4-3 魔女の住処のエレベーターに乗れない脳筋英雄?
黒装の魔女の住処は、魔法の素質が無いとエレベーターにも乗れないそうです。
大変ご無沙汰しております……。と言う訳で、久々に更新デス。
「成る程ね……。大体の事情は分かったよ。まぁ、多少はあの赤毛のタレ目にも聞いてはいたんだが。
ああ、そりゃそうと……。ウチのバカ弟子は元気かい? ―――逢ったんだろ?」
すっかり綺麗に片づいた部屋で、ユイリが入れてくれたお茶を飲みながら、黒装の魔女は一通りの話を聞くと、大きく一つ息を吐き、話題の転換を図った。
「ええ、まぁ……頼み事を1つ、されました。でもあれ以来はジュウロウ預かりになっていますから逢えていないんです」
「ふぅん。アンタでも逢えないのか。それは意外だった……。そこまで公私混同はしてないって事なのか?
まぁ良いさ。で、アレの仇……奴の居所は掴んであるのかい?」
そして漸く、今回の本題へと話を進める。
「―――その辺はぬかりなく。その時が来れば、万全の体制で臨めるよう、里を挙げて鋭意準備中ですが……」
珍しく言葉を濁すユイリに、魔女は形の良い眉をひそめる。
「? 何か不都合でもあんの?」
何せ、恐ろしく用意周到なのがかのジジイ率いる組織だ。その組織ですら対しきれないとでも
いうのだろうか?
「現在、奴は……肉体を得た事でこの宇宙でも随一の魔力を誇る存在になっています。
その魔力を振るわせない為にはかなり強力な無精霊結界と、抗魔力力場とを広範囲での同時展開が必要になるかと思われますので」
「ああ……人材か。なかなかキツイね。奴を封じ込めるには一級品の術者が複数必要になる、か。
まぁ、それさえクリアになるなら魔法の使えない奴なんて、はっきり言ってその辺のチンピラ以下だからねぇ」
そのなんとも身も蓋もない言い方にユイリは困ったように笑うが、ふと懐かしい人を思い出したようだ。
「一人、見つかれば手を貸してくれそうな人は居るんですが、彼はいつも此方に居るとは限らないんですよね……」
その表情がとても柔らかいのを魔女は見逃さない。ニンマリと黒い笑みを浮かべて、それこそ芸能ネタを追いかけるレポーターのように身を乗り出す。
「おやおや、隅に置けないねぇ? アンタが想うのはたった一人だけかと思ってたけど?」
「ああ、いえ……彼は、なんというか―――同志……みたいな感じでしょうか?
一緒に居たのはほんの少しの間でしたけど、初任務を手伝ってくれて……。
もし彼が居なかったら、あの任務はどうなっていたかも分からないくらいだったんです」
どうやら、恋愛感情と言う訳ではなさそうだ。しかし、ユイリがそこまでの信頼を置く人物に魔女としては珍しく興味が湧いた。
「へぇ~。そいつ、魔法使いなのかい?」
もしも魔法使いなら、例え有名では無くとも、名前くらいは自分の耳に入っていそうな物なのだが―――?
「……魔法も存分に使える、と言った方が良いのかも知れません。『色んな所に放り込まれるから、必然的に色んな事を覚える羽目になっちゃったんだ』なんて、当人は言ってましたけど」
どうやら、単なる魔法使いという訳でもなさそうだ。後でジジイにでも探りを入れてみるか……と魔女は頭の隅に書き込みながら、もう少し根掘り葉掘り聞いてみる事にした。
「ふーん。アンタがそこまで言うんだ。出来たら私も一度は逢ってみたいもんだねぇ。で、名前は何て……」
リンゴーン♪
「客か―――? 珍しいな」
この魔女の塔に侵入者―――いや、客が来ると反応する様になっているベルが鳴り、傍の空間に映像が映し出される。
「おや? これは……英雄君じゃないか。この間の礼にでも来たのか? 律儀だねぇ、感心感心~♪
―――って……マズイな。英雄君だけだとエレベーターが作動しないかも知れない……」
「あ、では迎えに行きましょうか?」
「悪いね、ユイリ。頼めるか? まさか抗魔体質でもない魔力がゼロなんてのが来るのを想定して無かったんだよ……」
やれやれと言いたげに魔女が溜息を付くのを見ながら、ユイリが席を立った。
* *
魔女の塔まで辿り着いたは良いものの、階段らしき物も何もなく、ガランとした空間しかない。
どうすりゃ良いんだろうかとつらつら考えていると、光る円盤のような物が降りてきた。
「もしかして、エレベーター……?」
誰かが乗っているらしい。その人物が誰か分かった途端に、ライトの心臓がドクンとなる。
降りてきたのは、間違いなく先日の彼女だった。あの”犠牲の心血と”対峙していた、彼女。
「初めまして、ライト・エルズワースさん。こちらへどうぞ……」
そう言えば、声は初めて聞くけど、落ち着いた良い声だなと感じる。
「あ、ど、どうも、初めまして。こっちにいらしてたんですね。丁度良かった」
お陰でペシャワール氏からの御礼の件であの時の彼女を……と、去月にわざわざ探して貰わなくて済む。
「その……先日は、ご迷惑をお掛けしてしまって本当に申し訳ありませんでした。
お連れの方はご無事だったでしょうか?」
とても恐縮そうに彼女が頭を下げる。
「―――連れ……? ああ、アイシャの事か。アイツならピンピンしてますよ。何故かウチのクルーになる事になっちゃったんで、仕方なく申請中なんですけどね。
それより、俺の方が随分助けて貰いました。あのナビのお陰で、俺は怪我一つありませんでしたから。ありがとうございました」
と、こちらも頭を下げて礼を言っていると何とも不機嫌そうな天の声が降ってきた。
『おーい、そんな所で頭の下げ合いなんてしてないで、とっとと上がっておいで。
ああ、いいかい、ユイリ? 英雄君の腕でも何処でも良いが、必ずどっか掴んどくんだよ?
でないとエレベーター乗れないからね?』
「エレベーター乗れない???」
ライトには一部謎な言い回しがあった。
「あ、その……このエレベーターは、魔法の素質がある人しか乗れない造りになってまして、それで」
がくっ。
「え~。こんなとこにまで素質か……。なんか、凹むなぁ……」
ライトの顔が思いっきり情けない表情になるが、
『ああもう、グダグダ言ってないで、さっさと上がってこい、脳筋英雄! その辺もちゃんと説明してやるッ』
もう一丁、追い打ちが掛かる。
「の、脳筋……。的確すぎて更に傷付くって、それ……」
「い、行きますよ、ライトさん!」
これ以上遅くなっては何を言われるか分からない。ユイリの焦った声と同時に腕を掴まれ、光る円盤は音も無く快適に動き出した。




