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37.2つの色が交わるとき



 黒幕はアネットだったという事実は、アランによってミシュレ伯爵夫妻に伝えられた。

 当然、エドワールとブランシュは衝撃を隠せないようだったが、親として相当な責任を感じているようだった。

 誰からも愛され、手の掛からない娘だと思っていたのは自分たちの勝手な思い込みで、アネットのことを何も理解していなかった。

 そんな後悔に苛まれ、彼らは頻繁にアネットとの時間を設けるようになっていた。


 本気で新聞社にアネットの記事を載せることも可能だったが、ルイーズは断固拒否した。

 彼女の人柄から、それを望まないということは納得できるが、それでもアランは「なんてお人好しなんだ」と思わずにはいられなかった。


 あれから数週間が経ち、時々、公の場に出向いては無遠慮な視線を感じることはあったが、ルイーズの不貞を口にする者はほとんどいなくなっていた。

 アネット自身がその事について一切口にしなくなったからだと風の噂でルイーズは聞いたが、真実は定かではない。

 何より、どんなにひどい憶測を立てられても、婚約者のことを最後まで信じ続けたアランの愛の深さが周囲をそうさせたのだろう。


 ここ最近、アネットも派手に外で遊ぶことが少なくなり、日当たりの良いテラスで彼女が物思いに耽っているのをルイーズは何度か見かけた。

 遠くを見つめる彼女の瞳に何が映っているのかは分からないが、少しずつアネットが変化し始めているのを感じ取った。


 そしてフェルナンが残していった肖像画は、ミシュレ家の屋敷に飾られている。

 その絵を見る度に、ルイーズはあの不思議な雰囲気漂う青年に思いを馳せた。

 アネットと手を組んでおきながら、最後に真実を証言した彼。きっと今日もどこかで、自由気ままな生活を享受しながら創作に励んでいるのだろう。


 

 姉妹の間に横たわる氷は未だ融けてはいないが、良い方向へと前進していることは確かだった―――。

 






          *







 ―――4月下旬。

 

 ここローシェル地方では、五穀豊穣を祈る祭りが開催されていた。深夜まで続くこの祭りは民衆にとって一大イベントと言っても過言ではないだろう。

 もちろんアランとルイーズも参加し、出店が立ち並ぶ賑やかな街中を並んで歩いていた。


 ラクールや他の農家の者とも遭遇したが、皆、今日だけは仕事を忘れて楽しんでいるようで、羽目を外さぬようにとアランは苦笑しながら釘を刺した。


 途中、中央広場の一角で陽気なバンド演奏が聞こえてきた。その音楽に合わせて民衆たちは思い思いのステップで踊っている。


 そのうち、ゆったりとした音楽に変わると、アランはルイーズの手を引いて踊りの輪に加わった。

 

 恥ずかしそうにする彼女を見下ろしながら腰に手を回し、ゆっくりと身体を引き寄せた。ぴったりと密着したまま、2人は音楽に合わせて緩やかにステップを踏む。

  

 アランの上着の下から覗くシャツの袖には、ルイーズが施した紋章の刺繍が誇らしげに縫い付けられていた。

 ルイーズが自分で刺繍したこのシャツを初めて手渡したときのアランといったら……狂喜乱舞の沙汰ではなかった。


 

「アラン様と婚約しなければ、こんなに賑やかなお祭りにも参加しなかったと思います。私ったら人生を損していたのね」

「でも引きこもるのも、あなたにとっては必要な時間だったんじゃないかな」

「あら、あんなに私を外向的にさせようとしていたのに?」

「それはもう言わないでくれ……」

 すでに夫の手綱を握る妻の片鱗が見えるルイーズに、アランは気まずそうに呟いた。



「最近、」

 ルイーズが甘えるように彼の胸元に頬を埋める。

「漠然と不安を感じる事があるの……公爵の妻として自分は大丈夫だろうかって……」

「なにを今更言うんだい?」

「だっていざ結婚が近くなると……」

 顔を曇らせる彼女を、アランは深い笑みで包み込む。


「ルイーズの傍にずっと僕がいるから、きっと大丈夫だよ。

 僕を信じて、付いてきて欲しい」

 

 そう言って、アランはルイーズの唇にゆっくりとキスをした。

 

 ルイーズは思う。

 そうだ、自分にはこんなに力強い味方がいる。何を不安に思う必要があるのだろうかと。


 結婚に後ろ向きだった自分も、社交的になれない自分も、姉との確執に悩んでいた自分も、どんな自分でも、アランは最後には優しく受け止めてくれた。

 

 時にはうまくいかず、一筋縄ではいかないこともあったけれど、どうしようもなく愛してしまった。


 自分とは正反対の人だと思っていたのに。



 喜びも悲しみも、良い時も悪い時も、すべてをこの人と共に分かち合っていこう。


 彼が自分を信じてくれたように、自分もアランを信じる。



「愛してる」

「私も」


 

 白と黒のような、相容れない2人が恋したとき、それはどんな味がするのか。

 

 それはもちろん彼らにしか知らない、とっておきの味だ―――。





これにて、『Gray Taste-背中合わせの婚約者-』完結です。


なかなか書き進められず苦しい時もありましたが、読者の皆様のおかげでここまでたどり着くことができました。本当にありがとうございました!

思うように書くことができず、納得できない部分も正直あるのですが、これからまた精進していきたいと思います。


それでは、次回作でお会いしましょう。




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