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treasure seeker  作者: 草葉 影野
《過去編》09 Knights in night -序-
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《過去編》 9-1 knights in night -序ノ1-

過去編ばっかでスミマセン……。

「殺すだけなら、ボクでなくても可能かも知れない。

 そう、簡単なことだ。

 手加減を、一切しなけりゃいいだけなのだから」


 黒き刃を携えた、真黒き騎士は寂しそうにそう言った。





 その日は、大昔の悪夢をみて目が覚めた。

「怪物」に襲われる夢。

 子供の頃から悩まされ続けてきたそれを、ここ数年は見ていなかった。

 元々、私は物心ついた頃から他の人には見えないモノが見えていた。

 昔は、『それら』もたくさん居た。

  家の庭に、

  道の端に、

  電柱の影に、

  街路樹の枝に。

 しかしいつの間にか『それら』は数を減らしていき、やがて絶えた。

 小さくやさしい『それら』は見えなくなってしまった。


 だから安心していた。もう、あんな『夢』も見ないと。


 しかし久々に見た『それ』は、かつて見た、曖昧だった頃のモノとは異なり、酷く生々しく、残酷で、その日一日どころか、しばらくの間は、惨憺たる精神状態を決定づけるモノだった。


 その内容は不気味な怪物に生きながら捕食される夢……。

 肉が引き裂かれる音、骨がかみ砕かれる音、滴り啜られる体液の音……。

 それら全てを認識しながら、食われていく自分。


 為す術もなく。


 幼い頃の私は、いつもおびえていた。

 飛び起きては泣きわめき、両親を困らせた。

 そんな私を心配した両親は、大きな病院の精神科へ行ったりもしたが、結局は知人に紹介されたという怪しげな”呪い師”を私の前へ連れてきた。

 何分、子供の頃の話なので、良くは覚えていないが、身なりは普通の人だった様に記憶している。

 優しい大きな手で、私の頭を撫でてくれた。


『怖い思いをしていたんだね。

 ―――でも、もう大丈夫だよ』


 そう言って。

 それからもう10年以上が経つ。

 それっきり、『悪夢』は見なくなった。


 だから。




 しかし、私はもう一言、最後の言葉を覚えている。


『でももし、もう一度見た時には、また私達に助けを求めなさい。

 私か……或いは”真黒き騎士”が助けに来てあげますから』と。


 だが、あいにく両親は事故で二人とも他界してしまっている。

 何処のどういう伝手であの人を紹介されたのか、今となっては私には知る術がない。

 仕方がないのか。

 また、あの夢におびえる夜が来る。

 そして、それは一生続くのか―――。

 限りなく、憂鬱だ。



 一週間が過ぎた。



 『夢』はますます鮮明に、現実感を伴って私を苦しめる。

 腕を噛み千切られて目が覚めた朝には、腕に歯形のような痕が残っていたり。

 爪で引き裂かれて飛び起きた朝には、胸から脇腹にかけて太く醜いミミズ腫れが浮かんでいたり。

 精神科でカウンセリングを受けると、精神が高ぶって居たりすると、肉体までもが過敏になり自らそんな痕を浮かび上がらせるのだと言われた。


 でも、納得出来ない。

 こんなモノがヒステリー症状だなんて。

 ならば、原因は何なのだ。

 私の問いに医師は、「ストレスでしょう」とたった一言で済ませてしまった。

 納得するしか無いのか?



 また、一週間が過ぎた。



 もう、ストレスなどでは済まなくなるくらい状況は切迫していた。

 白昼夢として、起きている私の目の前にそれは現れる。


 仕事にならない。


 私は上司に長期休暇を願い出た。

 3週間申請した休暇は、繁忙期を理由に1週間に短縮された。

 まぁ、クビだと言われないだけマシなのかも知れない。

 世界的に不景気なご時世だし。


 一つ、発見があった。


 何かに集中していると、『それ』は見えない。

 ふと我に返った時や、一人で部屋にいる時など、それまでピンと張りつめていた気が抜けた状態の時に、『それ』は頻繁に現れた。

 相変わらず、カウンセリングには通っているが効果は、ない。


 疲れた。


 休暇3日目。

 朝から気分が滅入っている。

 やる気など、欠片も起きてこない。

 食べ物の買い置きはまだ大丈夫だし、今日はこのまま一日部屋でTVでも見ながらゴロゴロするのも良いかも知れない。

 ふと、のどの渇きを感じて、冷蔵庫へ向かう。

 ミネラルウォーターのペットボトルを出して、行儀悪いけど、そのままでラッパ飲みした。

 どうせ、一人暮らしなんだから構わない。

 冷たい水が体中に染み入るような気がした。

 ほんのちょっと、気分が晴れた。


 そう言えば、今日のTVって何が有るんだろう。

 この時期だと、改変期の特番とかだっけな。

 休暇初日に色々買い込んだコンビニの袋の中に、TV番組の情報誌が入っている筈だ。

 すっかり忘れてたけど。あの袋、何処に置いたっけ?


 その時、ズキリと頭が痛んだ。


 思わずその場にしゃがみ込んでいた。

 暫くすると反響するような激しい痛みも引いてきた。

 マズイなぁ。頭痛薬、切らしていた気がする。

 そう考えながら目を開けた。



 もう、そこは、私の部屋ではなかった。

 否、私の部屋で有るのかも知れないが、私の目には一面の闇の世界に見えていた。

 呆然として立ちつくしていると、気配を感じて振り返った。


 息を呑んだ。

 そこには悪夢の怪物が居たのだ。


 とうとう此処までイカレてしまったのか。

 休暇のつもりだったのに、このまま辞表を送らなくちゃ。

 我ながら、妙に冷静に仕事のことを考えている。

 あの新人くん、大丈夫かな?


『……大したモノだな。己が死ぬというのに他人の心配とは』


 喋った!!


『我々は貴様ら人間よりもずっと高等だよ。

 意志疎通は貴様らの言うところのテレパシーで事足りる』


 なんなんだ、こいつは!? さっき、なんて言った?

 「己が死ぬというのに」?

 死ぬ? 私が死ぬだって? こんな白昼夢ごときで?!


『白昼夢ごときではない。いつも見せてやったであろう?

 我に喰われる己の様を』


 怪物から触手のようなモノが伸びてきたかと思うと、一瞬にして私の体は空中へとつり上げられていた。


『さぁ、今宵の贄は絶品である。

 始祖様に捧げられぬのが心残りだが、我々で頂くとしようぞ』


 見ると、私を宙づりにしている怪物の後ろに、同様の化け物がうぞうぞと蠢いている。


 私は死ぬのか……? 本当に?


 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ。

 どうして私が死ななきゃならない? しかもこんな理不尽な死に方を!


『心地良い。貴様らの思念は本当に心地よいぞ』


 触手が、怪物へと私を運ぶ。


 もうダメだぁ!!!


 その時、ガラスの割れるような音が聞こえた。そして何かが突き刺さる音。

 次の瞬間、私はもんどり打って地面らしき場所へ転がっていた。

 訳も分からず見上げると、私を拘束していた触手が根本近くで二本ともが千切れていた。


「間に合ったね」


 凛とした声がした。

 人影が、私の近くへ降り立ち、歩いてくる。

 まだ、少年だった。

 黒い髪、浅黒い肌、黒い瞳に黒ずくめの服。

 このまま闇に溶け込んでしまいそうな出で立ちの少年は、しかし決して闇には同化しない何かを持っていた。

 少年は私と怪物の間に突き刺さっている、剣のような刃物を無造作に引き抜くと、私の方を見て少しだけ微笑んだ。


「ボクは、貴方を助けに来ました」

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