第111話 終わったこと、この先のこと
先生たちと別行動を取って、木崎さんに誘われたテントの中。
少し話が落ち着いたところで、木崎さんがふと言った。
「ところで提案があるんだけど」
「?」
「最近、正直いろいろありすぎて整理がついてないと思うの」
「うん」
「あのアンドロイドがこの村にいるうちに、状況を整理しない?」
「あー……賛成。大賛成」
確かに、言われてみればそうである。
王国から戻ったら妹……香撫がいたことから始まって、ジャックさんのこととか、あの三人が来たりとか、『商会』のシルバーがどう見てもアンドロイドだったりとか、最近色々ありすぎたのは間違いない。
「じゃあ香撫呼ぼうか……もしもし?」
『どうしたのー?』
通信石を使って妹を呼び出せる。本当、便利になったなあ。
「ちょっと話がしたいんだけどさ、今どこにいる?」
『油の積み込みが終わったところだよ。ゴルゴーさん……だっけ? の愛人さんたちと一緒にいるの。みんなお菓子くれたよ~』
「え、愛人?」
「愛人……?」
「おや」
狐のメイドさんとか見かけたけど、あれってそういうことだったのか。
まさかゴルゴー、愛人を連れまわしてたから上司に震えてるってことじゃないよな……
「ま、いいや。今木崎さんのテントにいるからさ、来てくれないか」
『え、いいの? 行く行くー』
「来るって」
「そう」
そうしてほどなくして、香撫がやってきた。
「いらっしゃい」
「おじゃましまーす。ここが木崎さんのテント? いいなー」
「普通だと思うけど」
「ねぇお兄ちゃぁん、わたしも一人用のテントがいいなー」
そう言うと甘えるようにしなだれかかってきて、僕の頬をつつく。
「僕に甘えるんじゃなくて、グリムさんとかに言えばいいだろ、ちゃんと礼儀正しくして、きちんと頼みごとを出来るようになるのも大事だぞ」
これに関しては僕もできなかったけどな。木崎さんに学んだことだ。
「ん……がんばる」
「よしよし」
妹の大事な成長をなでてやると、妹の後ろで悪魔がにやついていた。
「……何?」
「いえいえ、どうぞ続けてください? ねえ木崎さん?」
「正義君、話を始めたいんだけど」
「あ、ごめんごめん」
「あぁん」
妙な声を出して妹を引きはがして、話を始める。
一番最初に口を開いたのは、木崎さんだった。
「まず片付いたことから整理する。まずは正義君と妹さんのわだかまり」
いきなりそれかぁ……とは思ったけど、大事なことだ。
「わだかまりなんてないよ」
と思ったら、香撫がむくれたように言った。
「あのな、香撫……」
「なかったの。あったとしてももういいの! あなたもそう思うでしょ!?」
そして、叫んだ相手は木崎さんだった。
「……確かに、正義君の態度は本当に変わったと思う」
そうだっけ……
「それに、私がどう思うかなんて関係ない。貴女が好きなようにできれば、それが一番いいと思う」
「何でもお見通しみたいに言うじゃん」
「でもあなた、今が今までで一番素直な気持ちで、素直に言いたいこと、言えてるでしょ?」
「っ!」
言い返せないのか、香撫が黙ってしまった。
でも本当にそうなら、それは僕ら家族にとって一番いいことなのには間違いない。
「私もそうだったから。言わなくてもわかることも確かにあるけど、言いたいことがあるなら思いっきり言わなきゃダメ。そうじゃないと、家族からも逃げなきゃいけなくなっちゃうから」
「……はぁい」
「……はい」
返事をしながら、僕は思った。
言いたいことを言える家族がいて……《《それでも木崎さんは、この世界から帰るつもりはないんだ》》。
まるで想像もつかない木崎さんの大きな意思がそこにある気がして、圧倒される。
「次に、私たちが連れてきたジャックさんのことだけど……」
「なんかすぐに引き抜かれちゃったね。仕方ないけどさ」
「あーさっき言ってた。愛人さんたちはあんまり気にしてなかったけど」
そりゃまあ商会の一員ばっかりだしなあ。
誰々がお金で動きましたと言われて変な顔するってこともないだろう。
「問題は、この村で通信石を作れなくなったこと」
「でもこれからは樹脂を売るみたいだし、グリムさんも言ってたけどどうせ断っても通信石を作りすぎることになるだけだから、樹脂が売れればいいんじゃないの?」
「ん、まあそうなんだけど。ちょっともったいないかなって」
「まあわかるけど、平和が一番でしょ」
通信石ばかりをたくさん作ったところで売れなきゃ意味がないわけで、少なくとも間違った判断じゃないだろう。あんまり商会に目を付けられたくもないしな。
てなわけで、グリムさん方式のほうが良いとは思う。
「あのー、素朴な疑問なんですけど」
「珍しいな、どしたの」
とか思ってたら、マカが挙手して言った。
「マスターもそうなんですけど、基本的に皆さん、『商会』にえらくビビってますよね? それってどうしてなんですか? それこそ悪い奴はマスターのチートでバンバンすればいいんじゃないです?」
悪魔らしい意見ではあるんだけどなあ。
ビビってるとか言わないでほしい。
「正直ちょっとそれわたしも思った。あのアンドロイドはやばそうだけど、実際にやばかったらお兄ちゃんがどうにかできないの?」
「あのなあ……いやまあ理屈はわかるけどな?」
「……」
木崎さんは何も言わずにこっちを見ているし、ここは僕が説明する流れっぽいな。
「なんか僕が無敵みたいなことは言われるけどさ、別にそうでもないからな? 前に先生に頼まれて過激派カルト宗教潰したことあるけど、その時だって僕は撃たれかけたり刺されかけたりチェーンソーでバラバラにされかけたり散々だったんだぞ」
「あ、思い出したあの殺人未遂がいっぱい続いたとき! 心配したんだからね」
香撫は『僕のかかわった事件の犯人を知るチート』持ちなので覚えてるらしかったが、とにかく僕は無敵ってわけじゃなくて、攻撃出来れば勝てるってだけなのだ。
「狙撃されたら終わりだし、一人捕まえてる間に後ろから……まあこの話はいいや、とにかくそう簡単じゃないんだよ。例えば無理やりゴルゴーに食料を持ってこさせたところで、他の部下とかまでが言うこと聞くわけじゃないだろ」
「まあ確かに……」
「そりゃそうだけど……」
おいこら妹よ、悪魔と同調するんじゃない。
「ってなわけで、『商会』と敵対なんてしないしすべきじゃない。力を持ってるからってチート任せなんてのは死亡フラグだ、分かったな香撫」
「はぁい」
「わかったなクソ悪魔」
「扱いが違いすぎませんかね!」
「だってお前悪意あるじゃん。どうせ片っ端から支配して商会とかいう大きな組織を好きに操ってみたいなーとか考えてるだろ」
「はい」
それが何か? みたいな顔をするな。
「そういうのに興味はないんだよ。はい次の話題次の話題」
「あとはあの三人」
「あー、転生者のみなさんね……そういえばどこ行ったんだろう?」
こんな天気で外出するってのも珍しい気がするけれど。
「今朝森のほうへ行くとか言ってましたよ。ここへ帰るかは知りません」
「マジか、しまったなあ、忙しかったから見てられなかった……」
さすがに見逃したのはまずかっただろうか。
「……でも、別に害はないと思う」
「なんでそう思うの?」
「何でってこともないけど……この村を襲う気なら、とっくに襲ってた気がして」
「確かに……っていうか、マカはどうせ頭の中読んだんだろ?」
「読んでませんよ?」
「え? そうなの?」
「バレたら面倒だから読むなって言ったのはマスターじゃないですか」
「え。そうだっけ? でもまあ実際そうか」
商会と同じで、要らない恨みを買いたくない気持ちはすごくある。
「そもそも魔王を倒しに行くとかどうとか誘われてたじゃないですか。マスターは気にならないんですか?」
「グリムさんが言うには転生者の中に魔王がいるらしいから、それでしょ。確かにそれを倒しに行くみたいなことは言ってたけど、気になるかと言われればねえ」
「……私も、あの天使に魔王を倒せば帰れるとは言われたけど……正直、今はそのことは気にならない。グリムが次期王権を取るほうがよっぽどこの里には重要だと思うし……今から投げ出したくなんてない」
「わたしが言うのも変だけど……別に、魔王に苦しめられてないよね、この世界」
「いや実際そうだよ、普通に暮らしてて魔王のマの字も聞かないし」
もしかしたら良くないことなのかもしれないけど、今は脅威でもなさそうな魔王より、差し迫ったエルフの選挙のほうが重要だ。だったらそっちだけを気にしていたいってのは、仕方のないことだと思う。
「えっと、あとはこれくらいだっけ?」
「……何か忘れてるような……」
頭の中で何かのシルエットが板になって、鉄のように光り始める。
「……あ、暗号」
「そういえば、あれが一番訳が分からない」
「そうだよね、何で……」
と、そこまで言った時だった。
通信石がぴかぴかと光って、先生の声がする。
「あーもしもし、みんないるね? 聞こえたらすぐに村の中央のテントに来てくれ。なるべく早くね」
なんだろうと思っていると、結論は早かった。
「例の暗号の板について、シルバーの方が直々に話を聞きたいそうだよ」




