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第23話

 その日の午後、例の如く空いてる階下のお手洗いへ向かっている途中、私は数名の女子グループに連行された。


「随分と居丈高ですこと。女性に相手にされないからってこれ見よがしに男性を侍らせて、さすが身分の高い公爵家の姫君は違いますわね」


 アーシャ・ディアスはその美しく整えられた眉に限界までの皺を寄せて、私を睨みつけてみせた。早速これですか。その行動力には感服致します。


「侍らせてなどいないし、自慢する様な事とも思わないけれど・・持ってきていたお弁当を誰かに駄目にされてしまったから、仕方がなかったのよ」


「まぁ。それは災難でしたわね。その様な仕打ちを受けるなんて、余程日頃の行いが悪いのかしら」


 ・・・・どう考えても犯人貴方でしょうが。やり合うつもりは全然ないけれど、私だって人生二回目。少しばかりの嫌味くらいは言ってやりたい。


「・・そうかもしれないわね。まさか嫉妬なんてつまらない理由でこんな幼稚な嫌がらせをするご令嬢も居ないでしょうし」


 アーシャさんはますます目を吊り上げた。怖い。美人が台無しですよ?


「まぁ。お認めになるとは一体どんな悪事を重ねていらっしゃるのかしら。さすがはユンヴィ公爵家の姫君だわ。ユリウス殿下は立太子される条件として貴方様との婚約を挙げたというではありませんか。一体どんな根回しをされたのか、ユンヴィ公爵家のなんと手の早いことと宮廷では専らの噂ですわよ」


 アーシャさんが憎々しげに謂れのない糾弾を始めると、周りにいた令嬢達も口々に囃し立てる。


「酷いわ。公爵家の圧力で殿下を思い通りにしようだなんて」

「殿下がお可哀想とは思わないのですか?」

「ユリウス殿下の態度がお変わりになられたのも、何か圧力をかけたのでしょう? 殿下は前はあんなに、クローディア様を嫌っていらっしゃったのに。人の心をそんな風に動かそうだなんて、いつか天罰が降りますわ」

「アーシャさんの方が美しいからって、焦っていらっしゃるのでは?」

「家柄が無ければ、クローディア様がご婚約者に選ばれる事などあり得ませんものね。アーシャさんどころか、他のご令嬢達にも見劣りますもの」


 口々に私を責め立てた後、クスクスと彼女達は笑った。私を見下し、馬鹿にして。


 私だってどうして私がって思うわよ。貴方達と違って私は、王太子の婚約者になど微塵もなりたくなかったのに。だけどこの国に厄災が降りかかるのを防ぐために頑張ってるんじゃない。今だって出来る事なら変わってあげたいわよ。なのに人の気も知らないで、ごちゃごちゃと面倒くさい事を・・!


 いい加減苛立ちを募らせていた私。そこへ更に追い討ちをかける様に、アーシャさんは私の鞄に付いていた、あの恋御守りを乱暴に引きちぎった。


「ユリウス殿下に貰ったとでも言いたいの? 本当に嘘ばっかりの、プライドが高い人ね!」



 ────なるほど。これが最も彼女のプライドを傷つけたという事なのか。

 だけど貴方達はそれに手を出してはいけなかった。いくら気弱な人間だとて、キレる事くらいあるんですよ。だってそれは────ユリウス殿下の心の詰まったものだから。


 

 前世で私を斬り殺した、未来の魔王。

 私は相変わらず、あの方が恐ろしい。


 だけどあの時────初めて見せた笑顔と共に、忘れられないほどの喜びを与えて下さったのは、紛れもない事実だから。



「それを返しなさい。アーシャ・ディアス」


 

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