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第6話 過去の断片と血塗られた盤上

リアムは窓の外を凝視していた。村の入り口に近づいてくる影に、その目は釘付けになっていた。夕闇の中、見たこともない貴族の紋章を掲げた立派な馬車が止まった。


「ああ、ゲートウェイの連中だな」リアムは溜め息をつきながら説明した。「ラグが言ってた通りだ。狩りの分け前と収穫物を受け取りに来たんだろう」


「行ってこい、リアム。奴らの相手を頼む」クリフが命じた。その声には、隠しきれない疲労が滲んでいた。


「分かったよ、じいさん。すぐ戻る」リアムは重い足取りでドアの外へ出て行った。


クリフは低く唸ると、こめかみを押さえながら頭に手をやった。


「大丈夫、じいちゃん?」俺は歩み寄って尋ねた。「かなり疲れてるみたいだけど」


クリフは俺を見て、無理に笑みを作ったが、その目は真剣なままだった。

「大丈夫だ、タイト。戦いの後の疲れが溜まっているだけだ。……なあ、さっきの戦いで、自分が宮廷魔導師だった頃を思い出してな。次はどんな困難が来るか分からない……そんな日々だったが、不思議とあの高揚感が嫌いじゃなかったんだ」


俺は目を見開いた。(宮廷魔導師? じいちゃん、そんなに凄い人だったのか?)

「何があったんだよ、じいちゃん。どうして引退したんだ?」俺の声には好奇心が溢れていた。


家の中に一瞬、沈黙が流れた。外を吹き抜ける風の音だけが、その空白を埋めていた。やがて、クリフが語り始めた。その声は、どこか遠い場所から響いているようだった。


「20年前のことだ。俺はまだ若く、王立帝国の宮廷魔導師を務めていた。南方のフロストメイル王国が、互いの外交的な行き違いから我が国に宣戦布告してな。激しい戦争だった。領土を奪い、奪われ……終わりが見えなかった。だが、問題は戦いそのものじゃなく、国王グレッグだった」


クリフは言葉を切り、俺の背筋に冷たいものが走った。

「敵の隊長や騎士を捕らえると、グレッグは自ら尋問すると言い張った。だが、それは普通の尋問じゃなかった。グレッグは奴らを拷問し、その苦悶する姿を見て、悦びに身を震わせていたんだ。他人の絶望を何よりの馳走とするような男だった。そのあまりの残虐さを目の当たりにして、俺はもう耐えられなくなった。暇乞いをして、平穏を求めてこの忘れ去られた村に移り住んだんだ」


(……なんて重い話だ。じいちゃんがそんな過去を背負ってたなんてな。そのグレッグ王とだけは、一生関わりたくない。羊の皮を被った怪物そのものじゃないか)

俺は本物の恐怖を感じながら考えた。


急な足音が思考を遮った。リアムがドアから飛び込んできた。その表情は、明らかな懸念に満ちていた。


「クリフ、話がある。襲撃の件だ」リアムは単刀直入に切り出した。「アリエル子爵のところへ行って、交渉してみるのはどうだ? 何かと引き換えに、この襲撃の出所を調査してもらうんだ」


クリフは眉をひそめた。

「自分を取引の材料にするつもりか?」


「ああ。1年間、ゲートウェイの騎士として仕える代わりに、ずっと平和だったこの村がなぜ魔物に襲われるようになったのか、その理由を突き止めてもらう」


クリフは溜め息をつき、首を振った。

「リアム、もし俺の推測が正しければ……この件の裏には帝国がいるはずだ」


「どういうことだよ、じいちゃん? どうして自分の民にそんな真似を?」俺は混乱して尋ねた。


「どうしてそんな結論に至ったんだ、じいさん?」リアムも信じられないといった様子だった。


「二人とも、よく聞け」クリフは声を潜め、周囲の空気をさらに緊張させた。「あの森で見つけた黄色の魔石を覚えているか? ラグがあれを見た瞬間、驚きを隠せなかった。そして交渉の場では、何としてもあの石を手に入れようとした。アリエルが、本当の価値も知らずにそんな石に執着するはずがない。さらに、あの石を渡した直後に、召喚獣を伴った襲撃が起きた」


クリフは一呼吸置いて続けた。

「おそらく、普通の魔物では俺たちが対処できると見て、俺たちが疲弊している隙に、より強力なもので殲滅しようとしたんだろう。俺の推測では、アリエルも一枚噛んでいるが、主犯じゃない。彼はこの村が潰れることで何かを得る立場にある、ただの駒に過ぎん」


リアムは腕を組み、唸るように言った。

「だがじいさん、そんな回りくどい真似をするより、立ち退きを命じる方が簡単じゃないのか?」


「奴らもそうしたいだろうさ」クリフが説明した。「だが、5年前に亡くなった先代の長老は、グレッグ王自身が署名した契約書を持っていた。この土地での建設と拡張の自由を、不可逆的に認めるという内容だ。もし王がそれを一方的に破棄し、それが民に知れ渡れば、卑怯な振る舞いとして王の権威は失墜するだろう」


(つまり、グレッグが裏で糸を引いて、アリエルに汚い仕事をさせてるってことか? 自分の手を汚さずに土地を『掃除』するために。そういうことだろ、じいちゃん?)


クリフは俺の洞察力に驚いたように目を見開いた。

「その通りだ、タイト」


「リアム、アリエル子爵の屋敷へ行ってくれ」クリフが命じた。「あの黄色い石を探せ。どうにかして、アリエルかラグにその場所を案内させるんだ。まだ仕事は受けるな、情報を掴むだけでいい。俺は狩人たちと森を調査する。ビター・ミストには、まだ他にも魔石が隠されているはずだ」


「分かったよ、じいさん。気をつけてな」リアムは出発の準備を整えた。「アリエルの使いが外で痺れを切らしてる。じゃあな、タイト。明日には戻る」


「また明日、師匠!」俺は心の中で幸運を祈りながら見送った。


クリフはビター・ミストの森の入り口に10人の狩人を集め、厳粛に状況を説明した。

「いいか、よく聞け! 瘴気の魔石を探すんだ。二人一組になって、この森の隅々まで調べ上げろ。亡くなった仲間たちのために、今動かなければさらに犠牲者が出る。やるぞ!」


「おおおおおお!」戦いの雄叫びが響き、男たちは森へと消えていった。


「じいちゃん、どうして俺たちは行かないんだ?」俺は残されたことが不思議で尋ねた。


「みんながいない間に村で何かが起きた時、村人を守る者がいなければならんからな」クリフは緊張した面持ちで答えた。


時間はあっという間に過ぎ、夕暮れは夜へと変わった。2時間後、狩人たちが疲れ果てて戻ってきたが、収穫はなかった。クリフは彼らを解散させ、家で休むよう告げた。


「行こう、タイト。俺たちも休むとするか」じいさんは我が家に向かって歩き始めた。


「ああ、じいちゃん……」俺は答えた。


だが、歩き出した瞬間に背筋が凍るような感覚があった。背後を盗み見ると、木々の影に紛れて、俺たちを監視している男のシルエットが見えた。俺は視線を前に戻し、クリフに囁いた。


「じいちゃん、誰かに見られてる。まだ後ろを向かないで。左側の木の陰にいるよ」


クリフに迷いはなかった。彼は横目で侵入者を確認した。次の瞬間、老体とは思えないほどの瞬発力で、クリフは弾かれたように反転し、監視者に向かって雷光のごとく突き進んだ。


第6話 終わり

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