4-5 黒装の魔女サマ直々の魔法講座
毒舌魔女による、『魔法知識がなくても大丈夫! なぜなに魔法ウンチク講座』? な話。
「そもそもだ、英雄クン。キミは”魔法の素質”ってのはどういう物だと思う?」
元々、魔法関連が得意じゃないライトだが、それくらいなら何とか。
「う~ん、その名の通り”魔法が使える体質”というか……向いてる体質? って感じですかね?」
その返答に魔女はまたもニヤリと笑う。
「まぁ、世間一般的な回答だね。
だけどね、魔法の素質ってのは本来、生きとし生けるものに皆備わってる物なんだよ。
で、さっきの抗魔体質の話だけど。抗魔体質の人間にも、魔法の素質はある事はある」
ライトが思いっきりジト目になる。曰く、何言ってんだこの人という感じだろうか。
「―――信じてないね。まぁ、そう思うのも仕方ない。
ただ、抗魔体質の人間に備わっている魔法の素質は、今のこの世界を遍く支配している魔法システムに適合していないだけなのさ」
「……適合していない?」
流石にポカンとしているライトに、魔女は微笑む。
「ああ。だから、もし万が一この世界の魔法のシステムが大転換を起こせば、今は抗魔体質だと言われて居る人間だけが魔法を使える様になるかも知れない。
まぁ、そんな事はまず無いだろうがね」
「じゃあ俺も、もしかしたら……」
「残念だが、それはない」
即座にきっぱりと否定されてライトが思いっきり暗い顔になる。
「キミは適合していないのではなく、本当に無い。ゼロなんだよ。
しかし、だ。逆に、皆にある物が無いってのは『特別』だとは思わないかい?」
魔女は面白いとでも言うようにニンマリと嗤う。
「―――嫌な特別だなあ、としか」
「ネガティブだねぇ……。確かにアンタには魔法の素質は全く、完全に、これっぽっちも無いが、常人よりも遙かに恵まれた肉体と強靱な精神力がある。
それはある意味、天が与えし物……”ギフト”なのさ」
「エリザベス様……」
それまで脇に控えていたユイリが控え目に口を挟む。
「ああ、はいはい。―――分かってるよ。
だからね、英雄クン。キミは魔法の素質がスッカラカンなのをそう嘆く必要は無いって事さ」
「……何だろう、この励まされてる様でそれでいて何故か鋭い悪意がグサグサ突き刺さってくる気分は……」
なんとも微妙な顔のライトに構わず、魔女は講義を進めていく。
「じゃあ、次は精霊魔法の話をしようか。
まぁ、こちらもそもそも素質がいるのは英雄クンも知ってるだろうが……。
厳密に言うと、精霊を見るだけの素質と精霊魔法を使う素質は違う物だ。
そして、他の魔法を使う素質ともまた異なっている。
ここが、他系統の魔法と精霊魔法が大きく違う所だ」
「じゃあ、初級魔法とか医療魔法、後は……何だっけ?」
横のユイリに聞くとすぐに助け船が。
「そうですね、古代語魔法と呪符魔法の作成時……でしょうか?」
「……それ、とかは全部同じ素質で纏めて使えるんですか?」
「ああ、そうさ。信仰が必要な神聖魔法以外は、仕組み的には皆同じだからね。
まぁ、個人の向き不向き、好き嫌いは多少はあるかも知れないがな。
一般人でも魔法の素質と呼ばれている物はあるから、覚えさえすれば扱える。
だが、威力や精度は各人の素質の高さに比例する。
だから、初級魔法で精一杯なんてのと世間で言う大魔法使いなんて差が出ちまうのさ」
「―――やっぱり一般人並みにでも魔法の素質欲しかったな……俺」
そこまで聞いていたライトの何ともやるせない一言がこぼれ落ちる。
「往生際が悪いねぇ、英雄クンは。さっきも言ったが、”犠牲の心血”のあの濃密な闇の気の中で倒れもせずに最後まで立ってたキミは、私としても結構な驚きだったんだよ?」
魔女としては、珍しく……恐らく数年ぶり位に他人を褒めた(つもり)のだが、褒められた当の本人は喜ぶどころかますます拗ねてしまって。
「未熟者は無い物ねだりなんですよ。既にある物はある物として、ない物は欲しくなるもんなんです」
「若さ故かねぇ……。そこまで分かっててもってのは。
じゃあ、話を続けるよ。
精霊魔法を使う為には、見る素質と統べる素質が必要になる。で、見るだけの素質持ちは意外と結構な数で居たりするんだ、コレが。
だが、統べる素質持ちは極めて稀だ」
「えーっと、ちょっと待って下さい。
そもそも統べるってどういう素質なんですか?」
「統べる素質ってのは、精霊を契約で縛り、使役する能力の事さ。
とは言え、最初の契約の時点で術者との信頼関係が無ければそもそも契約すら出来ないからねぇ?」
と、言った時に魔女は何故か、ユイリを眩しそうに見つめていた。
この傍若無人……(ゲフンゲフン)いや、剛毅な魔女をして、真摯な憧憬が隠った様な、不思議な視線だと、二人を見ながらライトは感じていた。
「あーっと、どこまで行ったか。途中で腰折られると分からなくなるよ……。
ああ、そうそう。統べる素質持ちだね。
で、この稀な統べる素質持ちにも、当然ながら優劣は存在する。そこいら辺のヘボい術者と、一応大魔法使いなんて呼ばれる様な術者だ」
「相変わらず、身も蓋もない言い方ですね……。―――いや~、流石はスタンのお師匠様ですよね」
とライトがそれまでの意趣返しとでも言いたげに話すと、即座に魔女はこう言って返す。
「人の事言えるのかい、脳筋英雄。十分イヤミの素質は持ってるじゃないか?」
ムッとした様な二人の視線が絡まる。
「変な所で張り合わないで下さい、エリザベス様!
ライトさんも、大人げないですよ! エリザベス様の口の悪さなんて最初からご存じでしょう?!」
睨み合っていた二人分の視線が自分に向けられて、今度はユイリが真っ赤になって「すみません……」と小さな声で謝った。




