表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/57

第26話

 一応、紙入りのスコーンを一つ用意してみたのですが・・。一つずつ油紙に包み、リボンをかけていく。

 何となく気乗りしないのはやはり、殿下に対する想いにいまいち自信がないからだろう。


「あれ。そういえば紙入りと入ってないのと、間違えて渡したら大変な事になるわよね。何か分かるように目印でもつけていないと」


 殿下用の紙入りはリボンに名前を記載しておいた。紙入りを作ったのは初めてだから戸惑ってしまったわ。


 翌日、予想の通り、学園はスコーンを配る女子達でてんやわんやしていた。私も結構な数のスコーンを貰い、返しであっという間に時刻は昼休憩に入る。

 最近ではカフェテリアで殿下と昼食を共にしていて、オーウェンやユミルも何故か同席しているので、三人にはそこで渡す事にした。


 しかし。予想外の人物がそこに割り込んでくるのである。


「ご機嫌よう。ユリウス殿下、オーウェン様、それにユミル」


 アーシャ・ディアスは豪奢な金髪を輝かせ、今日も華やかな美貌に笑顔を咲かせてみせた。


「ご機嫌よう、アーシャさん」


 笑顔を返すも、若干身構えてしまう。最近大人しいから安心していたのに、また何か面倒くさいこと言われるのかな。ユミルなんかはあからさまに嫌そうな顔してる。


「何かご用ですか? 僕達は昼食をとるところなので手短にお願いします」


 絶対お前は入れないよ? ていう言い方ね・・。でも貴方を誘った事も、実は無いのだけれどもユミル?


「そんなに邪険にせずとも良いではありませんか。ただ皆様に、スコーンをお渡ししようと思っただけですわ」


 アーシャさんの手にはスコーンを入れた籠が抱えられている。邪険にしていた割にユミルとオーウェンは早速それに手を伸ばして口へと運んだ。ユミルが本当に「影」と呼ばれる隠密なのだとしたら、これは毒味という事なのか? 


(王族を護る隠密という事は、単純にユリウス殿下を護っているのでは? 殿下はどうして「狙い」だなどとあんなに警戒しているのかしら・・あ、でも、他国の刺客という線も捨てきれないから・・)


 オーウェンはただの食いしんぼうね。朝から大量にスコーンを貰っている筈なのに「クローディアのは?」と催促をしてきたけど、この男に飽きるという文字は無いのだろうか。私も籠を取り上げ、まずは殿下にお渡しするスコーンの包みを確認し、手に取る。


「殿・・」


「きゃぁっ!!」


 隣であがったアーシャさんの叫びに驚いて目を向けると、彼女は口元に手をやり、青ざめた様子でテーブルの向こうを指さした。


「あ、あそこに今・・ゴ◯◯リがっ・・」


 え?


 一同が彼女の指さした方へと視線を動かすも、そこにアイツは見当たらない。


「・・いないみたいだぞ?」

「そ、そうですか・・見間違いかしら・・?」


 気を取り直して皆にスコーンを渡したのだけど、しかし異変は、オーウェンが早速私のスコーンに手をつけたところで露見した。なんとオーウェンのスコーンの中から、紙が出てきたのである。


 ────え??


 私は一瞬、唖然としてしまった。渡す前にちゃんと確認したはずなのに、間違えた・・? するとそこへ、アーシャさんの狙い澄ました一言が。


「まぁ。クローディア様、殿下の婚約者でいらっしゃるのに、まさかオーウェン様に名前入りのスコーンを!?」


 口元を手で抑え、信じられないといった風に大袈裟に驚いてみせる彼女の姿に、全てを理解する。なるほど、さっきのゴキ騒動で意識を外した隙にすり替えたのね。相変わらずなんていうくだらない事を・・。間違えただけだと反論しようとしたところ、私より先に声をあげたのはユミルであった。


「何言ってるんです。さっき貴方がすり替えたんでしょう? 相変わらずくだらない」


 ユミルの絶対零度の冷たい一言に、アーシャさんの身体が凍りつく。気づいてたのね。さすがユミル。


「なっ・・何を言うの! しょ、証拠を見せなさいよ!」


「別に証明する必要ないです。誰も貴方の言う事なんて聞いてませんので」


 ユミル冷たっ!


「な、何ですって!? 失礼じゃない、たかが子爵家の出が・・」


「証拠ならあるぞ」


 激昂するアーシャさんに対し、次に声をあげたのはオーウェンだ。


「俺昨日、こいつが殿下に名前入りのスコーンを渡すのかどうか気になって、スコーン作ってるところ盗み見てたんだけど」


 なんですと??


「そしたらちゃんと一個名前入り作ってて・・それを見分ける為にどうしようかちょっと悩んで、リボンに目印つける事にしたんだよ。あの文字量から察するに、マークとかじゃなくて名前を書いたんじゃないかと・・」


 オーウェンはスコーンの包みを結んでいたリボンを調べ、そしてそれを見つけると、名探偵さながらの得意顔でそれを一同へ見せつけてみせた。


「ほらね。ここに『ユリウス殿下』って書いてあるだろ?」


 恥ずかしいわーーーー!! 解説すな!!

 ああ。めちゃくちゃ顔が熱い。私の無実を晴らそうとしてくれてるから何にも言えないけど、今オーウェンを思いっきり殴りたい気持ちです。


 真っ赤な顔で私はただ下を向いた。すると今度はユリウス殿下が、立ち上がりこんな事を言った。


「少し外へ出ないかクローディア。ここは邪魔者が居て、少々騒がしいようだ」


 アーシャ・ディアスへ向けて、ユリウス殿下は氷のように冷たい一瞥を送った。そして彼女の籠からスコーンを一つ手に取ると、彼はなんと、アーシャさんの目の前でそれを握り潰してみせた。


 その時のアーシャさんの悲壮な表情は忘れられない。


(そ、そこまでしなくても)


「もうよいではありませんか。行きましょう、ユリウス殿下・・」


 私は慌てて殿下の袖を引いた。最後に見た彼女の美しい顔は、不憫なほど青白く見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ