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treasure seeker  作者: 草葉 影野
《過去編》11 桜の下に埋まっているもの。
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《過去編》 11 月下の桜-1

ちょっと世界観? 的なのを1本。

現在編第一話の頃の時間軸です。

 ……眩しい。


 雲一つない澄み切った夜空に、星の共も連れずに満月が輝いている。

 その柔らかな月光が明るく大地を照らしていた。


 ぼんやりと眺めていた俺は、思わずガバ、と飛び起きた。


「……ちょっと待て?!

 あの月は、なんで光ってるんだ?!」


 太陽は、人工なのだと聞いたけれど、月のことは何も言っていなかった。

 大体、大きさが全然違うから人工太陽が夜も光っているとは思いがたい。

 気になると、眠れなくなってきた。すっかり目が冴えてしまった俺は、もっと良く見たくなって草原に出ようとベッドを出た。


 と、ドアまで歩いてカクヤ君の話を思い出す。


『ボクが一緒でない時は、鍵をかけさせて貰います』


 そうだった。こんな深夜だ。

 鍵だって掛かっているだろうし、わざわざ俺の我が侭でカクヤ君を起こす訳にもいかない。

 第一、カクヤ君が何処に居るのかすら、俺には分からないって言うのに。

 ほんの少し落胆して、またベッドへと戻りかける。


「―――――んッ?!」


 薄暗い部屋の中で、俺は振り返っていた。

 電子ロックが作動中には必ず点いているランプが消えている。


「おかしいな……まさか、故障か?」


 それこそ、まさかだ。

 けれど、試しに手動開閉用のレバーを引いてみると、呆気ないくらい簡単に重厚なそのドアが開いた。

 思がけない展開に、恐る恐る通路に顔だけを出してキョロキョロと見回してみる。

 すると、おかしな事に常に灯っている筈の非常灯なんかも消えている。


 しかし、辺りはしーんと静まりかえっていて、異常事態って感じでもない。

 考えた末、俺は身なりを整えて最初の目的を果たしに草原へと向かう事にした。


 そもそも、異常事態なら既に何らかの手が打たれているだろうし、万が一そうでなくても俺ごときで対応出来るとは到底思えないから。

 とは言え、出ている間にシステムが戻って締め出しを食らうとマズイから、一応ロックを外した状態で……つまり、開けっ放しにしておいて部屋を出た。

 大して迷いもせずに渡り廊下から草原へと出ると、遙か向こうに馬鹿デカイ木が見えた。

 何故今まで気付かなかったのかが不思議なくらい、その大木は印象的だった。


 淡い薄紅の花弁を持った小さな花を枝いっぱいに付け、今が盛りとばかりに咲き誇っているように見えた。

 その大木の根本に、誰かが立っている。


 一人は大人。

 そしてもう一人は子供のようだった。


 その後ろ姿を一目見て、俺は走り出していた。


   そんな筈はない。

   アイツは、あの時―――――


 俺が、その大木の根元に辿り着いた時、もう人影は消えていた。

 荒くなった息を整えて、改めて咲き誇る花を見上げる。


 見つめていると、何故か胸が締め付けられる様な感覚がある。


 はらはらと舞い散る花びらが辺り一面を埋めて、そこだけが絨毯でも敷き詰めたかのように違う空間を創り出していた。


「……何故、此処に居るんだね?」


 いきなり声をかけられて、酷く驚いた。

 人の気配など、全く感じなかったのに……。


 振り返ると、黒髪を長く伸ばした痩身の男性が立っていた。

 年の頃なら30代前半と言った所だろうか?


「あ、いえ……その、知り合いに似た人が、居た気がして……それで……」


 忍者組織の人だろうか? だとしたら、俺がこんな所に居るなんてヤバイのでは?


「すいませんッ!!

 そのっ、ドアの鍵が開いてたもんで、つい、月見でもしようかなって……。

 無断で外に出てしまって、申し訳ありません!!」


 ぺこりと頭を下げた俺に、その人物は何故かくつくつと笑いだした。


「???」


「ああ、いや、すまない。

 私は無断で部屋を出た事を責めているのではないんだ。


 ―――この場所は、少し特殊な場所でね。

 普通の人間では此処に近付く事すら出来ないんだよ。


 特に、今夜などは尚更ね。」


「そうなんですか? 俺には良く分からないんですけど。

 あ、ひょっとして、俺、邪魔ですか?」


 彼がこんな深夜に『そう言う場所』にいるのは、何かの儀式をする為かも知れないと思い至って、お伺いを立ててみた。


 男性は少し考えると、真っ直ぐに見つめて言った。


「いや、キミも見ておいた方が良いのかも知れない。

 “此処”に入れるのなら、その資格が在るのだろうから」


 意味不明な言葉だったけれど、忍者が行う儀式ってモノに興味が湧いていたのも事実な訳で、俺は取り敢えず神妙な顔を作って頷いておいた。


「ふふ。度胸が良いのか、はたまた怖いモノ知らずというか―――。

 まぁ、いい。そろそろ始めよう」


 男性は、何処に持っていたのか刀を抜いた。

 相変わらず、忍者ってのはこの人もそうだし、この間やり合った去月もそうだけど、何処にそんな長モノを隠し持っているのか不思議でならない。


 その刀は、去月の刀とは違って、刀身が白かった。


「さぁ、白龍……今宵も

 その輝きで皆を導いておくれ―――――」


 高く差し上げると、刀が光を放ち始める。

 闇夜を照らす、今夜の月のように柔らかな、しかし、冴えた輝きだ。


 美しい光景だった。


 見とれている俺の耳に、微かな声が聞こえた気がした。


 他に人なんか居ないのに、と不審に思って辺りを見回しても、やっぱり誰も居ない。

 けれど、やっぱり話し声が聞こえる。


 それも、一人や二人ではない、大勢の―――人の声が。




 『ママぁ……ママぁ……』


 『孫が達者で暮らせますように……』


 『祖国万歳!―――』




 様々な声は、老若男女問わず……更には人でないものまでいるらしい。

 動物たちの鳴き声も混じっているようだ。


「キミは、帰らなかっただろう?

 だが、今のキミに理解しろとは言わない。見ているだけで良い。

 いつか分かる時が来るだろう―――――」


 舞い散る花びらだと思っていた物が、いつの間にか数多くの小さな光に変わっていた。

 そして声は、その一つ一つから聞こえている。


「……こ、これは……一体……」


 事実、俺には、今見ている光景が理解不能だった。

 彼の言っている事もさっぱり分からなかったのだし。


 ただ、小さな光が……酷く悲しい光に見えていた。

 何故か、熱い物がこみ上げてくる。


 数多くの光達は、ゆっくりと大木の中へと吸い込まれるように消えていった。

 最後の一つが消えて、少しした後に、ぴいいいいいい、と甲高い音がした。


 俺は、漠然と『ああ、汽笛の音だ』と思っていた。

 そして『もう列車が出るんだ』とも。


「―――この木は、”桜”と言う種類なのだが、昔から不思議な伝承があってね」


 話しかけると言う風でもなく、彼が呟いた。

 俺は、黙って先を促した。


「この木の下には、死体が埋まっていると言うんだよ。


 本来、桜の花びらは雪のように真っ白なのだが、下に埋まっている死体の血を吸い上げて薄紅色に染まるのだと……。

 或いは、死体を養分にしているから、毎年こんなにも美しく咲くのだとね」

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