第19話
「これが先程解説のあった石柱ですね。シルフィ様の子であるフーリア王が大蛇を退治する神話の一場面を表しているという・・」
思いっきり一人言を呟く私。
・・・・。
アーシャさんの御守り、本当に殿下から貰ったわけじゃないわよね・・。
「何言ってるのよ。あの殿下に限って、そんなわけないじゃない」
そりゃ私は貰ってないけど。
「きっと買ったはいいけど、渡す勇気がなくて渡せてないってだけよ。殿下はあのとおりのネガティブ思考なのよ?」
だけど────もしもあの殿下の心の声が、全て私の妄想なのだのしたら?
「そんな事ないはず。前の人生では二年間ほとんど関わりなく過ごしたのに、今回は一緒にランチしたり花をプレゼントしてくれたり、既にあのチートのお陰でだいぶ改善してるじゃない」
前の人生・・それ自体が私の妄想なのだとしたら・・?
心に何か冷たいものが過ぎ去った。もしかして私は・・頭がおかしいのだろうか。
大体どうして、私はこんなにもやもやしているのだろう。ユリウス殿下とは家が決めた婚約者同士で、愛情など二の次だと覚悟の上だったはずで・・以前はあの方が誰とどうなろうと、別にどうでも良かったはずなのに。
(私はシルフィ様にこの世に厄災が降りかかるって脅されて仕方なく、関係を改善しようとしているだけだもの。怖いし変な人だし・・同情する点は多々あるけれど、私は別に、殿下の事はなんとも)
「クローディア!」
はっとして我に返る。声のした方へ振り向くと、そこにはあの、濡れた様に妖しく艶めく黒い瞳が、私の視線を待ち受けていた。
「・・ユリウス殿下・・」
殿下は私の隣りに立つと、石柱の方へと視線を向けた。
「これがフーリア王の石柱だな。大蛇を倒しこの国を開いたという」
「はい。・・殿下の御先祖様ですね」
「君の先祖でもある。王家からユンヴィへ輿入れした者もいるからな」
「そういえばそうですね・・」
「・・奇遇だな。こんな所で会うとは」
「は、はい。・・」
ほ、本当に奇遇・・なんですか?
もしかして私を追いかけてきてくれた・・とかじゃないですよね? 私はチラリと、遠慮がちに人一人分離れた所で石柱を見上げる、殿下の方を盗み見る。すると殿下の黒い瞳が、目だけこちらに向けられた。視線がぶつかり、心臓がどっきんと飛び跳ねて、私は過剰なほど思いっきり顔を背けてしまった。
み、見てたのバレた・・! 恥ずかしっ!
それにどうして、さっきから異常なくらい心臓がどきどきして・・
「クローディア。実は君に渡さなきゃならないものがあって・・」
え────?
わ、渡すもの? それってもしかして・・殿下が買ったというペア御守りの・・?
「殿下・・」
背けていた顔を、慌てて再びユリウス殿下の方へ戻した。するとそこには、私へ向けてそれを差し出す殿下の手が────・・
「・・さっき落としたぞ」
これ・・生理用の・・・・。
「すみませんぅぅぅーー!!」
私はユリウス殿下の手からそれを奪い、その場からダッシュで逃げ出した。嘘でしょ!? 落としたっていつ? ああああああ恥ずかし過ぎるぅぅぅ! 穴があったら入りたい!
しかし私はそこで、背後に感じる妙な気配に気がつき、何気なく後方を振り返り────信じられないものを見た。
全力ダッシュで逃げ去る私の後を、やはり全力ダッシュで目を血走らせながら追いかけてくる、ユリウス殿下の姿を・・。
な────。
(どうして追いかけて来るのぉぉ!?)
心の中で絶叫した私。
私、何かしましたか!?




