第24話
私の口調が変わった事に気がついたのか、囃し立てていた周りの令嬢達が動きを止めた。
「それはユリウス殿下から直々に頂いたもの。貴方が触れる事を許した覚えはありません。これ以上の暴挙は許しませんよ。アーシャ・ディアス」
私が詰め寄ると、アーシャは今までの威勢は何処へやら、狼狽えて視線を宙へと彷徨わせ始めた。
「な、何よ。また家の威光を借りての圧力? 恥ずかしくはないの貴方っ・・」
「貴方と私のどちらが美しいかと問われれば、それは私も、貴方の方が美しいと思いますよ」
私は更にアーシャに詰め寄る。キレたときの自分がどんな顔をしているのかは分からないけれど、この狼狽方を見ると、結構怖いんだと思う。
「私が貴方を今まで咎めなかったのは、どちらが美しいかなどという下らない事には、全く興味が無いからです。貴方も王太子妃になりたいのなら覚えておいた方がいいですよ。国のトップの人間は、美しさを理由に妃を決めません。王妃の仕事とは国をより良き方向に導く事。寵を争うのは愛妾達の仕事であって、王妃の仕事ではありません」
────宮廷は魑魅魍魎の蔓延る場所。
嘘や建前、嫉妬に欲・・そこは常に人々の後ろ暗い感情で汚染されている。そのようなところに一人で立ち向かうのは、きっととても心を擦り減らせる事だ。だからこそ王と王妃は、手と手を取り合い立ち向かうのだ。魔物達の甘言に惑わされる事なく、国を正しい方向へ導く為に。
私が得るべきなのは一時の寵ではない。それは殿下の『信頼』なのだ。殿下が私に真心をくれたのならば、私はそれを全力で護りたい。
私は後退ろうとするアーシャの手から、あの御守りを奪った。狼狽える彼女に駄目押しの忠告を添えて、ニッコリと笑って見せた。
「単純に殿下の寵が得たいのならばどうぞご自由に、自慢の美しさで勝手に努力なさいませ。邪魔立てなど致しませんよ? 貴方が分不相応にも、正妃の座を手に入れようと言うならば話は別ですが」
アーシャに冷たい一瞥をくれてから踵を返すと、彼女達の中にはもうそれを呼び止める者はいなかった。やれやれ、何年か振りにブチ切れさせて貰ったわ。これで少しは大人しくなってくれるといいのだけれど。
そして次の日────私の学園生活は一変した。
「おはようございますクローディア様!」
「お、おはよう・・」
朝からやたらと声をかけてくる女学生達に、私は戸惑いながらもなんとか、挨拶を返す。既に私の席の周りには、結構な人だかりが出来ていた。
ど、どうしたのコレは・・?
「今まで失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした」
「私達アーシャさんに命令されて逆らえなかったんですぅ。私達の家、事業でアーシャさんと付き合いがあって・・」
「でも私達、昨日のクローディア様の毅然とした態度を見て、思い直しました!」
「とってもカッコよかったです!」
「あ、ああ・・それはどうも・・」
要はアーシャを見限って私に鞍替えしたという・・何という面倒くさい事になったのでしょう・・。
チラリと横目をやると、アーシャさんは一人俯きがちに席に座っていた。自業自得とは言え、そのなんとも寂しげなこと・・。私はこういった派閥争いのような事は好まないのだけれど。そのうち落ち着いたら、どうにかしてあげないといけないわね。
そして────私はユリウス殿下の方を見た。
ユリウス殿下は今日も、あの冷たい表情のまま、前を向いていた。まるでこちらの事は意に介していないといった表情で。前の人生では、ずっと私には興味が無いのだと思っていた。だから無視されているのだと。だけど今は・・。
(殿下は私の交友関係が広がるのを良く想っていないわよね・・)
その心の内を読めば確認できることだけど・・どこか恐ろしい気がして、その日はボタンを押すことが出来なかった。




