シーン4:最終選択(クライマックス)(97%)
風が、止まっていた。
いや――
世界そのものが、呼吸をやめていた。
鹿間斎は、空を見上げた。
欠けている。
青は途中で途切れ、雲は切断され、その先には何もない。
自分が壊した世界。
自分が否定した世界。
価値がないと結論づけた世界。
そのはずだった。
――なのに。
斎の視線が、ゆっくりと下りる。
そこに、水無月ひかりがいる。
泣いている。
壊れていない。
消えていない。
ここにいる。
自分を見ている。
それだけで。
それだけのことで。
世界は――
完全な「無」ではなかった。
斎は、理解した。
自分は間違っていた。
世界には価値がなかったんじゃない。
価値を、知らなかっただけだ。
価値は、最初から一つだけあった。
彼女だ。
彼女がいた。
それだけで。
それだけで、この世界は――
存在していた。
斎は、静かに息を吐いた。
もう、迷いはなかった。
答えは、出ている。
彼女を守りたい。
彼女を壊したくない。
彼女を、この世界に残したい。
そのために、必要なことは――一つだけだ。
斎は、自分の胸に手を当てた。
心臓の上。
鼓動が、指先に伝わる。
ドクン。
ドクン。
生きている音。
破壊神の音。
ひかりの表情が、凍りついた。
理解した。
理解してしまった。
「……だめ」
声が、掠れる。
「何を……」
斎は、彼女を見た。
その顔を、目に焼き付ける。
忘れないように。
最後まで。
「やめて」
ひかりが、一歩、踏み出す。
「やめて……!」
叫びになる。
涙が、零れ落ちる。
「お願い……!」
斎は、微笑んだ。
それは――
壊れた笑顔ではなかった。
諦めの笑顔でもなかった。
初めての。
本物の笑顔だった。
「大丈夫」
静かな声で、彼は言った。
何が大丈夫なのか、自分でも分からなかった。
それでも、そう言いたかった。
彼女を安心させたかった。
最後まで。
彼女の世界を守りたかった。
能力は、対象を選ばない。
触れたものを、消す。
例外はない。
自分であっても。
斎の指先が、わずかに沈む。
自分の存在の中へ。
境界線が、曖昧になる。
世界と自分の区別が、消えていく。
ひかりが、叫ぶ。
「鹿間くん!!」
斎は、彼女を見ていた。
最後まで。
最後の瞬間まで。
そして――
発動した。




