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君だけが壊せなかった  作者: 南蛇井


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38/39

シーン5:消滅(99%)

音は、なかった。


光も、なかった。


爆発も、崩壊も、断末魔も――何もなかった。


ただ、


存在が、


静かに、


消え始めた。


最初に消えたのは、足だった。


鹿間斎の靴が、輪郭を失う。


靴底が曖昧になり、地面との境界が溶け、


次の瞬間には――


そこにはもう、何もなかった。


ひかりの手が、震える。


「……っ」


声にならない。


斎の足首が消え、


脛が消え、


膝が消える。


まるで最初から存在しなかったように、


世界から切り取られるのではなく、


世界そのものから、


「無かったこと」にされていく。


痛みは、なかった。


恐怖も、なかった。


ただ、


理解だけがあった。


(これでいい)


斎は、ひかりを見ていた。


泣いている。


顔を歪めて、


必死に、


何かを叫んでいる。


でも、


もう、


音は遠かった。


太ももが消える。


腰が消える。


体が、


半分になる。


それでも、


右手だけは、


残っていた。


ひかりの手を、


握っている手。


ひかりは、両手でその手を包み込んでいた。


「いや……」


涙が落ちる。


手の上に落ちる。


「いや……いや……」


斎は、その感触を感じていた。


温かい。


壊れない。


消えない。


自分が触れても、


壊れなかった、


世界でたった一つのもの。


胸が消える。


肩が消える。


首が消える。


輪郭が、


世界に溶けていく。


残っているのは、


もう、


腕だけだった。


ひかりが、その手を強く握る。


まるで、


引き止めるように。


まるで、


世界につなぎ止めるように。


斎は、最後に、


言葉を残した。


「――もう」


声は、


かすれていた。


それでも、


確かに、


届いた。


「壊さない」


ひかりの目が、


大きく開かれる。


次の瞬間。


手が、


消えた。


感触が、


消えた。


温もりが、


消えた。


そこには、


何も残っていなかった。


完全な、


空白。


鹿間斎という存在は、


世界のどこにも、


残っていなかった。


最初から、


存在しなかったかのように。


ただ、


ひかりの手の中に残った、


涙の温度だけが――


彼が、


確かに、


ここにいた証だった。

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