第13話
私は慌てて鳥籠の方へと視線を戻した。
こ、怖すぎ・・まるで魔物の様な、いつもに増して闇深い目をしてらっしゃる。というか一体いつからそこに・・? これは何かまた、とんでもない事を考えていそうです。私は即座に「心を読む」ボタンを押した。
【・・・・クローディア・・怪しいと泳がせてみれば、早速他の男と落ち合っているのか。それもあの様に仲睦まじく・・控えめな振りをして、実はとんでもない売女のようだな】
ひぃぃぃぃーー!? 誤解です! これは死期を早め・・というかユミルの命まで危ないのでは!?
「ところでクローディア様。差し出がましいかもしれませんが・・大丈夫ですか?」
「え!? 何が!?」
大丈夫じゃないです! 貴方も殿下の視線に気づいているの!?
「・・ユリウス殿下とその取り巻き達に、辛くあたられている様にお見受けしますが・・」
え?
「あ、あーあ。その事ね・・もう慣れてるし大丈夫よ。気にしていないから」
「気にならないなんて事がありますか?」
ユミルの口調が少し強くなる。顔も・・何か怒っている様に見える。
「クローディア様はお優しいから・・その様に彼女達をお許しになりますが、僕は許せません。それにもっと許せないのは、ユリウス殿下です。婚約者が辛くあたられているのを目の当たりにしながら、何故咎めもせずにあの様な冷たい目を向けるだけなのか。望まぬ婚約なのかもしれませんが、クローディア様には何の罪も無いと言うのに・・」
ユミル・・完全に近いうち殺されるわよ。
「ユミル。ユリウス殿下はね・・ああ見えて不器用なだけで、そんなに冷たいわけではないのよ・・」
「クローディア様は優しすぎます! あれが冷たくなくてなんだと言うんですか! 嫌いな女性にだってもう少し優しくしますよ! あんな態度をとられて好きになれって方が無理な話です!」
ユミル。私の為に怒ってくれてるのは分かるけど、一旦ちょっと黙ろうか。
その時だった。背後の建物の陰の暗がりから、困惑した感情が流れんで来たのは。
【俺がクローディアを嫌ってる? どういう事だ・・? 確かに俺はあの頭花畑な女共とクローディアが仲良くならなければいいと思っているが、そんな事は口には出さずに、遠巻きに彼女を見つめていただけなのだが・・。そういえばクローディアも、嫌われていると思っていたと言っていたな・・】
殿下・・めちゃくちゃ冷たく見えますけど、やっぱり無自覚なんですね。
【好きになれって方が無理・・? 冷たく見えるってどういう所が? 「優しくする」って・・どういう事なんだ?】
殿下────。
そうだわ。この方は・・
「・・あの方は分からないだけなのです」
ずっと一人だったから。
ただ稀に届く花を心待ちにするしかなかった、あまりにも哀れな方。
「冷たくする事も優しくする事も、笑い合う事も、ただ表情を動かす事でさえ。そんな当たり前の事が、ずっとお一人で過ごしてきたあの方とっては初めての事なのです。それがどれだけ悲しい事か、貴方には分かりますか? ユミル」
それなのに人一倍、裏切りや利用や・・そういった汚いものに晒されてきた。この国に厄災を降らせる未来の魔王。それは本当に、彼の罪なのだろうか?
「ですからこの先何があっても・・私は、私だけは、殿下を裏切る事は無いように有りたいのです。私はあの方の・・婚約者なのですから」
「クローディア様・・」
ユミルは驚いた様に、眼鏡の奥の瞳を真剣に私に合わせた。まずい、殿下の感情に触れたら痛ましすぎて、つい語ってしまったわ。殿下本人にも聞こえてるかもしれないのに、恥ずかし!
「で、ですからユミル。貴方も出来れば殿下と打ち解けられるよう努力して・・」
「感服致しました!」
・・は?
ユミルは私の前に膝を折り、胸に手をやった。騎士風の礼をとる仕草だ。なにやら眼鏡の奥の瞳は輝き、興奮したように頬を蒸気させている。
「クローディア様の海の如き広い御心、鋭いご明察、慈愛の精神・・心より感服致しました! このユミル、クローディア様の恩為なら生命を惜しまず働かせて頂きます!」
「え? あ、ああ・・どうもありがとう」
「それでは、そろそろ時間です。戻りましょうクローディア様!」
「え、ええ・・」
な、何故かユミルの忠誠を手に入れてしまったわ・・。殿下の心を読むチートのお陰なだけなのに、なんだか騙しているみたいで少し心苦しいわね。
それに、ユリウス殿下は────?
私はユミルに着いて歩き始めた際、後ろを振り返った。建物の間の暗がりには、あの二つの目はもう無くなっていた。
今の・・聞いてた? それとも聞いてない?・・




