第11話
驚いて、じっと彼の黒色の瞳を見つめた。すると頭の中に彼の心の声が流れ込んでくる。
【あの窓から外の世界を眺めるだけの日々。誰からも忘れられ、触れ合う事も出来ず、世間の対面を守るという目的の為だけに生かされている。それは────死ぬ事と何が違うのだろう。だけど君のくれた花は、自分がまだ生きている事を思い出させてくれた。外の世界にはまだ、俺の事を忘れずに気にかけてくれている人がいるのだと・・】
────そんな事が・・?
【本当の死がこの身に訪れる前に、ただ一度、窓越しにではなく君に会ってみたい。それがあの頃の俺の唯一の夢。こんな形で突然外の世界へ出され、君の婚約者になれるなど未だに信じられないんだ。この気持ちをどう伝えたらいいのだろう・・】
殿下・・
なんというお寂しい御心の内なのでしょう。
たったあれだけの事が救いだったなど、きっと私の想像も及ばぬ苦しい日々だったに違いない。
胸が痛んだ。どんな気持ちであの格子のかかる窓の向こうから、外を眺めていたのか。その気持ちの半分も、私は理解していなかった。
「・・色んな事をしましょう」
頭で考えるより先に、口が開いていた。
「今まで出来なかった分、色んな場所へ行って色んなものを見て、色んなものを食べて・・取り返しましょう。これからはずっと、私がお供しますので」
殿下の黒曜石の瞳が、僅かに驚きを纏って、私を見つめた。いつもは冷え切って見えるその瞳に、温度が戻ったように感じるのは気のせいなのか。
よく考えたら「これからはずっと」って、結構恥ずかしいセリフだ。頬が熱くなったのに気がつくも、無言で私をじっと見つめる殿下の黒い瞳から、目が離せない・・。
【お供しますって・・一緒に居てくれるって事か? 信じられない】
「・・君はこの婚約を嫌がっていたのではないのか・・?」
え? そう思ってたんですか??
確かに、嫌でしたよ。でもそれは私なんかがっていうプレッシャーが主というか・・。それに私も、貴方に嫌われていると思っていたので。なるほど、シルフィ様が言っていた「私が殿下を傷つけてる」というのはそういう所だという事でしょうか。ここはきちんと、お互いの誤解を解く必要がありそうです。
「嫌・・でしたよ。重責ですし、それに殿下に嫌われていると思っていましたので」
「俺が君を嫌う? あり得ない、俺は君が────」
殿下はそこで言葉を止めた。
君が────なんですか?
「好き」って・・言おうとしてるんですか?
心臓が聞こえちゃうんじゃないかってほどバクバク音を鳴らしている。心の声を読んで知ってしまってますが、面と向かって言われるとなるとドキドキしちゃう────・・
【────待てよ。そんな都合の良い話あるか?】
・・・・ん?
【ここ最近、妙に幸せな事が多すぎやしないか? 俺のクソみたいな人生にこんな幸運、起こる筈なくない?】
殿下??
【顔合わせの時はあれほど迷惑そうにしていた彼女が、突然こんなに積極的なのはおかしいだろ。弁当を作ったのは家のシェフだと言っていたし、きっと家から俺を骨抜きにして傀儡にせよという指令が来ているんだ。まぁ普通そうだよな。俺って王太子って肩書き以外、なんの価値も無い人間だし】
そ、そんな事ありませんよ? 卑屈過ぎですよ?
【君まで俺を利用しようとしているのか。君だけはそんな野心とは無縁だと思っていたのに、結局は君もあの小煩い取り巻き達と同じだという事なのか・・】
「そんなことない!」
ハッとして我に返るも時遅し。
ユリウス殿下の不可解だと言わんばかりの視線に射抜かれ、私はみるみる青ざめた。
「そんなことないって・・何がだクローディア?」
「す、すみません。なんでもありません・・」
そんな風に曲がって捉えられてしまうなんて────。
ちょっと本気でお供して差し上げたいと思ったのに・・。なんだかショックだわ・・。




