4-4 謝礼の赤い石
元”犠牲の心血”を持って来ただけだった筈なんだけど……な話。
「全く、上がって来るだけでどんだけ掛かってるんだ……」
ダイニングセットにふんぞり返って文句を垂れているのは久し振り……でもない顔で。
「そんな事言われても……。ていうか、せめて階段とか付けてくれませんか?
最悪縄梯子でも仕方ないですけど」
エレベーターに乗れないなんて、次来た時も迎えに来て貰わなくちゃならないじゃないか……。
「え~~~。アンタだけの為にかい? メンドくせー」
バッサリ。いや、そうでしょうとも。ですけどね。
「でも、俺だけじゃないでしょう? 魔法の素質が無い人。えーと、例えば抗魔体質の人とか?」
ライトがそう言うと、魔女はこれ見よがしに大きなため息をついて見せた。
「名称が悪いのかねぇ? 世間一般的にそう思われてんのは……」
「どういう事ですか?」
はー、やれやれと言いたげに魔女はまたため息を付くとニカっと笑って見せた。
「さっきも言ったからな~。一回キチンと説明しておくかね。
―――ところで、アンタは何でウチに来たんだい、英雄クン?」
「ああ、忘れる所だった。―――ペシャワール氏のお孫さんの病気を治してくれたの、お二人でしょう?」
魔女はニンマリ、彼女は素知らぬ振りをするから。
「いや、まぁ……私はどっちでも良かったんだが、ユイリがな……。『可哀想じゃありませんか』ってあんまりにも言うもんだからな。
とは言え、その時も私は付いて行っただけだったんだぞ?」
「やっぱり、病気を治したのは忍者組織の技術なんですね」
「―――なんだ。お見通しか。
ま、そりゃそうか。こちとら人様から賢者だなんて呼ばれちゃいるが、研究分野が思いっきり偏ってるからな~」
「でもそれがとても凄いんですよっていくら言っても笑い飛ばされてしまうんです……」
ユイリと呼ばれた彼女が如何にも困ったものですと零す。
「で、お二人にペシャワール氏から預かって来たんです。―――これを」
と、ライトが出してきたのは大きな赤い宝石。そう、元”犠牲の心血”と呼ばれた呪いの石だ。
「うーむ。……見れば見る程『フツーの赤い石』になっちゃったねぇ?」
やれやれとでも言いたげな魔女に、ライトはため息を付く。
「まぁ、それが事実なんですけどね。一応まだ宝石としての価値はあると思うんですが……」
「で、なんだい? 氏からのお礼ってか」
「その通りです。俺はもう報酬を貰ってますからこれはお二人でどうするか決めて下さい。
俺は配達を頼まれただけで、その後の事は何も言われてませんから、売るなりなんなりして頂いても構いませんので」
と、若き英雄クンは言うものの。
「氏としては、孫の病気完治の謝礼なんだろうが……私はホントに付いてっただけだしねぇ?
―――そうだ! ユイリ!」
「は、はい?!」
ライトの分と、魔女の分の新しいお茶を入れにキッチンへ行っていた彼女の名前を呼ぶ。
「コレ、アンタが持ってなさいな」
「え、えええ?! ボ、ボクですか?!」
「……ユイリさん、ボクっ娘なんだ。意外!」
突然話を振られて焦るユイリと、変な所に引っかかるライト。
「あの子の病気を治したのは、アンタだしね。これはアンタが貰うべきだろ? それとも、英雄クンと分けるか?」
「「分ける?」」
二人分の声が返ってくる。それにしても、息ぴったりだねぇ。この二人、結構いいコンビなのかも
知れないわね……などと魔女は思いつつ。
「そう。この件に主に関わってたのは、アンタ達二人なんだし。 丁度良いじゃないのよ?
よ~し、決めた! さて、じゃあどーすっかな~。取り敢えず、割るか」
と、魔女は手の中の宝石を人差し指で押さえて暫しの間瞑目した。
すると、赤い石は音もなくすっぱりと二つに切断されて左右に分かれる。が、真っ二つと言うにはあまりにも両者の大きさが違いすぎる。
大きい方が3分の2、と言った所だろうか?
「またビミョ~な大きさに割りましたね」
ライトがさもやれやれといった感じで意見を述べるが、魔女はしれっとしたもので。
「何言ってるんだい。割ったのは私じゃないよ。この石が自分で割れたのさ。今のはそういう術なんだから」
「……そんな呪文あんの?」
コソコソとライトは隣にいるユイリに確認してみる。
「えっと、多分アレかなーって言うのは、はい、ありますヨ? 精霊魔法の、土系呪文です」
一応、あるらしい。いや、でも待てよ?
「でも確か、精霊魔法って一種類しか使えないんじゃないんですか?」
「そこいら辺のヘボい術者ならな。一番相性の良い精霊一種類だけと契約してそれだけしか使えないな」
「じゃあ、ヘボくない術者はどうなんですか?」
「そりゃあ……って、じゃあ色々纏めて説明してやろう。黒装の魔女直々の魔法講座と行こうか」
魔女はニヤリと口の端を持ち上げた。




