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第31話

 防衛面から王宮の周りは人工の堀が巡らされており、特に王宮の裏手は切り立った崖となっている。背後からの攻撃は事実上不可能な造りとなっているのだ。崖崩れを防ぐ為、崖の前は林が広がり、果実を実らせるものも多い。籠城時の食糧補給の為か畑も存在しており、それ意外にも厩や倉庫に氷室・・そんな王宮の舞台裏とも言えるエリアである。その林の中にひっそりと、その離宮は存在した。宮と呼ぶには荒れ果てたその建物は、壁は汚れて苔で緑に染まり、ところどころにひび割れが見える。そして設置された小さな窓には、主人を失った後でも相変わらずに、鉄製の格子が付けられていた。


 子供の頃はこの林の中で駆け回って遊んでいたけど、成長した今見ると、鬱蒼として薄暗く、不気味な雰囲気だ。木製の門に付けられた金具の周り既に腐り落ち、傾いてしまっていた。


「お前達はここで待て。この中へ入る事は許さん」


 その門の所でユリウス殿下は、後ろを着いて来ていた護衛兵に冷たい口調で声をかけた。彼等が言われた通りに足を止めると、ユリウス殿下は「足元が悪いから気をつけろ」と言って私へ手を差し出してくれた。


 この中へ入るのはもちろん初めてだった。「宮」とは名ばかりの、ユリウス殿下が母上と共に七年も閉じ込められていた監獄。その中には、侍女が住むような小さな部屋と炊事場。そしてアベリア宮殿とは比べ物にならないほどに小さな庭。とても王族の住まいとは思えぬ環境だ。その庭を囲う塀の隅に・・上に石を積み上げた盛り土がある。ユリウス殿下はその前に、アベリア宮殿の庭で摘んだ花を手向けた。私もそれに倣い、そっと手にした花束を置く。


 こんな所が・・。

 一時は王妃であった方の末路だと思うと余りにも不憫だ。そして何より、ここで一人石を積み上げるユリウス殿下の姿を想像すると・・苦しいような切なさに見舞われて、私は胸を押さえた。


「・・一度もお話し出来ぬままで、とても残念です・・。あの、ご病気ですか・・?」


「・・・・そんなところだ」


【王妃の位を追われた母を弔ったところで君には何の得も無いのに・・相変わらず優しい人だ。母の死の原因を知ったら、きっと君は傷つくだろう】


 ────え?


【早く力を得なければ。誰も逆らえぬような力ある王になって、そして・・母を殺した奴等を、苦痛の限りを尽くしてなぶり殺してやる。その為に俺は王太子になったのだから】


 母を殺した・・? どういう事?

 一体何があったのですか、殿下・・?


【そしてクローディア。君を母と同じにはさせない。俺から君を奪おうとする者は────どんな手を使ってでも始末する】


「・・殿下、母君は・・」


 言いかけた時だった。人の足が小枝を踏み締め、パキっと音を立てたのが聞こえ、私達は同時にそちらを振り向いた。するとそこに立っていたのは、私の予想だにしていなかった人物だったのである。


 しっかりと櫛で整えられた金の髪。絹のブラウスの上に細かい刺繍の施された豪華なウエストコートを着込み、大きなサファイアのカフスが輝く。その身なりは名乗らずとも身分の高い者である事を物語っている。男らしい精悍な顔立ちであるが、碧玉の瞳に宿るどこか冷たい色が、ユリウス殿下に似ていると思った。この国の貴族の家に生まれてその顔を知らぬ者はいない、至上の存在。


「お前も来ていたのか、ユリウス」



 お・・王陛下・・!?


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