《過去編》 8 とある日のティータイム
今回は明るめの過去編……?
今朝早く、久し振りに本星へ報告の為に戻ってきたのはいいが、ついさっきまで上層部に捕まっていた。どうも年寄り連中の話って奴は堂々巡りの上に、昔のことをやたらと蒸し返してくるから始末に負えない。
軽い疲労感を覚えて、自室に戻っても何をする気にもなれなかった。
アソラには「戻っている」と一言入れておかないと、「薄情だー」とか「冷てぇー」とか責められるのが目に見えている……が………、後にしよう。
ぼんやりベッドに寝ころんで天井を見上げていた時、誰かが訪ねてきた。
誰だろう?
オレがココに戻っている事を知っている人間はそんなに居ない筈なのに…?
『まーすたーっ! あそびにきたよー』
『マスター、いらっしゃいますか?』
インターフォンから聞き慣れた少女達の声が聞こえた。ああ、リエルとアイカか。
彼女達に逢うのも久し振りだな。口元が緩んで居るのにふと気付いた。その事に対して、今度は苦笑が漏れる。
「いらっしゃい。どうしたんだ、今日は? 二人ともおめかしして」
彼女たちはいつもとは違う服を身につけている。フリルやレースが沢山ついていてお出掛け着っぽい。
「あのねー、せんせに買って貰ったのー」
えへへーって顔でリエルがスカートの裾をつまんでくるりと回ってみせる。
「あの、似合いますか、マスター?」
アイカは照れ臭そうに上目遣いで質問してくる。
「ああ、良く似合ってる。リエルもアイカも。わざわざ見せに来てくれたんだな、ありがとう」
そう言うと、二人は嬉しそうににっこり笑った。
「やたー! ほめられたぁ!」
「良かった!」
「……そうだ、美味しいお茶があるんだ。この間焼いたクッキーもあるし、飲んで行くか?」
二人は一瞬きょとんとして、すぐ次の瞬間には声を合わせて
「のむー!!!」
「頂きます!!!」
と、返事した。
茶器を温めていると、来客を表すブザーが鳴った。
「どなた……」
『って、カイリちゃんッ?! 帰ってたの?!
やだ、もう、帰ってるなら帰ってるって何で一言くらいっ…』
誰何の言葉が終わる前に、インターフォンを通してこれまた聞き慣れたキンキン声が響く。
「……すまない。それより何か用じゃなかったのか?」
『ああ、そう、そうなのよ!! ウチの子達来てないッ?!』
「―――――ツクミ、少し落ち着いて」
『来てるんでしょッ!! 分かってるんだからねッ!!』
み、耳が痛い……。先に中に入れた方が得策だな。
ドアを開けるとかなり走り回ったのか、疲れ果てた感じのツクミが立っていた。白衣はかなり汚れているし、リボンはヨレヨレ、挙げ句の果てにはヒールの踵が折れてしまっている。
「ああっ、居たぁ~!!」
部屋の中に少女達の姿を認めると、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「ツクミ。さ、立って。お前もお茶を飲んで行くといい」
手を差し出すと、素直に借りるものの、その表情には?マークが張り付いている。
「お茶? ……お茶って何?」
「今からリエルとアイカにお茶をご馳走するんだ。手製のクッキーもあるから、時間が許すのなら……」
「お手製って、まさか、カイリちゃんの?! いや~ん久し振りッ!! 飲む飲むっ!! 飲んでくわよ~!!」
また遮られる。やれやれ。人の話を最後まで聞かないのは相変わらずだ。
いそいそと部屋の中へ入っていく。
「あ、せんせーだ」
「ドクター……ぼろぼろ、ですね」
「もぉぉぉ~、随分捜したのよ、二人とも。あれだけ言ってるのに、勝手に何処かに行かないでよォ~」
べたんとテーブルに突っ伏してしまうツクミに、少女達は小さく「ごめんなさい」と謝った。
「あなた達は頭の良い子よ。だから、分かって頂戴。
必ずしも、あなた達に好意的な人間ばかりじゃ無いって事を―――」
ツクミの瞳は真剣だ。
「私にとって、もうあなた達は大事な家族なの。もしあなた達に何かあったらって思うと……」
忍者組織の本殿。此処は、伏魔殿だからな。どさくさに紛れて消されたとしても、不思議はない。
完全人工自動人形と呼ばれる、新開発の試験体である彼女たちを良く思わない向きが存在するのは想像に難くない。
『たった二人だけの成功例実験体』。
オレは、彼女らに自分達姉弟を重ねて見てしまう。手を差し伸べずにはいられない自分が居る。でもこれは、単なる自己憐憫に過ぎないのかも知れない。
「だけど、本当に良かった。カイリちゃんの部屋なら絶対安全だものね」
うふふ、と笑ってツクミがオレを見る。
「何なんだ、それは?」
「だって、カイリちゃんに盾突こうって根性のある奴、今時なかなか居ないモノ~♪」
喜んで良いものなのか?
まるで大昔の学園ドラマの番長か、さもなくばマフィアのドンみたいな言われ方だ。
「―――そりゃどうも。さ、お茶が入ったぞ」
テーブルに運ぶとふうわりと芳しい香りが鼻を擽る。
「わぁ、いいにおい~」
「ほんと~。カイリちゃん、これ何処のお茶?」
「第25銀河星団のキプロス産だ。香りだけじゃなく、味もなかなかだぞ」
「ホントに美味しいです」
この間の仕事の際に土産として買ってきたこのお茶は、上品な香りと深みのある味わいが特徴だ。ここ、本星で栽培されている最上級の紅茶にも負けないだろう。
ま、久々に美味い茶葉を見つけて結構ご満悦だ。
「このクッキーもおいし~ね~」
横を見ると、リエルが両手にクッキーを持って、文字通りばりばり食べてる。
「り、リエルちゃん? そんなに慌てて食べたら喉に詰めちゃうよ?」
「だってぇ~、ホントにおいし~んだもん!」
心配しているアイカの方も結構食べている。
そんな二人の様子を微笑ましそうに見やりながら、ツクミが話し掛けてくる。
「ったく、私でもこんなに上手く焼けないのに。カイリちゃんって何でも得意だけど、特にお料理得意よね~」
「そりゃ、本殿に入って初めてやらされるのが厨房の仕事だったからな」
素直に返すと呆れ気味の溜息をつかれる。
「だからってココまで上手いのって、カイリちゃんくらいだと思うわよ?
ま、子供の頃からホントに何やらせても上手だったケド」
「オレ、凝り性だし。」
ツクミの動きが止まる。何なんだ? 一体?
「うっっっっっっそーーーーーー!!!!!」
リエルとアイカも驚いてこっちを向いている。文字通り、目をまん丸にして。
「何なんだ、そのリアクションは。結構心外だぞ」
「だ、だって、カイリちゃんって、何となく、何かに執着するってタイプじゃないと思ってたから」
………。
「なんて言うのかなぁ。最近は感じないけど、昔のカイリちゃんって『虚無的』な雰囲気漂わせてたんだもの。
クールって言うんでもなくて―――。そう、『諸行無常』な感じ?」
何もそんな超古代古典の一節を引用しなくとも。
「そう、だな。オレ、結構イヤなガキだったな」
確かに一時期、随分ツクミに心配をかけたっけな。その証拠にあの頃の想い出の中のツクミは泣き顔が殆どだ。
「……ご、ゴメン。そんな意味じゃないの。あ、でも、最近は全然そんな事ないよ?!
ってゆーか、逆に柔らかくなってきてるなって思うくらいだし」
慌てて言い訳するツクミに、少し嫌味を込めて返してやる。
「まぁな。ジジイにはこき使われるし、仕事の合間に休んでれば思わぬ客だって来る。
……いじけて拗ねていられる程、暇がない」
オレの台詞が終わった後、自分達のことを言われているのに気付いたツクミが唇を尖らせる。
「……悪かったわね、招かれざる訪問者で」
今度はその言葉に少女達が敏感に反応する番だった。
「―――ますたー、リエル達、めーわく?」
捨てられた子猫のような目でじっとオレを見つめている。
「オレは、めーわくな奴を部屋になんか入れないし、その上お茶を振る舞う程お人好しじゃない。
だから、つまらん事で心配しなくていい。」
そう言い聞かせたら、少女達はとっても嬉しそうに微笑んだ。
「良かったぁ~~~! ますたー、だーいすきッ!」
「私もです!」
元気なリエル、大人しめのアイカ。
「あ、ダメダメ! カイリちゃんの事は、私がいっちばん好きなんだから!」
「……大人げないぞ、ツクミ」
思わずツッコミを入れてしまったオレに、ツクミは唇を尖らせてプンプン怒る。
「あぁん、カイリちゃんったら、私にだけは冷たいんだから~。
ホント、やんなっちゃう!」
その様子が、あんまり子供っぽくて思わず笑い出すと、リエルにアイカ、怒っていた当のツクミまで笑い出す。
こんなティータイムが、また出来るだろうか。
穏やかな昼下がりに、気心の知れた仲間と、他愛のない話をしながら。
それとも、全てが終わる日の方が早いのだろうか―――――。




