《過去編》 7-5 右肩の相棒:回想05
運命に関わる人と、そうでは無い人のお話……。
イゼルナは、ふと窓から外を見る。
本物の子供と、見せかけの子供は子犬がじゃれ合うように走り回り、その様子を少し離れたところに座ってシェリルが眺めている。
事が昔のこととなると、今の仲間には言い辛いか。
すっかり飲み干されていたヒイラギのカップを半ば奪い取るようにかっさらうと、2杯目を注いでやる。
「それで? アンタはどう思ったんだい、その子を見て」
自らのカップにもお代わりを入れながら、先を促す。
すると、安心したように肩の力を抜いてまたポツリと言葉をこぼした。
「……あんまりそっくりで、懐かしくて、でも、その子は―――――
多分、きっと、ディーと共に時代に介入する子なんだと思った」
その言葉の間は、文字にするのは難しいかも知れない。
敢えて当てはめるなら『寂寞』だろうか。
かつての憧れと、懐かしさと、驚愕と、寂しさと……色々なモノがない混ぜになった感情。
イゼルナはそこまでヒイラギの感情を思いやって、ごく最近自分も似たような感覚を経験したのを思い出した。
―――――そう言えば。
「ヒイラギ。その子は、組織の子だな? もしかして蒼い髪の、男の子か?」
イゼルナの言葉にハッとして上げた顔が明確すぎる程の答えだった。
「―――やはりな。先日、忍者の頭目に連れられてここへ来た」
穴が開きそうな程自分を凝視するヒイラギに、凄腕のマイスターは溜息を付く。
「頭目もさっきのお前と同じようなことを抜かしていたが。
しかし、あの子か。確かにな……あの子なら、そう思う」
その少年と初めて逢った時、イゼルナもヒイラギとよく似た事を感じていたのだ。
忍者とは、それこそ修業時代からの長いつきあいだ。それなりに一般人となら見分けが付くくらいにはなっていると自負していたが、あの二人にはそれも通じなかった。
初めなど、何処ぞのじいさんと孫が迷子にでもなって、方角でも尋ねにやって来たのかと本気で思った程だった。
だが自己紹介をされ、じいさんが正体を現した後でも……あの子に関しては普通の子だとしか感じなかった。
ああ、いや、違うな。普通の子と言うには語弊がある。
忍者と言うには違う感覚だったのだ。あまりにも自然で、それで居て何処かが違う。
ヒトで有る筈なのに、ヒトではないかのような微かな違和感、極僅かなブレ。
それでいて虚ろではなく、決してまつろわぬ者。
己を、貫く者。人としての機微を持ちながら、本質をそう定められた者。
下手をすると、壊れかねないという危惧を抱かせる者。
興味と、そして保護欲を誘うモノ―――――。
それは、有る意味でのカリスマ性とでも言えるのかも知れない。
人を、惹きつける何かを持っていると言うことなのだから。
同じ事を、目の前の男もあの子に感じたのだろう。似た事を、始めてあった時のディーにも感じていたから。
だから。
それが、運命の悪戯とも言うべき偶然の一致ではないことを悟ったから。
それ故にこの男は、運命という蚊帳の外側にいるイゼルナにこんな事を頼みに来たのだ。
「ヒイラギ。それは、諦観なのか?」
「違うと思う……んだけどな。
確かに、俺の人生は誰かに敷かれたレールだったかも知れないけど、俺は俺の選択を何ら後悔しちゃ居ない。したくもないと思ってる。
だから、諦め……じゃない。俺は俺のやるべき事を、そしてすると決めたことを全力でやり遂げて行くだけだ。
俺がこの信念通りに生きていくなら、例えそれが、どんな結末に辿り着いたとしても、俺は後悔しないでいられる。
―――――きっと。」
+ + +
そう言って笑った男も、逝ってしまって久しい。
当時少年だったディーも、今や『黄金の調停者』と呼ばれる迄に成長して、新たな仲間と共に宇宙を飛び回っている。
イゼルナは等しく流れる時の分だけ年を取り、相変わらず銃を作っている。
昔より少しだけ名も通り、贔屓の客もそこそこに付いている。
その内の一人、もう既にそこそこの長さのつきあいであるディーことライト・エルズワースから連絡があったのは昨日のことだ。
今日は相棒を連れて、銃のメンテナンスへとここへやって来る。
先程、表で着陸音がしていたから飛び込んでくるのも、もうすぐ……。




