第15話
────今日はセルランド公爵家の皆さんが自宅に遊びに来ています。
「で? どうなのよお前。学園生活ちゃんとやれてんの?」
夕食が終わるとオーウェンはずかずかと私の部屋へと上がり込んでくる。このあたりの壁の無さは幼い頃から変わらない。
「大丈夫だってば・・それより、ノックも無しに部屋に入ってくるのやめてくれないかしら?」
いくら兄弟の様な関係とはいえ、もう年頃の私達だ。着替えを見られたりしたら流石に気まずい。枕を抱えて恨めしげな視線を送るも、オーウェンはそれを全く意に介した様子なく話を続けた。
「お前、昨日も今日もカフェテリアで見かけないじゃないか。ちゃんと昼食べてるのか? お前の事だから周りに馴染めなくて来辛いのかと思って心配してたんだぞ?」
そういえば、ユリウス殿下に斬り殺された前の人生では、同じ年次の学友達とは馴染めずに、ずっとオーウェン達と昼食をとっていたんだった。そんな私に対して、よくこんな陰口が投げつけられたものだ。
「人目を憚らずによく毎日毎日見せつけられたものね」
「本当に。両公爵家同士、大人しく結婚なさったら良いのに。よほど王太子妃の座だけは欲しいと見えるわ」
────今考えると、私の行動も誤解を与えるものだったのだと思う。皆が噂する通り、ユリウス殿下が私達が恋仲だと勘違いするのも頷けるわ。あの時は、ユリウス殿下は私に全く興味が無いと思っていたもんだから。殿下の心の内を知った以上、今生では同じ轍を踏むわけにはいかない。
「だから大丈夫だってば・・」
「じゃあお前、どこに行ってるんだよ。意地張らずに明日はカフェテリアに来いよ。一人で気まずいなら俺達のところへ来ればいいから」
「だから・・明日の昼食は、その・・ユリウス殿下と一緒にとる約束をしてるから」
「え??」
心配をかけるのも申し訳ないのでオーウェンにそう白状すると、彼は目玉が飛び出そうなほど目を剥いた。
「本当か!? じゃあ今までもそうだったって事か!?」
「まぁ・・今日は別だったけど、昨日はご一緒にお弁当を食べたわ」
もじもじしながら言うと、オーウェンはみるみる目を輝かせ、分かりやすく興奮した表情を見せる。
「なんだよお前ぇ! それならそうと早く言えよ! 心配して損したわ! 突然婚約者に指名されて、お前の事だからプレッシャーに感じてると思ってたのに、結構乗り気じゃないか!」
「の、乗り気ってわけじゃ・・」
私が死んだらこの国に厄災が降りかかるってシルフィ様に脅されたからなのだけど。さすがにそんな事を口には出せないので、ただ気恥ずかしさに顔を赤らめたのが、オーウェンには照れていると映ったらしい。ニヤニヤと鼻につく笑みでこちらに視線を送ってくるのが、なんとも鬱陶しい。
「そっかそっかぁ。お前にも遂にそんな春が・・ユリウス殿下、クールでかっこいいもんなぁ? お前面食いか?」
「だから違うってば! 仕方ないでしょ、婚約者なんだから」
「ん? なんだコレ?」
「あ。それはユリウス殿下が下さった花を今、押し花にして・・」
しまった。と思ったときにはもう遅い。オーウェンのニヤニヤ顔が一段階増していた。
「へぇぇ〜ぇ♡」
くっ・・なんだか凄く、腹が立つわ。
「とにかく! 心配しなくて大丈夫だから! 着替えたいからそろそろ帰って!」
「うんうん。女子は明日に備えてお肌の手入れとか色々あるもんな? 恋する乙女は大変だねぇ」
オーウェンはやけにウキウキとした笑顔で、最後に頑張れよぉ!と言いのこし部屋を出て行った。彼の消えたドアに向けて私は憎しみを込めて枕を投げつけたのだった。




