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第21話

 このブリタニア王立学園は貴族階級の指導を目的とする学園。よって座学の他、男子は武術、女子は茶会などの社交会マナーなどが叩き込まれる。当然、上級貴族の令嬢令息は家で既にそれらの勉強を嗜んでいる事が多く、成績は良いのが常。


 今日は男子は剣術の手合わせです。


「きゃぁっ。ユリウス殿下、また勝ちましたわ!」

「お強いのねぇ。素敵!」


 武術の花形とも言える剣術の指導は、何故か女子も見学が義務付けられている授業・・強い男に惹かれるのは女性の本能なのでしょうか。当然ながら、黄色い声が飛び交っているのです。

 しかしユリウス殿下・・離宮の中で監禁されていた筈なのに、どうしてこんなに剣が使えるのでしょう? 気になった私は以前、殿下の心を読んでみたのですが。


【強い? 当たり前だ。筋トレに剣の稽古は俺の日課。毎日欠かさず続けてきた。イメージトレーニングは完璧だ。いつか殺したい奴を殺せる時に、確実に仕留める為にな・・】


 という事だそうです。相変わらず闇深いお方です。


 授業が終わると、女性達は意中の人にタオルを渡すというのが恒例となっており、それがきっかけで成立するカップルも多いのだとか。私同様、諦めている女子達は、その喧騒を遠巻きに眺めるのが常。そして何故か、私の隣には男子である筈のユミル・ガーベリアの姿もある。なんでも武術は大の苦手で、いつも見学してるらしい。


「わー。ユリウス殿下の周り、相変わらず凄い人だかりですね」

「本当ねぇ・・」


 二人で呑気に喧騒を眺めていると、ユリウス殿下の周りに出来た人の群れが、群れごとこちらへと移動してくるのが見えた。


 あ。この辺り、通りそう。


 ・・あれ。なんか路からコースアウトして、こっちに・・


 群れを引き連れたユリウス殿下の姿がどんどん大きくなってくる。そして最終的に彼は、私の目の前で足を止めた。


(来たーーーーー!?)


 え? な、何? 前の人生ではユリウス殿下が私に声をかけてくる事なんてなかったから、完全に油断してた! これはもしかして、婚約者なんだからタオルくらい差し出せという無言の圧力なんでしょうか??


「あ・・ハンカチで宜しければ、どうぞ・・」


 圧に負けてハンカチを差し出すと、彼は短く「どうも」とだけ言って額の汗を拭いた。ユリウス殿下の濡れた様な黒髪が汗に纏わりつく様が、なんだか妙に色っぽい・・と見惚れたい所なのですが。


(み、見られている・・)


 取り巻きの皆様が呪い殺さんという冷たい目で見ていてそれどころじゃないです。怖いです。


「す、すみません。タオル、用意していなくて・・」


「いや。・・次は頼む」


(頼まれたーーーー!?)


 こんな事は初めてだ。この間の御守り事件といい、ユリウス殿下はやはり変わられた・・? 頬が熱くなったのを感じて、私は下を向いた。が、ユリウス殿下の視線の矛先は、私ではなく隣のユミルへと向けられたのだ。


「武術の指導をサボって女とお喋りか。大層な事だなユミル・ガーベリア」


 げ・・。殿下の冷たい声に思わず青ざめた私だったが、ユミルは気圧されずに謎の自信で胸を張った。


「僕は学で身を立てると決めておりますので! 必ずユリウス殿下とクローディア様の御代にお役に立ってみせます!」


「ほう・・」


 そのまま睨み合う両者。不穏な空気がダダ漏れていて怖すぎる。全然引かないユミルがむしろ謎だわ。


「最近クローディアの周りをいやに彷徨いているな。将来就きたい官職でもあるか? それとも・・何か別の目的か」

「目的など滅相も無い。クローディア様の器量に感服し忠義を誓ったまでですよ。無論、その伴侶となる殿下に対しても、ですが」


 ユミル。何で引かないの。謎よほんと。私なんか殿下の暗黒物質にやられて全身鳥肌よ?


「・・今後俺の目の届かぬ場所でクローディアと言葉を交わす事は許さん。破ったときは・・心しておけよ」


 ユリウス殿下は絶対零度の眼光でユミルにそう言い放った。その場を去るとき、僅かに私の方を見たその冷たい瞳は、私に死の恐怖を思い出させた。

 言われた気がしたんだ。お前も心しておけ、と────。



「・・聞きました? 今の」

「ユリウス殿下がクローディア様にタオルを要求するなんて。しかもユミルへのあの嫉妬ぶり。今までは碌に会話などなさらなかったのに・・」

「お二人はご一緒に昼食を取られてるって噂、本当だったのかしら」

「単純に目に余るからじゃないの。学園内で他の男と堂々といちゃつかれては、婚約者としての面目が立ちませんものね」

「でも私見ましたの。クローディア様、鞄にアポロトス神殿の恋御守りを着けていらっしゃるのよ。もしかしてあれは、ユリウス殿下に貰ったものじゃないかしら?」

「え? でもあれはアーシャさんが貰ったのでは?」

「嘘だったんじゃない? アーシャさんの差し出したタオル、殿下は見向きもされませんでしたもの」

「まぁ。いつもあんなに美人を鼻にかけているのに、殿下の寵を得られないのでは持ち腐れですわね・・」


 ぜ、全部聞こえてるんですが・・。当たってるだけに、なんだか非常に、気まずいわ。というか、女子の陰口怖すぎる。


 私は社交会の花、アーシャ・ディアスの方を見た。一人俯きがちに歩いていた彼女は、私の視線に気付いたのか目が合うと、彼女はあからさまな敵意を顕に睨みをきかせてきたので、私は慌てて目を逸らしたのだった。



 何か・・嫌な予感がした。



「・・ごめんなさいユミル。殿下の言う通り、私にはあまり近づかない方がいいわ」


「ですが」


「殿下の事だけではないわ。好き好んで謂れの無い噂の的になる必要も無いでしょう。貴方のためにも、私のためにも・・」


「・・籠の鳥、ですか・・」


「・・・・」


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