

 だからモイスヒェンとツァールトが婚約を結んだところで、一つ大きな荷物を下ろせたと思った。

 なのにモイスヒェンは、私が女として嫁がない事を責め立て始めた。

 そこで私は陛下との婚姻を目指した。

 モイスヒェンへの対抗意識が主ではあるが、王妃になる事は間違いなく家のためになる婚姻だと思ったから。

 なのに……!


「こんな生活、幸せすぎる……!」


 シュヴェアートは陛下専属とは言え、領地を持たないただの騎士。

 我がハイルング子爵家にとって、シュヴェアートと私が結婚しても利は薄い。

 しかしそれを度外視すれば、こんな恵まれた生活はない。

 高位貴族の正妻でもなければ、許されない贅沢だ。

 だがまだ我が家にはフェストがいる。

 ある程度特産品の目処が立ったとは言え、貴族としては並の少し下と言った位置の我が家。

 あの可愛い弟フェストが継ぐまでには、我が家の地盤を盤石にしなくては。

 それまではこの安寧に堕する訳にはいかない。

 陛下の寵愛を得た後なら、この生活は最高だけれども……。


「このままではいけない……!」


 言葉に出した私は、本を閉じて立ち上がる。 

 まずはシュヴェアートだ。

 将を射んと欲すればまず馬を射よ。

 あの取りつく島のないシュヴェアートとの関係を良好にして、陛下への足がかりとするのだ!




「シャイデ様。何か御用ですか」

「少しレーレ卿とお話がしたくて……。よろしいですか?」

「分かりました」


 シュヴェアートは私との会話や差し入れを断らない。

 モイスヒェンに対する態度から考えると悪くはないのだろう。

 ただ、


「昨日のお夕食の差し入れはいかがでしたか?」

「特に問題はありません」

「……何かご希望などありますか?」

「作って頂けるだけで十分です」

「……そうですか……」


 この対応……!

 会話を広げようとする意思が全く感じられない!

 どうやったらこの人形剣士と関係を深められるのだろう……。

 何か話題、話題……!


「そ、そう言えばレーレ卿のお誕生日はいつですの?」

「誕生日は藍玉の一日です」

「藍玉の一日!? つい最近では……、って、あ……!」


 陛下主催の晩餐会!

 私と出会ったあの日が、シュヴェアートの誕生日だったの!?

 誕生日に令嬢との縁を結ぼうなんて、なかなか粋な事をなさるじゃない!

 でも二人の関係が公私を超えたものだとしたら、誕生日は二人で祝う方が自然じゃないかしら。

 突き放したようにも思える……。

 とにかく話題を広げよう!


「レーレ卿はこれまで誕生日の贈り物で一番嬉しかったのは何ですの?」

「誕生日に贈り物を貰った事がありません」

「え……?」


 ど、どういう事……?

 陛下から何も貰った事はないというの……?

 いや、それよりも子どもの頃から一度も貰った事がないという事!?

 孤児……?

 いや、それでも孤児院や里親から何も貰えないなんて事あるかしら……?


「……レーレ卿が子どもの頃は、どちらで暮らしていらっしゃったのですか?」

「北の方です」


 ……話す気はない、という事だろうか……。

 いや、ここで引き下がっては駄目だ!


「土地の名前は覚えていらっしゃいませんの?」

「はい。記憶しているのはシルト陛下にお仕えする為に必要な事だけです」

「は……?」

「私はシルト陛下の剣となり、シルト陛下を守って死ぬ。それが私の存在する意味ですから」


 ここでシュヴェアートが口籠ったり頬を紅く染めていたりしていたら、私は狂喜していただろう。

 しかしその言葉にも、顔にも、目にも、何の熱もなかった。

 何もない部屋。

 必要最低限の会話。

 人形剣士。

 それは誰かに造られたものだというの……?

読了ありがとうございます。


ようやくシュヴェアートの背景に触れる事ができました。

それを知ったシャイデはどう動くのか……?


次話もよろしくお願いいたします。

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