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第27話

 久しぶりにユリウス殿下の恐ろしい一面を垣間見た気がする────。


 殿下に着いて庭へ出る。

 ユミルやオーウェンは微塵も私を疑っては居なかったけど・・当の殿下はどう思っているんだろう。いつも斜め上すぎる誤解をしていらっしゃるから・・。私は久しぶりに、視界に浮かんだ「心を読む」ボタンを押した。


【クローディアが俺の為に名前入りのスコーンを用意してくれていたなんて。本当ならば、これほど嬉しい事はない】


 ほっとした。ちゃんと信じていてくれていた事に。


 私達は庭の薔薇園の脇にあるベンチに腰を下ろしていた。この時期は薔薇の季節で、一面に甘い香りが立ち込める。傍の人工の池に、色とりどりの薔薇達が映り込み幻想的な景色を映し出していた。これを見に散歩してきたのかと思っていたのだが、殿下はそこで、一つの包みを私に差し出した。


「これを君に」


 包みを開けると・・そこには一つのスコーンが包まれていた。


「これ・・」


 まさか殿下がお作りになった・・訳は無いか。


「俺が作った」


「え!?」


「昔は時間を持て余していたから、一通りの料理は自分で作れる」


「そうなんですか・・凄い、お上手ですね。頂きます」


 口へと運んでみると、表面のサクッとした食感の後、今度はふわっとした軽やかな食感と共に、淡い紅茶の香りが鼻へ抜ける。明らかに私のよりも美味しい。自分が情けなくなるお味です。


 そして欠けたスコーンの中から顔を覗かせた・・一枚の紙片。もちろんそれは、ユリウス殿下の名前の書かれた────。


「・・殿下はどうして・・変わらず私を想って下さるのでしょう・・」


 思わず口をついて出たとしか言いようがない。自分の言葉にハッと我に返って、慌てて取り繕った。


「あ、そのっ・・花を差し上げたっていうのはそうなんですけど・・でもそれだけで、私は特別美しくもないですし、優秀という訳でもないですし・・」


 いくらあの頃の殿下にとって救いだったとはいえ、未だに殿下の寵を独占しているのは不可解であるとしか・・。でもこんな事を面と向かって聞くのは、やはり不躾だったわね。後悔して私は下を向いた。


「・・君は変わらないな」


「え?」


「皆が手の平を返して俺を忘れ去った中、君だけが俺を気遣ってくれた。そして俺が再び立太子したその後も、君は特別、その優しさの度合いを増す事もなかった」


 ユリウス殿下のあの黒曜石の様な瞳。あの闇を切り取った様な黒色の奥に、ひっそりと浮かぶ輝きに魅せられて私は彼の瞳から視線を動かせなくなってしまった。


「俺に価値があろうと無かろうと、君は変わらない。俺は君の・・その潔白な優しさが好きだ」


 ────名前入りのスコーンを渡せなくて良かったのかもしれないと、その時に思った。


「スコーンをお渡し出来なくて申し訳ありません・・」


 婚約者という立場に流されたというだけの、どこか自信の持てなかった想い。その不純の入り混じったスコーンは、多分この方の欲しているものでは無い。


「次はきっと・・お渡しできると良いなと思います・・」


 来年またやってくるディア・アミスタ。その時には胸を張って、「名前入りのスコーン」をこの方に渡せたら良い。心から、そう思った。


 殿下の作ったスコーンを再び口に運ぶ。軽やかな甘さと香りが、口の中をいっぱいに満たしていく。殿下の純粋な想いと共に────。


【クローディアが俺の作ったものを口から体内に入れている・・。深く考えていなかったが、なんだか食べ物を食べさせるという行為は、妙な気分になるものなんだな・・】


 ・・ん? 殿下?


【・・こんな事なら俺の×××(自主規制)をこっそり混入させておけば良かっ】


「オェぇぇぇぇ!!・・」


 殿下の心の詰まったスコーンは、あえなく草花の肥やしと成り下がった。


「どうしたクローディア! 大丈夫か!?」


「も、申し訳ありません。とても美味しかったのですが、朝からスコーンの食べ過ぎで突然胃もたれが・・!」


 信じられない。どうしていつもこんなにガッカリさせるんですか。殿下の思考回路はやはりちょっと異常だと思います(泣)

 これ以来私は、殿下の手作りのものは今後一切口にしないと誓ったのでございます────。





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