5-1 白銀の救世主
うーんうーんうーん。今まで逃げていたお話、なんですが……。
酷い事に、学園物の出張話より見切り発車かも知れない……。
俺はディライヴ・エルズワース。人からは、『黄金の調停者』なんて呼ばれてる。
俺は黒装の魔女の塔を辞した後、古い友人に会いに出かけた。
行き先はバリエント星のワエルラ大陸……。
ここには、歴史の長い王国があるんだけど、先王は若くして病に倒れ、王妃も既に亡く、幼い王子は筆頭執政官であった男に傀儡とされている。
現在事実上『王』の玉座に座し、圧制とも言える政治を行う男の名はザネス・ヴァッカートン。
奴の政権を倒すため、先王の騎士団で近衛隊長だった人物が志を同じくする者達と反抗の狼煙を上げた。
始めは、僅かな数だったという。
ザネスの率いる国軍に対し、数・装備において圧倒的な劣勢にあってなかなか成果は上がらなかった。
しかし、それでも民衆に支えられた彼らは次第に力を増し、先月末に起きた若い国軍兵の脱走造反事件を境に戦況は逆転、徐々にザネスを追いつめていった。
そして、残るは王都アルーベルを解放するのみとなっていた。
俺の古い友人っていうのは、そのレジスタンス……今では解放軍を率いている人物、グレッグ・ハーガイル。
まぁ、『俺の』というよりは『俺の育ての親であるリョウヤ達の』古い友人、と言った方が正確なんだけどね。
俺はといえば、ガキの頃に剣の稽古だってんでこってんぱんにやられた事だけが鮮明に記憶に残っている。
……思えばあの頃は、当時一番下っ端だったヤツと二人セットで結構無茶な事ばっかりやらされてたような気が………。
閑話休題。
前々から一度顔を見に行こうとは思ってたんだけど、三年ほど前にザネスが起こした政変によって国が混乱してる時に行くのもどうかと思って控えていたんだ。
そしたら、いつの間にかグレッグのおっさんは近衛騎士隊を解散させられていて、レジスタンスを立ち上げたって短い近況報告のメールが入っていた。
『戦況が一段落したら連絡する。また稽古をつけてやるから顔でも見せに来い』
と追伸にかかれていた。
その、『一段落』の知らせが二日前に届いたから、おっさんの顔を見に来たって訳。
少し前に解放されたというこの街は、一時期からすれば随分と活気を取り戻したのだと言う。
確かに市場や繁華街の人通りは大勢の人が賑やかに行き交っている。
………土産、いるかな…? 露天の店先の大きな籠に入った色とりどりの果物が目に入る。
グレッグのおっさんって何が好きだったっけなぁ……。
別の露天では簡素な木製の台の上に近海でとれた色鮮やかな魚がたくさん並んでいる。
記憶を辿るとかなりの酒豪だった筈だ。やっぱ、酒……かなぁ。
そんな訳で、酒を探して市場をぶらついていると誰かが声高に怒鳴っているのが聞こえた。
野次馬根性の強い俺としては、見逃す手はないってんで既に二重くらいは人垣になっているその輪へと潜り込んでいった。
見れば、国軍兵の残党と思われる兵士が三人、小さな子供に因縁を付けて今にも振り上げた拳で殴りかかろうかという所だった。
どういう理由があろうと、こんなのは放っとけない。
でも、俺が出て行こうとしたより先に、一人の女性が声をかけた。
「お待ちなさい……。小さな子供に手を上げるなんて、恥ずかしいと思わないの?」
凛とした、良く通る声だ。すらりとした、見事な長い巻き毛の銀髪の女性だった。
ついでに言うなら、もの凄い美人。
「っんだと、このアマぁ……生意気な事ぬかしやがって! ガキもテメェもまとめて痛い目見せてやるぜッ!!」
いけないッ!! 相手はガタイの良い、しかも「崩れ」とはいえ軍人だ。
あんなか細い女性なんてひとたまりもない……!
慌てて飛び出そうとした俺は、今度は目を疑った。
殴りかかった大男は、次の瞬間地べたに這いつくばって伸びていたのだ。
「さ、もう行きなさい。気を付けてね」
女性は怯えて泣いている子供に帰るよう促す。
「う、うん……。ありがとう、おねいちゃんっ」
他の二人は、一瞬何が起きたのか分からなかったのだろう、呆然と倒れている仲間を見つめていた。
……捌き、だ。相手の力を利用する、体術の技。あまりにも見事だったもんだから、俺は思わず見とれてしまった。
その間に我に返ったゴロツキが二人まとめて殴りかかる。
女性は動じることもなく、何事かを小さく呟いた。
ざわめきが、静寂に変わる。屈強な男達は一時停止された映像のように殴りかかろうとする体勢のまま止まっていた。
「女だからって、簡単に勝てるとは思わない事ね。
相手が、どんな力を持っているのかなんて、見た目だけでは分からないもの」
男達を冷ややかな目で見つめながら、また彼女は何かを呟く。
殴りかかろうとして固まった体勢のまま、彼らはどさりとその場に倒れた。そしてそのまま、動かない。否、「動けなく」なった。
………魔法だ。どの系統かは分からないけれど、おそらく魔法だろう。
「当分、そのまんまで反省でもしてなさい」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!! こんな所に、身動きも取れないで置いて行かれたら……っ」
「……どういう事になろうと、それはこれまでのあなた達の行いの報いでしょう?
悔い改めるには、いいきっかけになるんじゃない?」
限りなく冷たい、感情のこもらない声でそう言い残すと、彼女は何事も無かったかのように去って行った。
「……凄いな。」
解けかけた人垣の中で、俺は棒立ちになっていた。丁度店先だったからか店主らしきおじさんが声をかけてきた。
「いや~。本当に、いつ見ても美人じゃのぅ」
「おじさん、あの人の事知ってるの?」
と聞くと、おじさんは逆に驚いたように俺を見る。
「なんじゃ、お前さん、旅の人か? 彼女を知らんとは!」
「……はぁ;」
何なんだ、一体? そんなに有名人なのか?
「彼女は解放軍の勝利の女神じゃ。その恐るべき魔導の力で数々の街の解放を手助けしてるって話だ。
それでワシらのような解放された街の住人はみな、彼女をこう呼ぶんじゃよ。
『白銀の救世主』とな」




