《過去編》 9-3 knights in night -序ノ3-
風呂敷広げ過ぎですかねぇ。
何を言われたのかが判らない。
「何から話せば良いのかな。
貴方、子供の頃、他の人が見えないモノが見えたでしょ?」
私は頷いた。
「貴方には、精霊魔法使いの素質が……それも、かなり強力なものが生まれながらに備わっているんだ」
「せーれーまほーつかい?
なんだそれ? ファンタジーRPGじゃ有るまいし……」
少年は大真面目だ。
しかしながら、そんな事、すぐに信じられる訳もなくて。
「実在するんだよ?
だって、ボクもまぁ、一応そうだし。
万物に宿る精霊の力を借りて、常識では計り知れない事をやってのける超常能力者」
と、少年は私を指差す。
「―――お、俺が?」
ひょっとして、私って凄いのか?
「……とは言え、貴方はその素質があっても、肝心の精霊との契約を交わしていないから、その力を行使する事は出来ないけれどね」
一瞬、有頂天になりかけたものの、すぐさま急降下。
「なーんだって、思ったでしょ?」
しっかり見透かされているし。
「だってさ、しがない技術系サラリーマンの俺が、いきなりそんな魔法使いだなんて言われたら……」
がっくりと肩を落とす私の姿に、彼はくすくすと笑っている。
「でも、過ぎた力は、その身をも焦がしかねない。」
少年は、いつの間にか真顔だった。
「実際、今回あんな怪物に襲われたのも、それが原因なんだ。
貴方が、稀に見る素質の持ち主だったから」
私が思わずあの怪物を思い出して身を固くしたのを気付いたのだろう。
少年は労るような表情を見せる。
「前回、ボクの父が貴方の力を封印した事を聞かされていました。
しかし、父でも貴方の力を完全に眠らせる事が出来なかったそうです。
だから仕方なく、一時的な封印しか出来なかった。
そしてその封印の効力が、今この時に切れてしまった」
「そうか。じゃあ、あの時の男の人が君のお父さんなんだ」
あの、優しい大きな手の男の人。
「封印の効力が切れたが為に、あの怪物達は貴方の力を嗅ぎ付け、貴方を喰らおうとした」
じゃあ、少なくとも原因? は私の方に有った訳だ。
でも、ちょっと待て。
「先生、質問があります」
彼は笑いながら答えてくれる。
「はい、何ですか?」
「そもそも、あの怪物はなんなんだい?
大体、何故俺を―――と言うか、何だっけ?
その、まほーつかいの素質を持ってると喰われるんだ?」
少年は暫く無言だった。
話すか話すまいか、思案しているようだった。
そして、私の目を見つめた。
「―――こうなるのも、また、必然なのかも知れない」
小さく呟くと、少年は決心したように口を開いた。
「あれはね、可哀想な子供のなれの果てなんだ。
散々倫理なんて無視した連中に弄ばれて、数字が満たなければ失敗作だと蔑まれて、挙げ句の果てに廃棄された。
恨みを抱き、血の涙を流しながら、怨嗟の声をあげている、罪なき子供達なんだ。
彼らが悪いんじゃない。
あんな風にしてしまった奴らが悪いんだ。
それだけは判ってあげて」
私は、ようやく理解した。
何故、この少年が彼らを狩る者となったのか。
それは、彼が“唯一の完全体”であるが故の、仲間への罪滅ぼしなのだと。
「君は、悲しい子だな。
ずっとこんな事を続けているのかい?」
少年は寂しそうに頷いた。
「一番最初は、3歳の時だったらしいよ。
もう、自分でも覚えてないけどね。
それからずっと。
何百、何千……数え切れないくらい殺してきた」
「止められないのかい?」
『もういいんじゃないのかい?』とは、言えなかった。
「殺すだけなら、ボクで無くても可能かも知れない。
そう、簡単なことだ。
手加減を、一切しなけりゃいいだけなのだから。
被害なんて事を考えずにすむのなら、彼らの魔法障壁を越えるだけの攻撃力を超大出力レーザーでも、核ミサイルでも、全力で叩きつければいい……」
少年が、口を噤む。
「―――でも、それじゃ……あの子達は救われない。
命の円環へ帰ることが出来ない。
恨みと悲しみを抱えたまま、この世界へ固定してしまう。
そんなのは、不幸だ」
『でも、それじゃあ、君が救われない』
言葉はまたも、音を伴うことがなかった。
泣きそうな表情をしている少年の頭を撫でる。
「もし良かったら、名前を教えてくれないかな?」
少年は素直に教えてくれた。
「偕理。御神薙 偕理。―――あなたは?」
「俺は三津木 修平、技術系のしがないサラリーマン……は、さっき言ったっけ?
―――で、」
私はさっきから引っかかっている事に話を戻す。
「何で俺がブラック・ブラッドのファンだと困るんだい?」
少年がまたも、困った顔をする。
「あの、あれって、ボク……本人なんだ。
って、信じないならそれで良いんだけど」
私は思いきり首を振った。
さっきから瞬きする回数すら惜しんで見ている少年は、どう見てもポスターの彼と同じにしか見えない。
「―――やっぱり。
此処まで話しちゃったら、仕方ないかな」
再びため息が漏れる。
「困ったなぁって言うのは、その、貴方くらい魔法の素質を持ってる人には、ボクが使う記憶処理の魔法がとても効き辛い、んだ。
普通、こんな記憶は本人にとってあまり良くないから、最後に忘れてもらう―――記憶を封印してしまうんだけどね」
「じゃあ、俺は、キミの事を覚えていても良いんだね?」
「仕方ないよ。
多分、記憶処理は跳ねつけられちゃうし」
「―――キミの”力”の事は?」
実を言うと、さっきから創作意欲を刺激されまくっている。
「―――そっか、貴方、クリエイターさんなんだっけ?」
「ま、その、一流じゃないけどね」
「そう言えば、ボクの幼馴染みが貴方のファンだっけ。
う~ん、そうだなぁ。
フィクションだって断ってくれれば、特に問題ないかな?
ボクの方は、事実的にこの件に関して一切の権限を持ってるから。
後から文句は言わせないし」
そこまで言って、少年は表情を引き締めて私を見つめた。
「―――で、ここからは貴方自身の話になるんだけど」
「え?」
「貴方のその”力”について、だよ。
実際問題として、貴方の力はかなり強力なモノなんだ。
精霊と契約をして、きちんとした訓練を積めば、宇宙全体でもトップクラスの実力を得られるくらいのね。
それこそ、伝説の精霊魔法使い“獄炎の魔導士”ことシュターニスラウス・オーベルシュタインに勝るとも劣らない大魔導士になれる」
その名前は、そんな世界と無縁だった私でも聞いた事がある。
殆ど、お伽噺のように聞いていたけれど。
「でも、そうなる為には今までの生活を捨てる事になる」
「何故なんだい?」
「この星には、もう精霊が極僅かしか生息していないんだ。
ここ何年かで急速に……それこそ絶滅に近いくらいに減少してしまった。
だから、この星には貴方の素質に見合うだけの精霊がいない。
そして、外から精霊を連れてくる事も出来ない。
この星自体の、もう随分狂ってしまったけれど、バランスの崩壊を助長してしまう恐れがあるからね。
オマケに、精霊魔法使いの”統べる力”は制御するのに結構な訓練を必要とするけれど、やっぱり、この星では訓練できない。
―――それに、フリーの魔法使いは何かと大変なんだ」
「何それ、フリーって?」
「魔導の世界は、酷く狭くてね。
それにあんな怪物にも狙われたりもする。
その力の増強を図る為に犠牲になったあの子達には、精霊魔法使いの力はかえって役に立たないばかりか、格好の餌食になってしまう事が多い」
「…………」
「どうする?
ボクは、貴方の選択を尊重するよ」
優しい顔だった。
TVのドラマで画面越しに見るよりも。
「―――俺は、今の生活が気に入ってる……」
少年は頷いた。
そして、立ち上がる。
「じゃあ、貴方の力を封印しよう。」
緩やかな詠唱が少年の唇から紬ぎ出される。
額に熱を感じた。
私達を中心にした円……魔法陣と言うのだろうか? が、光によって描かれていく。
ああ、そうだ。あの時も、こうだった。
体の中にある、扉が閉じられてゆく、この感じ。
それはほんの一瞬だったかも知れないし、酷く長い時間だったのかも知れない。
「これで、もう、怪物達に目を付けられる事もないと思うよ。
次にこの封印が切れる頃には、ボクが彼らとの決着を付けている筈だから」
「ああ、有り難う」
「じゃあ、そろそろボクは帰るね」
その腕を、とっさに掴んでいた。
「……その、また、会えないかな、偕理くん?」
少年はきょとんとしていた。
「あの、その、何か作るにしても、ネタが無いと作れないし、その……キミの事、もっと良く知りたいしさ」
もうしどろもどろで、自分でも何を喋っているのか良く判っていなかった。
今思えば、もの凄く恥ずかしい事を喋ったかも知れない。
でも、
「そうだね。―――じゃあ、時々逢いに来ようかな?」
「楽しみに待ってるよ!!」
* * * * *
一週間だけの休暇が開けた。
私は久々に晴れ晴れとした気分で出社した。
「あれ、三津木さん……随分さわやかな顔してますね?
休み前とは別人みたいですよ?」
同じチームのデザイナーの女の子に声を掛けられる。
「そうかい?
さぁ、また、バリバリ仕事しなくちゃね」
「そうですよ~。こんな時期にプロジェクトの責任者に一週間も休まれちゃ、溜まりませんよ~」
サブの役職に就いている部下からも泣き言を言われる始末だ。
「あはは、ゴメンゴメン。もう、大丈夫だからさ。心配かけて悪かった」
ふと、思いついた。
「あ、そうだ。ウチのHPの新企画だけど、何か良い案有った?」
「いいえ。まだ、特には何も。それが何か?」
「もし良かったら、Web小説なんて、どうかなぁって思ったからさ……」




