第5話 村の血戦と影の狼
パニックは、乾いた藁に燃え移る火のように瞬く間に広がった。超自然的な凶暴さを宿した瞳を持つ狼の群れが、村へと乱入してきたのだ。絶望の叫びと肉を裂く音が四方から響き渡る。戦士の直感を研ぎ澄ませたリアムが即座に先陣を切り、俺も剣の柄を握りしめてその後に続いた。村の狩人たちも、獣たちを迎え撃つために組織的な反撃を開始した。
「タイト、気をつけろ!」リアムが叫んだ。
影から一頭の狼が躍り出し、俺の背後を狙った。俺が反応するよりも早く、リアムの刃が空を裂き、怪物は俺の足元で事切れた。
「助かったよ、師匠! 油断してた、次はもうない」俺は息を整え、まだ完全には感じきれていない自信を無理に絞り出して言った。
俺はさらに先、混乱が最も激しい場所を指差した。
「あそこだ、師匠! 二人が負傷して、三頭の狼に囲まれてる!」
「見えたぞ! タイト、来い!」
リアムは雷光のように突き進んだ。的確な一撃で、彼は最初の一頭を仕留めた。残る二頭は、彼から放たれる強者のオーラに気圧され、唸り声を上げながら一瞬後ずさりした。俺はその隙を突き、地面に倒れている狩人の一人に駆け寄った。
「助けるよ、落ち着いて……」と言いかけたが、傷の深さを見て言葉が止まった。
「俺は……もうダメだ……チッ……」男は呟き、その瞳から命の光が消えていった。
(くそっ……目の前で死なせてしまった。何もできなかった)
俺は胸を締め付けられるような思いで考えた。
「クソ、リアム……あいつ、もう……」
「分かっている。だが進むしかない。一人でも多くの人間を救うんだ!」リアムは戦闘から目を逸らさずに命じた。
俺は亡くなった狩人の剣を拾い上げた。予備の武器はいくらあっても困らない。そしてリアムと共に戦いの中心へと向かった。
「あああああ! 助けて! 誰か助けて!」
悲鳴は、泥に足を取られて転倒した妊婦からだった。二頭の狼が今にも彼女に飛びかかろうとしている。考えるより先に体が動いた。俺は彼女と獣たちの間に割って入った。狼たちが同時に襲いかかってくる。一頭目が俺の喉元を狙って噛みつこうとした。俺は後ろに身をかわし、筋肉に刻まれたかのような流れるような動きで、瞬時にその首を撥ねた。止まることなく二頭目へと踏み込み、一閃の下に斬り伏せた。
震える手で彼女を立たせるのを手伝った。
「大丈夫か?」俺は心配して尋ねた。
「は、はい……ありがとうございます!」彼女はショックを受けながらも答えた。
「よし、今のうちに安全な場所へ隠れるんだ! 二度と出てくるなよ!」
俺は戦い続けた。斬り、かわし、殺す間、時間は止まっているかのようだった。血の匂いと戦闘の音が五感を満たす。ようやく、村の中心付近で話し合っているクリフとリアムを見つけ、そこへ駆け寄った。
「大体は片付いたはずだ。村人の負傷者は多いが、狩猟隊の協力のおかげで掃討は進んでいる」リアムは剣の血を拭いながらクリフに告げた。
「分かった、リアム。これについては一つの仮説がある……だが、まだ仮説に過ぎん」クリフは森を見つめながら答えた。
「それはどんな?」リアムが興味深げに尋ねた。
「まあ、今は話すまでもない。目の前のことに集中しよう」じいさんは話を逸らした。
「おっと、じいちゃん、あんたも戦ってたのか? 全然見えなかったよ」俺は額の汗を拭いながら尋ねた。
クリフは薄笑いを浮かべて俺を見た。
「狼どもが村に足を踏み入れた瞬間、奴らのエネルギーを感じて駆けつけたんだ。ついでに言うと、俺の後ろに転がっている死体……あれを仕留めたのは俺だ」彼は死体の山を指差して説明した。
突然、空気が重くなった。背筋に冷たいものが走る。
「おい……お前ら、これを感じるか?」リアムの声が低く、真剣なものに変わった。
「ふむ……」クリフが呟いた。「圧倒的なエネルギーを感じる……真っ直ぐこちらに向かってきているぞ」
俺たちは即座に攻撃陣形をとり、ビター・ミストの森の境界を凝視した。そして、その怪物が姿を現した。巨大な『シャドウ・ウルフ(影の狼)』だ。額には禍々しい魔法が溢れ出す黒い石が埋め込まれている。毛並みは灰のように白っぽく、牙は巨大で、空を打つ二本の尻尾を持っていた。
「召喚獣だな。おそらく操り手が近くにいる」クリフが分析した。
「警戒は怠っていない」リアムが身構えながら答えた。
クリフが杖を地面に叩きつけると、巨大な魔法陣が展開された。
「『ストーン・ゴーレム、我が呼び声に応えよ!』」
地面から二体の巨大なゴーレムが這い出してきた。その体は荒々しい岩石でできている。
「俺が奴を弱らせる。お前ら二人は隙を見て攻撃しろ!」
クリフのゴーレムたちが重い一撃を繰り出すが、怪物は驚くほど俊敏だった。狼は跳躍一番、牙でゴーレムの一体の首を食いちぎった。さらに、凄まじい咆哮を上げると、その風圧だけで二体目のゴーレムを粉々に粉砕してしまった。
(この獣、強すぎる……伝説の狼か何かなのか?)
俺はその破壊を目の当たりにしながら考えた。
「タイト、リアム! 三角陣形だ!」クリフが命じた。「リアムは中央、タイトは左、俺は右だ。俺が土の鎖で奴を縛る。お前たちは持てる力のすべてで攻撃しろ!」
クリフが再び杖を叩く。
「『土魔法:アース・チェイン』!」
圧縮された土の頑丈な鎖が突き出し、獣の足を絡め取った。
「行け! 急げ! 長くは持たんぞ!」クリフが疲弊の色を見せながら叫んだ。
俺は素早く踏み込み、頭部を狙って跳躍し、斬り下ろした。しかし、狼は咆哮で応戦し、その衝撃波で俺を後方へと吹き飛ばした。だが、リアムは止まらなかった。彼は自分自身に『身体強化』を施し、筋肉を昂ぶらせて突進した。獣はクリフの鎖を食いちぎったが、リアムは止まらない。頭を狙い、狼が爪で反撃する。リアムは数ミリの差でそれをかわし、怪物の足の一本を切り落とした。狼が苦痛に吠える。
俺はその隙を逃さず、下を滑り抜けながら別の足に深い傷を負わせた。リアムと俺は即座にクリフの傍へと退避した。
「よくやった」クリフが負傷した獣を観察しながら言った。「見たところ、上からの攻撃は効かん。奴には背中と頭を守る見えない鎧のようなものがある。腹部もおそらく守られているはずだ。四肢を狙うしかない」
「さっさと終わらせようぜ! 残りの二本の足を斬ればチェックメイトだ。もう一度だけ鎖を使えるはずだ」クリフが言った。
俺が再び踏み込もうとしたその時、妙なことに気づいた。
「あれ? 奴が消えていく……どういうことだ?」狼の体が透き通っていくのを見て、俺は困惑して尋ねた。
「召喚主が召喚を解除したんだろう」クリフが安堵のため息を漏らして答えた。
クリフとリアムは力尽きたように地面に倒れ込んだ。
「マナが空っぽだ……一気に疲れが来たな」じいさんが言った。
「俺も体力の限界だ、じいさん。筋肉が悲鳴を上げてるよ」リアムが力なく笑いながら零した。
「二人ともだらしないな」俺は冗談を言ったが、俺自身も疲労で足が震えていた。
村人たちが家から這い出し、勝利を祝って歓声を上げ始めた。しかし、その喜びは長くは続かなかった。亡くなった人々の遺体を村の中心に集め、火葬の儀式を行った。悲しみに暮れる村人たちの姿を見て、俺はこの世界での命の儚さを痛感した。
(リアムやクリフを失うなんて考えられない。何があっても、もっと強くならなきゃいけないんだ)
俺は炎を前に心に誓った。
襲撃から一時間が経過した。俺たちはリアムの家で事の重大さと召喚主の正体について話し合っていた。その時、木製の車輪が鳴る音が響いた。一台の馬車が村の入り口に到着したところだった。
第5話 終わり




