《過去編》 7-3 右肩の相棒:回想03
三英雄、と言うよりはリョウヤと馴染みの銃職人さん登場。という話。
ディーが、質問の答えをすっかりはぐらかされてしまってから数ヶ月。
日々、しっかりと訓練を続けていた成果もあってディーの銃の腕は少しずつ上がっていた。
「少し早いけど……匠に引き合わせておくかなぁ」
ポツリとリョウヤがそんな事を言った。
「たくみ? って、誰?」
今日の訓練で使っていた銃を分解の後、掃除していた少年の手つきはもう既に随分と手慣れた物だ。
「ほら、慣れたからってよそ見するな。部品無くなっても気付かないぞ?」
リョウヤに注意されて、慌てて手元に視線を戻す。
「ま、まさか……匠って、アイツかッ!?」
暫く考え込んでいたスタンが、ハッと思いついたように顔を上げた。その顔はかなり引きつっている。
「多分、そいつ~♪」
リョウヤがニヤニヤ笑いながらスタンを見ている。
「もー、アイツとかソイツとか、全然分かんないって……」
「ああ。済まんな、ディー。“匠”ってのは俺の銃を造って貰ってるガンマイスターのニックネームの事さ。
年季が入った職人って言うには若いけど、物凄く腕が良いんだ。こと銃を造ることに関しては、天才って部類だと思う。
まぁ~、なんだ。強いて言えばそう言う天才にありがちな、性格に多少問題有りって人物でもあるけどな」
この間、ディーはこのティンカーフィッシュ号を造ったというオヤジに引き合わされた。
亜人種だというそのオヤジは、ディーが生まれるずうっと前からモノを造っていると言うだけあって、根っからの職人といった感じの豪快な人物だった。
「あのなぁ、アイツはそんな良いモンじゃねぇだろが……。
単なるガンマニアだぜ? 違うな、ガンフェチだ。―――いやいや、ガンオタクかも知れねぇ」
スタンがブツブツぼやいている。その横で、ディーの頭の中には、先日のオヤジの様な人物像が
出来上がりつつあった。
「じゃあ、シェリルが戻ってきたら向かおうか。匠に会うのも久し振りだなぁ」
すでにリョウヤのスケジュールは決定済みのようだ。
「んがッ?! ちょ、ちょい待て!! オレ様は行くなんて一ッ言も言ってねぇぞぉッ!?」
などと、どれ程スタンが喚こうとも、行き先が変わることは無かった……。
* *
戻ってきたシェリルも合流して、やって来たのは工業惑星として有名な星、の隣星。隣の星とは違い、星自体の規模も随分小さく、住んでいる人も極僅かだという話だった。
勿論そんな所に宇宙港なんてものはなく、適当に空いている場所に船を着陸させた。だが、ディーが見渡す限り何もない草原のように見えて……いや、少し先に簡素な小屋が建っている。それこそ嵐でも来れば一瞬で吹き飛んでしまいそうな、ささやかな小屋が。
「……こんなトコに、その“たくみ”って人が住んでんの?」
「ああ。さ、行こう。―――多分、会ったら吃驚するぞ~」
何故か、リョウヤは非常に上機嫌だ。それと引き替え、スタンは見ているこっちまでドン引きな程げんなりした顔をしている。
リョウヤに早く早くと背中を押されながら、ディーは後ろに聞いてみる。
「ね、ねぇ! シェリルは会った事あんの?!」
「ううん、あたしも初めて~♪ だから、楽しみなのよね~!」
リョウヤは小屋の前に立つと、見るからに立て付けの悪そうな薄っぺらい木製のドアを遠慮の欠片もなくドンドンと叩く。それは子供心にドアが壊れやしないかとヒヤヒヤする程で。
「おお~い、匠~? ヒイラギだけど~! 居ないのか~?!」
返事はない。
「あれ、おかしいな……。留守なんて、まずあり得ないんだけどなぁ?」
不思議そうに、しかしドアの前から動こうとしないリョウヤに、元々ここへ来るのに乗り気でなかったスタンが早口でまくし立てる。
「い、居ねぇんならさっさと帰ろうぜェ? 此処にいるだけ 時間のム……」
「ほぉ~ぅ、私のトコに来るのは時間の何だって? えぇ? そこの赤毛チビ」
知らない声がした。見れば、小屋の裏手の方から木の桶を手にした人物が歩いて近付いてきた。
ぼさぼさで、一見して手入れのされていない伸び放題の銀色の髪。
痩せぎすで上背ばかりひょろ高い身長。汚れ放題のTシャツにヘロヘロのGパン、元の色の分からない職人風のエプロン。
有る意味、予想の正反対だったディーはぽかんと言葉もなく、その人物をただただ見つめていた。
「久し振りだね、ヒイラギ。―――――へぇ、この子か。新入りってのは」
そう言って“匠”はディーの前へしゃがみ込むと、じっと、真っ直ぐに見つめた。
たじろぐでもなく、揺らぐでもない少年の視線に満足だったのか、匠は相好を崩すと嬉しそうに彼の頭を撫でた。薄いが大きな、そして繊細な指をした手だ。
「ボウズ、名前は?」
「ディー……ディライブ・エルズワースです。初めまして」
「ああ、初めまして、ガンマイスターのイゼルナ=スミス=ウェッソンだ。
ヒイラギからは匠だなんて呼ばれているが、唯のガン好きが高じた趣味人なんだ。
よろしくな、ディー」
「はい、よろしくお願いします」
イゼルナは次にシェリルへ向き直ると、自己紹介をし、何だか和やかに談笑し始めた。
ガンマイスターの人って、女のヒトだったんだ……。ディーにとっての一番の驚愕ポイントはそこだった。
てっきり、船の建造者―――確か名前はガンフとか言っていた―――の様な、見るからに『職人』然としたオヤジを想像していたから。
「さて、外で立ち話もなんだ。散らかり放題だが入ってくれ。茶くらいは出そう」




