シーン6:世界の修復(100%)
最初に、
風が戻った。
止まっていたはずの空気が、
思い出したように流れ始める。
河川敷の草が揺れた。
さわ、と。
それは、
あまりにも
当たり前の音だった。
ヒロインは、
立ち尽くしていた。
手を伸ばしたまま。
もう、
そこには
何もない。
握っていたはずの手は、
消えていた。
温もりだけが、
遅れて消えていく。
空を見上げる。
ひび割れていた空が、
静かに、
閉じていく。
硝子の亀裂のようだった傷が、
何事もなかったかのように
滑らかに繋がっていく。
青が、
戻る。
本来の色が、
戻る。
遠くで、
崩れていたビルの瓦礫が、
音もなく、
形を取り戻していく。
崩壊が、
なかったことになる。
壊れた窓が、
割れる前の姿に戻る。
折れた電柱が、
ゆっくりと起き上がる。
まるで、
時間が巻き戻っているように。
人々が、
顔を上げる。
誰も、
理由を知らない。
ただ、
終わったことだけを知る。
災厄が、
終わったことだけを。
ヒロインだけが、
知っている。
理由を。
破壊が止まった理由。
世界が修復された理由。
破壊神が、
消えたから。
彼が、
自分を破壊したから。
ヒロインの喉が、
小さく震える。
声にならない。
名前を呼ぼうとして、
呼べない。
もう、
呼ぶ相手がいない。
彼は、
最後まで
世界を壊さなかった。
彼は、
最後まで
彼女を壊さなかった。
風が吹く。
夕焼けが、
静かに街を染める。
どこにでもある、
ありふれた世界。
彼が守った世界。
ヒロインは、
自分の手を見る。
何も握っていない手。
それでも、
確かに覚えている。
最後の瞬間。
最後の言葉。
「もう」
「壊さない」
ヒロインは、
手を胸に当てる。
目を閉じる。
そして、
小さく、
微笑んだ。
涙を流しながら。
世界は、
続いていく。
破壊神のいない、
世界が。
(完)




