《過去編》 10 キャンディはミルク味。
短くカイリの過去編を1話。ちょい重め及び胸クソかも……。
「あら、いらっしゃい。どうしたの、珍しいわね」
ツクミに頼んであった呪具を受け取りに、ナカミカドの本家へ顔を出したら、当主であるトモエさんに声を掛けられた。
「ご無沙汰しています。ツクミに呪具を頼んでいたんです」
「そう。カイリくん、ちょっと時間良いかしら?」
「はい」
* * * * *
トモエさんに導かれ、綺麗に手入れされた竹林を抜け庵へと向かう。
子供の頃、この辺りでよく遊んだ思い出がある。
「ごめんなさいね。こんな所まで」
角を曲がると、こぢんまりとした庵が建っている。
「いいえ、お気になさらずに」
鍵を開け、中に入っていく。
暫く使っていなかったのか、ほんの少し空気がこもっていた。
「そこに座っててちょうだいな」
そう言って、トモエさんはてきぱきと雨戸を開け始めた。
出しゃばる間もなく薄暗かった庵に光が射し込む。
「はぁ、よいしょっと。
年取るとやぁね。何をするにもかけ声がいるんだもの」
照れくさそうに笑いながら、オレの前へと座る。
「一度ね、キミとはゆっくり話してみたかったの。
ずぅっと前から……」
遠い目をして話すトモエさんの主語が分からなくて、聞き返す。
「……何の話を、ですか?」
「そう、何でもいいのよ……。
シズカの事、シュウガの事、カイエちゃんやツクミの事―――。
それから、勿論、キミ自身の事もね」
と、笑いかけられて、ちょっと焦る。
さすがに母と実の姉妹だけあって、面影がある。
とは言え、オレの知っている「母」は、殆ど写真でしかないが。
「キミとカイエちゃんの事、私は、何にもしてあげられなかった。
一番近い所にいた癖に、私は祖母と上層部の言いなりになるしか術を知らなかったから……」
深い悔恨。
ふと、考える。
当時を知る彼女にとって、オレは、どうその目に映って居るのだろうかと。
「仕方がありません。あの頃は、そうするしか道など無かった……」
伏せていた顔が、上がった。
「カイリ君、キミは……キミは一体何処まで知っているの?」
「―――恐らく、総てを。」
トモエさんが、息をのむ。
「ど、どうして、何故? ……誰が?!」
「様々な人や、記録から。一番話してくれたのは、父です」
彼女の瞳から涙が、溢れた。
「なんて事、シュウガ……」
「消息を絶つ直前でしたが、父から直接聞かされました。
自分が、ナカミカドの直系である事。
実の妹である事を知らずに母を愛し、子を成した事。
そしてそれが、当時の上層部とナカミカドの先代の謀である事。
また、自分達の2番目と3番目の子供が実験動物である事―――――」
嗚咽が漏れる。
「……本当に、キミは何でも知っているのね。
両親のことも、そして、あの子のことも……」
トモエさんも、気付いている。
オレが、さっき『2番目と3番目の子供』といった意味を。
「ですが、父とて、オレに聞かせたくて話したのではないかも知れません。
あの時、父の目にはオレではなく母が映っていたでしょうから」
オレの頬に白い手が伸びる。
「そうね……瓜二つよ。キミは本当にシズカそっくり。
シュウガが狂うのも仕方ないような気がするわ。
でも、そのせいでキミは―――」
「もう、昔の事です。
確かにあの時、サヤカゲさんが来てくれなかったら……此処には居なかったかも知れませんが」
苦笑が漏れる。
あの日のことは、死ぬまで忘れられない。
実の母だけではなく、実の父にまで殺されかけたあの日を。
「ヤギヌマ君はキミの師匠だったわね。
キミにとって、本当に父と呼べるのは彼なのね」
「……サヤカゲさんも、トモエさんも。
そして、当時オレ達に関わった全員が何某かの罪悪感を抱いているんでしょうね。
だから、そんな人達だけはオレ達に理解を示してくれている。
そう、思います」
「カイリ君。
キミはさっき自分達の事を『実験動物』だなんて言ったけど、私達はそんな風に思っていないわ。
キミは、もっと、キミという存在を好きな人の事を信用してあげなさい。
……って、私が言うことでも無いんだけれど。
勿論、私もその一人だから」
そう言って、着物の胸に抱きしめられた。
何の匂いか分からないけれど、甘い香りがした。
母親の胸の中って言うのは、こんな感じなんだろうかと、少し胸が痛んだ。
オレの「母親」のイメージは、喉に食い込む指の感触と、鉄の味の赤い液体だけだったから。
その後、無事ツクミから呪具を受け取った帰り際、見送りに来てくれたトモエさんはオレに手を出させて、何かをくれた。
「門を出るまで見ちゃダメよ?」
と、見えないように手を握らせ、お茶目に念押しする。
「なによ、ママ! カイリちゃんは私のなんだから、手出ししちゃダメじゃない!!」
半分冗談、半分本気で怒るツクミとトモエさんに別れを告げ、屋敷を後にした。
約束通り門を出てから手を開くと、かわいらしい包みが3つ、乗っかっていた。
ミルク味のそれを一つ、口に放り込んだ。
ふうわりとさっきの甘い香りが広がる。
「………」
何だか妙に納得して、再び帰途についた。




