シーン3:最終解答(95%)
夕暮れが、壊れた世界を赤く染めていた。
空は途中で欠けている。
雲は半分だけ存在し、その先は何もない。
川の流れも、遠くで途切れていた。
まるで、誰かが世界を作るのをやめてしまったみたいに。
その中心で。
鹿間斎は、水無月ひかりを見ていた。
彼女は泣いていた。
泣きながら、それでも、彼を見ていた。
逃げない。
目を逸らさない。
それが、どれほど強いことなのかを、斎は知っていた。
斎は、一歩、前に出た。
ひかりの肩が、びくりと震えた。
「……だめ」
彼女は言った。
震える声で。
「来ないで」
もう一歩。
距離が縮まる。
「待って……」
彼女は首を横に振る。
涙が、頬を伝って落ちる。
「お願い……」
斎は、止まらなかった。
止まれなかった。
止まる理由が、もうなかった。
彼は、ずっと恐れていた。
触れることを。
壊すことを。
失うことを。
でも、今は違う。
彼は知っている。
自分が、選べることを。
壊さないことを。
守ることを。
彼女の前で、斎は立ち止まった。
手を伸ばせば、届く距離。
ひかりは、息を呑んだ。
逃げなかった。
逃げられなかったのかもしれない。
それでも、そこにいた。
斎は、右手を上げた。
むき出しの手。
何も守っていない手。
何も隠していない手。
その手を――
彼女に向けて、伸ばした。
ひかりの肩が、大きく震えた。
それでも。
彼女は、動かなかった。
斎の指先が。
彼女の頬に、触れた。
温かかった。
生きていた。
そこに、存在していた。
壊れなかった。
消えなかった。
失われなかった。
ひかりの瞳が、大きく見開かれた。
斎は、少しだけ笑った。
「……大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように。
確認するように。
彼は、彼女に触れていた。
最後まで。
壊さなかった。
壊さないと、選んだ。
それが、彼の答えだった。
「……鹿間くん……」
ひかりの声が、震える。
斎は、彼女を見た。
その顔を。
その涙を。
その存在を。
目に焼き付けるように。
そして――言った。
「ありがとう」
初めてだった。
誰かに、感謝を伝えたのは。
生まれて初めて。
ひかりの瞳から、新しい涙が溢れた。
それは、さっきまでの涙とは違っていた。
斎は、ゆっくりと手を離した。
もう、十分だった。
答えは、出た。
彼は、壊さなかった。
最後まで。
彼女を、壊さなかった。




