4-6 黒装の魔女サマ直々の魔法講座 その2
忍者が精霊魔法を使えるのは、ある種の”呪い”なのだと言う話。
「むぅ……。まぁ、なんだ。ユイリには世話になってるからな。
えーと、だ。精霊魔法は統べる素質が無ければならないのはそうだが、優劣も大きく関わってくる。
ヘボい術者は四大精霊の中で最も相性の良い精霊一種類と契約して、その属性の魔法しか使えないってのがごくフツーだ」
魔女はそこまで言うと、ユイリが入れた紅茶の二杯目に口を付け、目の前の皿に盛られているお茶請け……クッキーを無造作に掴むと口に放り込む。
「……ん、美味いね、コレ。もー、お菓子まで作れるんだねぇ。ウチで雇いたいくらいだよ」
「お気に召したんでしたら、またお持ちしますよ」
嬉しそうにユイリが微笑む。
「俺も貰って良いですか?」
「ああ、お食べ。美味いぞ~。市販の物が喰えなくなっちまうよ」
お許しを頂いたのでライトも手を伸ばす。そのクッキーは、ほのかに甘い香りで口に含むとホロリと解ける。魔女が手放しで褒めるだけあって、確かに美味い。
ふと、その香りに覚えがあった。
去月が子供の見舞いに行くのに手ぶらでは何だから、と渡してくれたお菓子の包み―――。
しかし、あの包みの出所であるツクミさんの幼馴染みは確か、男性だって言ってたし……。
「忍者の里で流行ってるんですか? このクッキーのレシピ」
と、ユイリに聞いてみる。
「あ、え、ええ。昔からあるレシピですから……知っている人も多いんですよ」
「―――さて、続きだ。
ヘボくない術者……そうだなぁ、契約数で言うなら5万、いや7万オーバーってレベルになるだろうか? 一般的に”大魔法使い”なんて呼ばれるクラスになると、契約した精霊と、対立する属性以外の精霊になら、助力を請う事が出来るんだよ。
私で言うなら、契約精霊は火霊。助力を請えるのが風霊と土霊。逆に、一切使えないのが水霊系の精霊魔法って事だ」
「へぇ~。じゃあスタンもそうだったんですか?」
「ん~。アレは……どうだったかねぇ。自分で”縛り”を課す事で時を止めてたから、契約精霊数の上限も枷が掛かってただろうし……」
魔女は懐かしそうに話す。
「ええと、ボク、子供の頃に一度だけお目にかかった事があるんですが……その頃は契約精霊数が8万を超えていらしたようです」
ユイリの言葉に魔女は素直に目を丸くする。
「へぇ。……ウチを出た頃はまだ4万そこそこだったから、随分と頑張ったじゃないか。
―――成長してたんだねぇ」
目を細めてしみじみと笑う魔女はまるで子供の成長を喜ぶ母親の様で。
とは言え、ライトには母の思い出は無いから、保護者である三英雄達の自分を見つめてくれていた表情を重ねていた。
「あ、そう言えば……。精霊との契約数って素質の高さで変わるんですよね?
じゃあ、スタンが4万から8万に数が増えたのって、素質が成長するって事ですか?」
「ああ、それはなー。どれから説明すりゃ分かり易いかね。
そもそも、魔法の素質ってのは”素質”ってだけあって、持って生まれたモンなんだ。
で、初級魔法とかの方の素質は精神……魂に由来する物なので変化はしない。
だが、所謂、精霊魔法の素質……見るだけの素質も、統べる方の素質も両方とも肉体由来なんだ。
そして精霊との契約の効力も肉体に根差す。
何て言うか、精霊達を扱うのは結構やっかいな事でね。精神力も体力もキャパを超える数を扱うとすぐに底をついちまうのさ。
だから、肉体が成熟しない子供の内は幾ら素質が高くても契約数を絞ってないといけないんだよ。
下手すりゃぶっ倒れるし、最悪死んじまうかも知れないからね」
まぁ、慣れればコツみたいなもんも分かってくるんだけどね、と魔女は笑うけれど。
「せ、精霊魔法ってそんな怖いんですか……」
「何もキミがそんなに怖がる事では無いだろうが……。使えないんだから」
キッパリ、バッサリ。
「……いや、まぁ、そうですけどー」
「精霊魔法は素質が肉体由来だけあって使える人間が限られるからねぇ。結構血筋とかが物を言う魔法なんだよ」
「じゃあ、リョウヤ……ていうか忍者が全員精霊魔法を使えるって言うのもそうなんですか?」
「あー、いや……忍者は、特殊なんだよ。リョウヤは忍者を抜けたら精霊魔法を使えなくなってたろ?」
「え、ええ。確か、リョウヤは素質を失ったって……」
「忍者は……忍者という組織の由来によるんだよ。私から詳しくは言えないが……忍者である事が既に、ある種の”呪い”みたいなモンなのさ」
どこか沈痛な表情を浮かべる魔女。しかし―――。
「ボクも……一応忍者の端くれではありますが……。”呪い”だなんて思った事はありませんよ?」
にっこりと微笑んでみせるユイリの言葉に嘘はないようで。
「……アンタがそう言うんなら、あのジジイもちょっとは救われるだろーよ」




