《過去編》 7-4 右肩の相棒:回想04
とある日の、リョウヤのイゼルナの会話の話。
招かれて家の中に入ると、半地下の造りだったらしく表から見るよりもずっと広い空間が広がっていた。向かって右に工房スペース、左が住居スペースになっている。
正面がダイニングキッチンとして使っているのか、素朴なナチュラルウッドのテーブルセットが置かれてある。
「あんまり大勢の客が来る事が無いんでね。足りない分は何処か適当に座ってくれ」
と、3脚しかない椅子を指差しながら湯を沸かし始める。
「……相変わらずそうだな、匠は」
「変わる訳がないだろう、ヒイラギ。
私は趣味で銃を造り、それが溜まれば隣の星へ卸に行って、対価を得る。
この生活が出来ることが最大の幸せなんだからな」
いっそ清々しくも晴れがましい顔で、マイスターは話す。
「ディー、今はまだ手が小さいからムリだが、お前もいつか自分の、自分専用の世界でたった一つの銃を造って貰うと良い。
オーダーメイドの匠の銃は、使用者の体格から射撃能力、癖までもを鑑みた最高の一丁だからな」
リョウヤの上機嫌の理由が分かるような気がした。リョウヤは、自分の信念に真っ直ぐ生きる人が好きなのだ。
その点で言えば、このマイスターはトップクラスだろうから。
「そりゃそうと、……何でスタンはあんなな訳?」
反応が極端なもう一方、スタンは一番遠い所で酷く警戒した表情をして出されたお茶を飲むでもなく座っている。背中を壁にぴたりとひっつけて、時折キョロキョロと周りを伺っていたりとかなり挙動不審だ。
「あー、アイツ、やっぱり覚えてるんだな……。匠に試し撃ちの的にされて大変な思いした事」
「―――――えぇッ?!」
「う、ウソッ!?」
「忘れるか―――――ッ!!」
ディー&シェリルが思わず上げた驚きの声と、スタンの鬼気迫る怒声は同時だった。
「魔法使いなら、銃弾如き魔法で防げるだろうが。
そもそも、あの時の弾はペイント弾だったのだから当たった所で死ぬ訳もない」
しれっとした顔でマイスターが言い放つ。
「ペイント弾だからって、当たったら痛ェってんだよッ!!
しかも服は駄目になるし、なかなか体についた色落ちなかったし……その間、ずっと人前に出られなかったンだからなッ!!」
「私は撃つ前にちゃんと声だって掛けたぞ。それなのに銃弾を防げないのは、お前がヘボなだけだ。
だがまぁ、銃の性能テストには充分だったよ。恨み言はヒイラギに言うんだな。あの時テストしていた銃は、コイツの愛用銃なのだから」
「何ィッ!?」
ギロリと怒りに燃えた視線を向けられて、リョウヤが引きつった顔で笑う。
「……おいおい、何で俺なんだよ。撃ったのは俺じゃないだろ……」
「うるせぇッ!! 撃った奴も助けなかった奴も、どっちも同罪だッ!!」
* *
匠と話があるからとディーを外へ遊びに行かせて、すると此処に居るのがすこぶる嫌そうなスタンも、そして話の邪魔をしない為だろうか、シェリルまでが一緒に出て行ってしまった。
「―――――良い子じゃないか、真っ直ぐそうで」
「ええ、とても。」
そう応える昔なじみの顔が、酷く……その、妙な穏やかさで。
「ヒイラギ?」
「縁起でもないと怒られるかも知れないけど、アイツのことを頼むよ、匠。
多分、俺達は最後まで一緒に居てはやれないだろうから」
「何を言ってるんだ。お前らしくもない」
確かに、このリョウヤ・ヒイラギという男はいつでも冷静に沈着に状況を、そして己をも見つめている。それは彼の前身が忍者だと言うことに起因する物だろう。
だがしかし、今のように弱さを見せることなど、これまでには無かった。
「……なんて言うんだろうな、こんな気持ちって。
アイツを見てると、何があっても守ってやろうと思うんだ。
親のように、そして人生の先輩として、俺が教えられる事の全てをアイツに伝えてやりたいって、さ」
この男は、気まぐれで子供を拾うような人間ではない。
そんな事はイゼルナとてちゃんと分かっている。
いや、だが、しかし―――――。
「……時間という物は、あまねく平等に命有る物全てに流れると思っていたが。
どうやら、違うらしい。
それに、神とか言うヤツの見えざる手と言うモノも存在するのかも知れない」
イゼルナの何処か観念したような言葉に、リョウヤ・ヒイラギは儚く笑った。
「多分、それは神なんて曖昧なモノじゃなくて。
傲慢だけど時代を導いていこうとするものの介入なんじゃないかと思うんだよ。
忍者を辞めた後で、こんな風に思うのも今更なんだけどさ」
この男が、こんな事を言い出すなんて……何か、有ったのだろうか。
イゼルナがその違和感に眉を顰めたのを見て、目の前の男は視線を落とした。
「この間、ちょっと“実家”に帰ってたんだ。
そしたらさ、昔憧れてた人の子供に逢ったんだ」
独り言のように紡がれる物語を聞いて欲しくて、この男は自分の元に来たのだと、イゼルナは漸く分かった。




