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じいじとばあばのVRMMO旅日記  作者: あめとおと


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第3話 じいじ、モンスターを投げる



「では皆さん! 本日は街道沿いの安全区域で、基本戦闘訓練を行います!」


 元気な声を張り上げたのは、初心者講習NPCの女性だった。


 始まりのリーベルの外れ。


 木柵に囲まれた初心者向けフィールドには、朝から多くのプレイヤーが集まっている。


 剣を持った者。


 杖を構える者。


 防具姿で緊張した顔をしている初心者たち。


 その中で。


「なんか学校みたいねぇ」


 文は呑気に笑っていた。


「ばあば、ちゃんと聞いてね? 戦闘講習だから!」


「はいはい」


「絶対分かってない返事!」


 透真が頭を抱える。


 一方、恒一は周囲を静かに観察していた。


 木剣。


 盾。


 プレイヤーたちの構え。


 それから、少し離れた場所を跳ねている半透明の青い塊。


「あれが魔物か」


「うん! 《ブルースライム》! 一番最初のモンスター!」


 透真が説明する。


「攻撃も弱いし、初心者用!」


「ふぅん……」


 恒一は目を細めた。


 確かに脅威には見えない。


 ぷるぷる揺れているだけだ。


 しかし。


(重心は低いな)


 そんな感想が先に出てくるあたり、完全に職業病だった。


「まずは武器を構えてください!」


 講習NPCが説明を始める。


「モンスターとの距離を確認し、焦らず――」


 その横で、文は小春と一緒にメニュー画面を開いていた。


「ねぇ小春ちゃん、このバッグどうやって開くの?」


「ばあば、それアイテム欄」


「まぁ便利」


「ちゃんと講習聞いて!?」


 周囲から小さな笑いが漏れる。


 老夫婦プレイヤーは珍しい。


 しかも二人とも妙に自然体なのだ。


「では、順番に戦ってみましょう!」


 講習が始まった。


 初心者プレイヤーたちが順番にスライムへ向かっていく。


「えいっ!」


 剣を振る。


 ぺちっ。


 スライムが跳ねる。


「きゃっ!?」


 逆に体当たりされて尻もちをつく初心者。


 周囲から笑い声。


 和やかな空気だった。


「次の方どうぞー!」


 呼ばれて、透真が勢いよく前へ出る。


「よーし!」


 剣を抜き、軽快に駆ける。


 そして綺麗な横薙ぎ。


 スライムが弾け、光になった。


「おぉー!」


 初心者たちが感嘆する。


 透真は得意げに振り返った。


「どう!? じいじ!」


「ほぅ、ちゃんと戦ってるな」


「感想が部活の監督なんよ」


 小春が吹き出した。


「次ー!」


「はいはい」


 今度は小春。


 彼女は杖を構え、小さく呪文を唱える。


 ふわり、と光。


 小さな風弾が飛び、スライムを倒した。


「おぉー!」


「小春ちゃんすごい!」


 文が拍手する。


 小春は少し照れながら戻ってきた。


「じゃあ次、おじいちゃんですね!」


 NPCに呼ばれ、恒一は前へ出る。


 木剣を渡される。


「これで叩けばいいのか」


「はい! まずは通常攻撃を――」


 説明の途中だった。


 ぴょん、とスライムが跳ねる。


 恒一へ向かって。


 その瞬間。


 恒一の身体が自然に動いた。


 一歩踏み込む。


 腰を落とす。


 腕を添える。


 流れるように重心を崩し――。


「……ほっ」


 ぐるん。


 スライムが宙を回った。


 次の瞬間。


 地面へ叩きつけられる。


 ばしゃっ、と青い光が弾けた。


 沈黙。


「…………え?」


 誰かが呟いた。


 講習NPCも固まっている。


 透真たちも目を丸くしていた。


「じ、じいじ……?」


 恒一は首を傾げる。


「……今の、駄目だったか?」


「いやいやいやいや!?」


 透真が叫んだ。


「何したの今!?」


「いや、来たから」


「来たから投げたの!?」


「投げたというか……崩した?」


「スライムって投げられるの!?」


 周囲の初心者たちもざわつき始める。


「今の見た?」


「え、モーションあった?」


「スキルじゃなくね?」


「柔術系職業?」


「いや初心者装備だぞあの人」


 恒一は困った顔になった。


「そんな騒ぐことか?」


「騒ぐよ!?」


 透真が頭を抱える。


 一方、小春は妙に納得した顔だった。


「……じいじ、リアル柔道経験者だもんね」


「あぁ、昔少しな」


「少しでああなる!?」


 すると講習NPCが我に返った。


「え、ええと……大変綺麗な戦闘でした!」


「そうか?」


「はい! たぶん通常想定外ですけど!」


 周囲から笑いが起きる。


 空気が和らいだ。


 恒一は木剣を見下ろしながら、ぼそりと呟く。


「しかしこれ、変な感覚だな」


「何が?」


 透真が尋ねる。


「身体は軽いのに、重心の感覚はちゃんとある」


 恒一は自分の手を握った。


「相手がどこに力を入れてるか、なんとなく分かる」


 それは、長年柔道をやってきた人間の感覚だった。


 ゲームであっても。


 “身体を使う”以上、通じるものがある。


 すると。


「ねぇあなた」


 文が袖を引っ張った。


「ん?」


「あっちの子、泣いてるわよ」


 視線の先。


 初心者プレイヤーの少女が、スライム相手に苦戦していた。


 攻撃を外し、焦って転びそうになっている。


「大丈夫か?」


 恒一が近づく。


「ひゃっ!? す、すみません!」


「いや、謝らんでいい」


 少女はかなり緊張していた。


「どうやれば当たるのか分からなくて……」


 恒一は少し考えたあと、静かに言った。


「相手じゃなく、自分の足を意識するといい」


「足……?」


「転ばないように立つ。まずはそれだ」


 少女はきょとんとする。


「それから、慌てて振るな。ちゃんと見てからでいい」


「……はい」


 少女は深呼吸した。


 そして次のスライムへ向かう。


 一歩。


 落ち着いて踏み込み。


 剣を振る。


 今度は綺麗に当たった。


 スライムが弾ける。


「や、やった……!」


 少女の顔が明るくなる。


「ありがとうございます!」


「いや」


 恒一は少し照れくさそうに頭を掻いた。


 その様子を。


 少し離れた場所から見ているプレイヤーたちがいた。


「……なぁ」


「ん?」


「今の爺さん、初心者だよな?」


「装備は完全に初心者」


「でも動きおかしくね?」


「おかしい」


 その会話を耳にしながら。


 透真はなぜか誇らしげに胸を張っていた。


「だから言ったじゃん」


「うちのじいじ、すごいんだって」





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