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第20話

(何!? どうして追われてるの私!?)


 仮にも一度、自分を斬り殺した相手に、全力で追いかけられるという恐怖。私はパニックになり、衝動的に逃げる足の速度を早めた。アポロトス神殿は丘の上に造られた建造物であるため、ところどころに階段があるのだが、無我夢中で目の前に現れたそれを駆け降りた。しかしその時。


 その黒い物体は、突如として私の目の前に現れた。まるで空を舞う黒鴉の様に、空中から舞い降りたユリウス殿下は、制服の裾をはためかせながら華麗に地に着地して見せた。なんか格好良く片膝をついて、こちらに刺す様な視線を向けてるけど、全然素敵じゃありませんよ。その異常な登場の仕方は本当にやめて欲しい。びっくりしすぎて尻餅ついちゃったし。


(な・・上から、飛び降りて・・?)


 思わず上を見上げると、結構な高さだ。何やってんのこの人。そういえば殿下は剣の腕前も相当だったし、陰鬱な性格の癖に身体能力が高いのね・・。私は青ざめ、なんとかこう声を出した。


「で、でんか・・あの様な所から飛び降りては、御身にもしもの事がっ・・」


 彼はその苦言に答える事は無かった。

 代わりに彼は、無様に尻餅をつく私の前に、あるものを突きつけた。


「これも受け取って欲しい」


 司祭様の話を聞いていなければ、チェーンに鈴のつけられたその赤いキーホルダーが何を形どったものであるか、すぐには分からなかっただろう。彼の指に吊るされたそれが、ハート型を二つに割った、その片割れなのだと気がついた。


「・・ご利益No.1のハートチャームペア御守り、ですか・・?」


 ユリウス殿下は無言で、僅かに頷いた。彼の白い頬が、少しだけ赤く染まった気がした。私は立ち上がり、彼の手からそっと、その片割れを受け取る。


 殿下はやっぱり、アポロトス神殿にはよくいらっしゃってたんですね。それはやはり私との事をお願いしていたと考えてよいのでしょうか。先程の司祭様のお話では、めちゃくちゃ悩んだ挙句にこの御守りを買ったって言ってましたけど、その顰め面で御守りと睨み合う殿下の姿を想像すると、それってちょっと───・・


(────ちょっと・・可愛いですよ。殿下・・)


 そういう殿下の気持ちが嬉しかったから。だからなのかもしれない。そんな言葉が口をついて出たのは。


「ありがとうございます。大事に身につけさせて頂きますね。それからあの・・今度からは、二人でお参りに来ませんか」


 ユリウス殿下の冷たげな黒い瞳が、驚きに少しだけ、見開かれて私を見つめた。それに気づいて、私の体温は一気に上昇を始める。


 二人でお参りにってまるで、というか完全に、デートのお誘いではありませんか! なんというはしたないっ。


「い、いえそのっ・・私も普段、女神シルフィ様にはお世話になって・・じゃなくて信仰しておりましてですねっ! こちらにお参りに来た事も最近しばしば、ありましたものでですねっ・・」


 言い訳とばかりに、真っ赤になってあたふたと言葉を並べ立てた。身体にはじっとりと汗が吹き出している。うわー恥ずかしい。さっきから失態続きだよぉ。


 だけどその時────私は有り得ないものを見た。私をじっと見つめていたユリウス殿下の頑なだった口元が、綻んだのを────。


「ああ」


(────!!)


 ユリウス殿下が・・笑った!!


 えぇーー!? 嘘ぉ! 初めて見たーー!!



 前の人生では一度も目にする事の無かった、殿下の笑顔。殿下って笑えるんだ。何というか・・衝撃が凄い。心臓に悪いです。その場に硬直してしまった私に向けて、ユリウス殿下は「どうした?」と不思議そうに眉を曇らせる。


「な、なんでもありませんっ! そろそろ集合時間ですよね! 戻りましょうっ」


 私が歩き始めると、殿下は無言でその横を歩いた。隣であの艶めいた黒い髪が揺れているのだと思うと、何だかそれだけで緊張して、それ以上私は向こうを向けなくなってしまった。


 前に殿下が心の中で言っていた「眩しすぎて直視出来ない」って・・もしかしてこういう事なんでしょうか?


 シルフィ様、私────この方を、好きになれるかもしれません。


 



 しかしその頃神界では、美しい白い猫が、青白く輝く丸い球体の前で首を傾げていた。


「危険度Eランク・・なんで一向に下がらないのかしらね・・」


 この時は私もシルフィ様も、状況は改善に向かっていると思っていた。しかし事態は、私達が思っているよりずっと、深刻であったのだ。


 この時の私は全く想像していなかった。近い将来再び、この人の白刃の前に晒される事になるだなんて・・。





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