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treasure seeker  作者: 草葉 影野
日々是好日、その1
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その1-3 全ては美味い食事の為に

ぼちぼち……。

 食卓へ駆け寄ったライトが、並んだ料理の数々に圧倒された。

 彩りに満ちていて、色も香りも彼の食欲をガッツリ刺激してくる。


「う、旨そう……ッ!」


 思わず伸ばした手を、ぴしゃりと叩かれる。


「痛っ! え、去月(さりづき)……?」


 見れば、いつの間にか去月が異様な殺気を纏って仁王立ちしていて。


『食べる前にまず手を洗ってこい。

 それから、食事するならちゃんと座れ』


 その圧たるや、初めて手合わせした時よりも余程プレッシャーを感じる……。


「は、はい……;」


 すごすごと手を洗いに向かう背に


「あはは、やっぱり怒られてる!」

「英雄君も形無しだなw」


 などという声が追い打ちを掛けていた。


 ―――俺の立場って一体……?


 思わず自問自答してしまう有様だが、ぐぅ~と腹の虫に催促される。曰く、早くあの旨そうなメシを食わせろと。

 一体何がどうなってるんだか分からないが、あんなに悩んだ割にいつの間にか状況の方が先に出来上がってしまっている。

 去月は料理を作ってくれているし、エリザベス様は既に食卓についてほろ酔い気味の様だった。

 ついでに言えば、あんなに大きな全員で座れるような食卓(テーブル)は置いてなかったし、椅子も人数分揃っていた。

 食器だって、見覚えのない物が多数あった。


 本当に、何がどうなっているんだか……???


 頭の中は?マークでいっぱいのまま、言われた通り手を洗って戻ると、早く早く! とアイシャに急かされる。


「もー、ちゃんと待っててあげたんだから早く! 折角のゴハンが冷めちゃうじゃない!」

「はいはい、ありがとさん。―――で、俺は何処に座れば良いんだ?」

「えっと、去月がライトはカミザ……って言ってたっけ。確かそこの、短い方の所だって」


 シェーラが指差した所には、ちゃんと一人分のカトラリーやグラス、皿などがランチョンマットの上に整然と置かれている。

 

 うわ……、何か、凄く真面(まとも)だ……。


 何故かそんな言葉が浮かんだ。思い返せばこんなにちゃんとした食卓は初めてかも知れない。

 確かに仕事上、偉い人たちと食事に行くとフルコースだったりもするけれど、あくまでビジネスの席の話だ。孤児院でも、三英雄との生活の中でもここまでかっちりした物ではなかった。

 何とも言えない感慨深さに浸っていると、痺れを切らせたアイシャに怒鳴られる。


「もぅッ! 食べるわよ?! 良いよね?!」

「ああ、ゴメンゴメン; ―――いただきます」

「え、何ソレ? イタダ、キ……?」


 早速取り皿に肉? を取り分けていたアイシャが怪訝そうな表情で見つめてくる。


「ああ、『いただきます』って言うのは食前にする挨拶みたいなもんさ。

 食材となった命や、作ってくれた人へ感謝を込めて手を合わせて言うんだ。

 俺もリョウヤ……三英雄の一人から教わったんだけどな。

 食べた後はまた手を合わせて『ごちそうさま』で締める」


 説明すると、馴染みがないらしい二人がふむふむと聞いていた。


「へぇ~。なるほどね~。じゃあ、『いただきます』!」


 パンッ! と音がするほど勢いよく手を合わせ、アイシャが唱える。その横でシェーラも静かに手を合わせて『いただきます』と呟いてから食べ始める。


「フフ……懐かしい。忍者の古くからの習慣だ。まだ続いてたんだねぇ~」


 ワイングラスを揺らせながら魔女が笑った。


「エリザベス様は忍者組織との付き合いは長いんですか?」


 ふと気になって聞いてみる。

 この間塔で話していた時から少し気になってはいたから、丁度良い機会だと思っての質問だったのだが。

 問われた当の魔女はジト目で見返してくる。


「な、何ですか?!」


 これ見よがしにはぁ~とため息をついてから、ワインを一口含み、口中でコロコロと存分に味わって飲み下してから口を開く。


「アンタねぇ……”エリザベス様”だなんて、また随分と他人行儀な呼び方じゃあないか。

 もーちょっと親愛を込めた呼び方が出来ないもんかね?!

 これから長ぁ~~~いお付き合いになるんだからさぁ~?」


 まさかもう酔ってんのか?! あれくらいで??

 しかも絡み酒ぇ??? 完全に目ェ座ってるじゃねーか!!!


『―――ダルブーシェ師は既に1本開けている。』


 いつの間にか背後に居た去月がコソッと耳打ちしてくる。

 それだけ言うと去月はさっさとキッチンへ戻ってしまった。


 あれくらい、じゃなかったのか……;


「えぇと、でも呼び方と言われましても……何とお呼びすれば?」


 見た目はほろ酔いくらいな癖に、しっかりすっかり酔っ払ってらっしゃるらしい大賢者を相手にどう対処したものかとグルグル考えていると


「そーさねぇ、”エリちゃん”とか~、”リザたん”とか~、あ、でも”ベスさん”はヤだなぁ~。

 間違えないよーなのってどんなのかにゃあ~?」


 楽しそうにぎゃはははと笑いながらあーでもない、こーでもないと本人は候補を挙げていく。


「よーし、決めた! これからは”エリザたん”と呼ぶよーに!!!」


 鼻先に人差し指を突き付けられて、宣言される。


「―――し、承知致しました……”エリザたん”?」

「宜しい! さー、食べるぞぉ~♪ うっまそうだねぇ~、良い匂いだわ~!!」


 満足したのか、興味が食事に向いたようだ。

 って、この顛末(てんまつ)、本人ちゃんと覚えてるんだろうか。

 明日”エリザたん”と呼んで、不敬だなんだと怒られたりしないだろうな?

 一抹の不安が(よぎ)るが、そんな事より今は食べる方が大事!!!

 遅ればせながらも争奪戦に参戦!!


「コラッ、アイシャ、肉ばっかり取るんじゃねぇ!! サラダも喰えッつーの!!!」

「うっさい!!! 久しぶりの肉なんだから早い者勝ちよ!!」

「こーれーは旨いね! ぜ-んぶ確保だー♪ やんないもんね~」

「あぁっ、それまだ食べてないのにッ!!」


 負けられない戦いが、そこにはあ……。


『―――黙れ。食事の最中に騒ぐヤツは退場させる』 


 去月のドスの効いた一喝で騒ぎは収まった。

 さすがに退場させられてはたまらない。それからは大層和やかに食事が進んだ。



   *    *



『そろそろ最後のデザートだが……皆、食べられるか?』


 キッチンから顔を出した去月から聞かれて、全員の返事がハモった。


「「「「オッケー!!!」」」」


 先に使った食器やグラスを引っ込め、新しく置かれたのは生クリームに鮮やかなチェリーが乗っかったカスタードプリンと、イチゴにバナナのフルーツ類、更にチョコ掛けウエハースが添えられたバニラアイスが盛られたもの。

 いわゆる、プリンアラモードってやつですね。


「お、美味しそう……(じゅるり)」

「ちょっ、後光が見えるんだけどッ!」


 最後に妖精サイズの小さなプリンをシェーラの前に置いてから、去月がちょっと申し訳なさそうに話す。


『さすがにこれはデザートには量が多かったな……。

 甘味を作ったのは久しぶりでつい作り過ぎてしまった』 

「すっごい!! 去月って、何でも作れるのね~。た、食べて良い?!」

『ああ、どうぞ』


 しっかりした固めのプリンがまた旨い。さっぱりとした控えめな甘みでいくらでも食べられそうだ。サクサクのウェハースと、口溶け滑らかなアイスも良い。

 デザートまですっかり堪能して、皆で手を合わせて『ごちそうさま』。

 去月から事前の準備を手伝ったからと、食後の片付けを免除された女性陣はサロンスペースのソファの方へ移動して今食べた食事の話題で盛り上がっている。

 俺はと言えば、食後くらいは手伝わないとダメだよねと食器をキッチンへ運ぶ。


「ごちそうさま、ありがとう。全部旨かった。コレで向こうにある食器は全部だよ」


『口に合って良かったよ。

 後は……これでテーブルを拭いてくれ。ランチョンマットは纏めておいてくれれば良い』

「了解~。―――ん? どうかしたか?」


 と、濡れた布巾を渡され……受け渡しの形のまま止まっている。

 何だろうかと思っていると、少しの逡巡の後に去月がお伺いを立ててきた。


『これから私が船に居る時は、皆の食事を用意させて貰おうと思うが、構わないか?』


 なんて有難い申し出だろうか。どうやって切り出そうかあんなに悩んだってのに。


「良いのか?! こっちからお願いしようと思ってたんだけど、負担じゃないか?」

『……いや、その、お館様からも改めて厳命されてな;

 「無理を言って乗船させて貰って居るのだから、ライト殿の体調管理もお主の仕事の内じゃと思え」とな。

 それに、別方面からも「料理(うまいメシ)を食わせろ」との訴えがあった事だし。なので任務帰りに食材やら食器やらもまとめて買ってきたんだ』


 長い説明台詞でぶっちゃけた去月が話し終える。


「あ~、ゴメン。エリザベス様だよな? 話通るの早過ぎだろ~;

 でも作ってくれるならホントに嬉しい。めちゃくちゃ旨いし!

 スイーツまで上手いんだな~って、去月、お前自身はちゃんと食ったのか?」

『大丈夫だ。ちゃんとキッチンで食べている。

 元々素顔は晒せないので、食卓で一緒には食べられないからな』

「食べてるなら良いけど……その命令、変えられないのか?」

『お館様の気が変わるなら? まぁ、無理だな』


 ガクッ。変な所で律儀というか、妙に頑固というか。これに関しては仕方がない。気長に行こう。


「あ、後で今回の分の費用請求してくれ。

 この先も自腹って訳にはいかないから、その辺の話を詰めなきゃなんないし」


 あれだけの食材に、食卓セット、カトラリー始め食器類まで。

 一体幾ら掛かっているやら、今回の分だけでも懐が寒くなること請け合いだろう。


『気にするな。お館様の命なのだから、これからの分も全部経費で落とす。

 ―――というか、()()()()()


 何かすっげーコワいこと言ってる気がするんですけど???


「俺、今度お館様に会ったら怒られ、いやシばかれるんじゃ……」

『食べる面子(メンツ)にダルブーシェ師も居るのだから平気だろう。

 あの方も食生活が壊滅的だからな。これもついでだ』


 おお、ちょっと良く分からないが万々歳だ! これから食事が楽しみだ~。


『だがライト……本当に”エリザたん”と呼ぶのか……?』


 最後に爆弾が降ってきた。


「う~ん、かなり酔ってたから忘れてるんじゃないかと、期待してる……」

『―――だと良いがな』


 え、ええぇ――――――?! そんなぁ;

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