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君だけが壊せなかった  作者: 南蛇井


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36/39

シーン3:最終解答(95%)

夕暮れが、壊れた世界を赤く染めていた。


空は途中で欠けている。


雲は半分だけ存在し、その先は何もない。


川の流れも、遠くで途切れていた。


まるで、誰かが世界を作るのをやめてしまったみたいに。


その中心で。


鹿間斎は、水無月ひかりを見ていた。


彼女は泣いていた。


泣きながら、それでも、彼を見ていた。


逃げない。


目を逸らさない。


それが、どれほど強いことなのかを、斎は知っていた。


斎は、一歩、前に出た。


ひかりの肩が、びくりと震えた。


「……だめ」


彼女は言った。


震える声で。


「来ないで」


もう一歩。


距離が縮まる。


「待って……」


彼女は首を横に振る。


涙が、頬を伝って落ちる。


「お願い……」


斎は、止まらなかった。


止まれなかった。


止まる理由が、もうなかった。


彼は、ずっと恐れていた。


触れることを。


壊すことを。


失うことを。


でも、今は違う。


彼は知っている。


自分が、選べることを。


壊さないことを。


守ることを。


彼女の前で、斎は立ち止まった。


手を伸ばせば、届く距離。


ひかりは、息を呑んだ。


逃げなかった。


逃げられなかったのかもしれない。


それでも、そこにいた。


斎は、右手を上げた。


むき出しの手。


何も守っていない手。


何も隠していない手。


その手を――


彼女に向けて、伸ばした。


ひかりの肩が、大きく震えた。


それでも。


彼女は、動かなかった。


斎の指先が。


彼女の頬に、触れた。


温かかった。


生きていた。


そこに、存在していた。


壊れなかった。


消えなかった。


失われなかった。


ひかりの瞳が、大きく見開かれた。


斎は、少しだけ笑った。


「……大丈夫だ」


自分に言い聞かせるように。


確認するように。


彼は、彼女に触れていた。


最後まで。


壊さなかった。


壊さないと、選んだ。


それが、彼の答えだった。


「……鹿間くん……」


ひかりの声が、震える。


斎は、彼女を見た。


その顔を。


その涙を。


その存在を。


目に焼き付けるように。


そして――言った。


「ありがとう」


初めてだった。


誰かに、感謝を伝えたのは。


生まれて初めて。


ひかりの瞳から、新しい涙が溢れた。


それは、さっきまでの涙とは違っていた。


斎は、ゆっくりと手を離した。


もう、十分だった。


答えは、出た。


彼は、壊さなかった。


最後まで。


彼女を、壊さなかった。

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