第32話
私は慌てて立ち上がり王陛下へ向けてカーテシーをする。
「お久しぶりにございます陛下。クローディア・ユンヴィにございます」
「息災かクローディア。この様な所で会うとは、ユリウスとは仲睦まじくやっているようだな」
「は、はい・・」
まずいわ。こんなところで陛下に会うなんて、突然過ぎる遭遇に動揺して、どう受け答えしていいか全然頭が回らない。
しかし狼狽える私の横で、答えを返したのはユリウス殿下だった。しかしその受け答えは、私にとってあまりにも意外なものであった。
「ご心配には及びません父上。今日は彼女が母にも挨拶をしたいと、わざわざここまで足を運んでくれたのです」
ユリウス殿下は────なんと爽やかな笑顔で、私の腰に手を回してみせたのだ。
で・・殿下・・笑って、る・・?
え? 何で? まるで普通の人みたいで・・変。
私はその対応に恐怖を覚えた。だってユリウス殿下は、本当は全然、普通じゃないもの。こんなの絶対、おかしいもの・・。
「そうか。クローディア、カーラの為にわざわざすまなかったな。礼を言う」
「父上こそ母の為にありがとうございます。たまに花が手向けられているのは、父上の下さったものだったんですね」
ユリウス殿下は父王に向けて頭を下げた。私は慌てて隣でそれに倣う。しかし、下を向いた彼の顔からは、既にあの不自然な笑顔は消えていた。
代わりにその黒色の瞳に揺れていたのは────あまりに深い、憎悪の影。
【そうと知っていれば・・火に焚べてやったものを】
それを見た時、私の能裏に、憎しみのあまりに私を斬り殺した彼の瞳が蘇った。気がついたとき、私は隣のユリウス殿下の腕を、思わず掴んでいた。
「・・クローディア?」
彼が不思議そうにこちらへ向けた視線とぶつかって、私はハッとして掴んだ彼の腕から、手を離した。
「すみません」
でも何て言うか・・戻って来ない様な気がしたから。私を殺した時と同じ────あの闇に堕ちてしまったら。
「また具合でも悪いのか? 戻ろうか。クローディア」
ユリウス殿下は父王陛下へもう一度礼をすると、私の手を取り、引いて歩いた。そのユリウス殿下の手が意外にも暖かくて、私は漠然とした安堵を覚えた。
殿下・・私は殿下に、あんな風に笑って欲しくありません────。




