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第140話 飛来する脅威

「マカ頼む!」


 翼を生やして空へ飛ぶと、月の見える方角に巨人がいた。

 そしてその前方に、白と赤の球体が一つずつ。


「……っ!」


 ようやくだ。ようやく、木崎さんと会える……ただし、もうすぐで。


「はぁ……良かった……」

「安心してるところ悪いんですけどね、マスター」

「ん?」

「誰かこっち来てますよ?」

「?」


 そう言われて指さす方を見ると、確かに巨人の背中から緑色の球体が三つ、こっちへ飛来してくる。

 鳥程度の速度のそいつは、あきらかにこっちを目指して飛んでくるけど……


「『誰か』っつったよなお前」

「ええ」

「じゃああれ、中に誰かいるのか?」

「そうなんじゃないですか? ……おおっと」


 巨人の方からさらに音がして、赤い球体が炎の弾丸を発射し続けている。

 助太刀したいけど、どうやらこっちはそれどころじゃないらしい。


『セイギ! 何か見えるか?』


 通信石から、グリムさんの声が響く。


「巨人が一体、こっちの仲間……っぽい球体が二つ。で、こっちを狙って飛んでくる球体が三つ……かな」

『そろそろ足止めが来る頃じゃろうよ』

「だよね」


 であれば、僕の行動は一つだ。


「マカ……それなりで頼む」

「はいはーい、それなりですね?」


 背中の羽をさらに伸ばして、色や雰囲気を極力禍々しく空に広げる。

 じゅくじゅくと音を立てて目玉を形作り、それっぽく鎌を手に持つ。

 するとこっちへ飛来していた緑の球体が一つこっちへ飛んできて、残りは馬車のあたりと、足元……先生とグリムさんのいるあたりに着弾した。


「……僕の相手はお前ってか」


 僕の目の前で浮かんだままの球体が、無言でふわふわと浮かんでいる。

 そしてピシピシと音を立てて球体が割れて、その中から出てきたのは……


 ――ジュル……


「え゛?」


 化け物だった。

 巨大な目玉が蝙蝠の羽と触手を備えて、ばさばさと飛行している。


「待っ……ってっ、話が違うだろこれは!」


 せめて話が出来そうなやつが出てくると思っていた。

 幾らなんでも普通に化け物が出てくるのは想定外すぎて……


「え? どう違うんでつか?」


 ……声がした。


「え?」


 きょとん、とした空気が流れて、ばさばさと僕らは羽ばたき続ける。


「……初めまして、芹沢 正義です」

「はじめまして、ゾマともうしまつ!」


 ……なるほど?

 心を落ち着かせて、深呼吸をする。

 今の甲高い声は……うん、明らかに《《前》》から聞こえたな。

 なんなら触手を一本挙手するみたいに上げてたし、そこから導き出される答えは一つだ。うん、一つしかないんだよな。


「えっと……失礼しました、どのような……ご用件ですか?」

「ゾマはでつね、『グリム』と……えっと、誰でちたっけ、ああそうでつ、『チア』を殺ちにきたんでつ!」

「……ああそう」


 朗らかに笑う幼女みたいな声が、夜の森に響く。

 何でこんなバケモンの声が幼女なんだよ普通に気持ち悪いわ……!


「でも貴方みたいなの、久しぶりに見たでつ! あなたもゾマと同じところから生まれたんでつ?」

「同じ……ところ?」

「『おうち』でつ! お肉がいっぱいの……えっと、ぐちゃぐちゃってしてるところでつ! あとパパとママがいまつ!」


 ……聞けば聞くほど不穏な情報に、どんどん嫌な予感が増していく。


「ちょっと待って、さっき下に落ちた玉二つって、もしかしてお前のパパとママ?」

「えっ、よくわかりましたでつね! ゾマ何も言ってないでつ!」

「そうだね、何も言ってないね」

「おにーちゃんかしこいでつ! あと《《舌があるのがうらやましい》》でつ!」


 おにーちゃんって言うな、何かすげえ嫌……だ……ん?


「パパとママ言ってまちた! 『欲しいものを食べていい』って! だから、」


 ぞあっ、と風が吹いて、気温が一気に下がったような緊張感。


「その舌と頭、いただきまーつ!」


 目玉の化け物は、僕に向かって触手を伸ばしてきた。


「ああああああああああ!!」


 傍目には数メートル程度の触手がこっちへ伸びて、反射的に僕は上に飛んで躱す。

 足元を粘液まみれの触手が通過して、生臭いにおいが漂っていた。


「なーにやってんですかマスター」

「羽でかくしたから飛びづらいんだよ!」


 この世で最もバカな要因で死ぬところだった。

 普通サイズに戻した羽で触手を避けたものの、ターンした触手は物理法則を無視して伸び続け、僕を追いかけてくる。


「あっ逃げられたでつ! 待つでつ!」


 そして本体も飛んで来た。

 僕と同じ高さまで飛んで、さらに触手を二本こっちに伸ばす。

 見た感じ触手が十本あるけど、あれが全部あの伸縮率で伸びるのは普通にヤバい。


「ねえマスター、私思うんですけど」

「なんだこんな時に」

「あの粘液絶対ヤバくないですか」

「気が合うなあ同意見だよ」


 触手をさらに避けながら、今度は高度を下げ、みんなのいる方から距離を取った。


「あーもう逃げるなでつ! 待つでつ!」


 振るわれる触手を木々で避ける。

 そして粘液の当たったところから煙を上げて溶けるか焼けるかしていた。


「やっぱヤバかったですね」

「木を溶かす……ってアルカリか? しゃーない、悪いけど無茶するぞ!」

「いつものことでしょ!」


 さらに高度を下げたせいで避けた触手は地面に刺さるけど、だからって急停止してくれるほど甘くはなかった。だけどそれでも、ターンと直進を繰り返せば僕らに勝機は見えてくる。


「あっあっ、あれっ!? 何で止まっ……あいだっ!?」


 ごじゅっ、と嫌な音がして、触手の化け物は木に激突した。

 そしてそのままずるずると下へ落ちて、煙を上げながら動かない。


「うぇ臭ぁ……」


 立ち上ってくる白い煙は、今までに嗅いだことのない、それでも明らかにこっちを刺激してくる匂いだった。

 自動車が激突したみたいな絵面だけど、見えてるのは蝙蝠の羽と触手の生え際だ。虫をひっくり返した時みたいで普通にキモい。


「背中に口があっていきなりぐばー、とかないですよね」

「……ありそうで嫌だな、つっついてみるか」


 そんなB級ホラーみたいな死に方をしたくない。

 てなわけで、着地した僕は、鎌を伸ばしまくって遠距離から目玉の化け物をつついてみる。


「う、う~ん……」

「うわ喋った」


 仕方がないので鎌を戻して、真上から両断する。

 じゅぶん、と嫌な音がして目玉が真っ二つになって、鎌を消した。

 いやーひたすらキモかった。

 けっこう遠くまで来ちゃったし、先生たちと合流しないと――

 ――と思った、その時だった。


「……やっぱりゾマはできそこないでつ……」


 !?


「絶対パパとママがおかしいでつ……こんな体、絶対に役に立たないでつ……ゾマにはわかるでつ、パパとママがあんなふうなのに、ゾマがこんなのじゃダメに決まってまつ……」


 ……真っ二つになった化け物が、まだ平然としゃべっていた。

 ぐばぁ……と粘液を垂らして目玉が自分から切り口を広げて、中から出てきたのは小さな腕。


「パパみたいな腕、ママみたいな脚……そうそう、こんな感じでつ、中身は……まあどうでもいいでつね、大事なのは『機能』だって言ってたでつ」


 じゅるじゅると周りの触手が圧縮されるみたいに収縮して、羽も触手も全部目玉の陰に消えていく、そしてその闇の中から出てきたのは……


「……げぼっ。おまたせしましたです、私はゾマ……ほら、舌なんて作れば問題ないです」


 ……銀髪の、幼女だった。

 口の中から粘液を思い切り吐き出して、滴る粘液と溶けた目玉の体がカーテンみたいに固まって、袖口が開いて、一応の服になっていく。


「よくできてますか?」

「な、何が?」


 べぇ、と《《緑色の》》こっちに舌を出して、幼女は言う。


「舌です。喋れてます?」

「……喋れてるけど使ってないよね。この声どこから出てんの?」

「声は腹から出せってパパが言ってたです、だから腹から出してるです」


 そう言うと、ぐばあ、と口みたいに腹が開いた。当然そこに、舌はある。


「……そっちの口、無い方がいいかなー」

「こっちがないと《《涎》》が止まらないです、だからしかたないです」


 ああはい、涎ね……


「お待たせしたです、それじゃあおにーちゃんを食べるです」

「もう舌もあるし、いいんじゃないかなー……」

「パパとママが言ってたです、ゾマは頭が悪いって……」

「……」


 そう言って、少し表情を曇らせる化け物。

 その様子に妙にイラっとしたけど……


「……だから! おにーちゃんののーみそ食べてかしこくなるです!」


 今ここは戦場だ。

 もうすぐ近くに木崎さんがいる。

 だから、『敵』に同情してる暇なんて……どこにもない。


「良かったですねマスター」

「何が?」

「化け物で」


 ……ああ、本当にお前の言うとおりだよ。


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